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ペイジュへ その2

 夜通し見張りをするために残ったガッシュ達と別れて、私は若い男性騎士が走らせる馬車に乗って受付嬢と一緒に冒険者ギルドへ向かった。


 馬車が走り出すとすぐに、受付嬢がブツブツとひとり言を呟きながら指を折り始める。


 どうやら運搬等にかかる大まかな段取りや費用について早速計算しているみたいだ。


 今回は荷物の大きさも街までの距離も段違いだし、魔物が出る場所からの運搬なので護衛も必要になるはず。


 お肉が痛まないうちに作業を終わらせないといけないので急ぐ必要もある。


 そのためにはかなり多くの人手を一時(いちどき)に集めないとならなくて、同時にお金も沢山動くはずだ。


 以前ラザーニでブラッドベアーを運んでもらった時とは比較にならないくらい大変な事は間違いない。


 う……。


 一生懸命計算してる受付嬢を眺めていたら、寝不足で疲れた顔のルイズを思い出してしまった。


 いやいや、あれは半分くらいはルイエさんのせいで、全部が全部私のせいってわけじゃない……はず。


「あの……」


「はい? なんでしょうか」


 指を折った手をそのままに、受付嬢が顔をあげる。


「邪魔してごめんね。1つ提案っていうか。あんまり難しそうならお肉は諦めて、処分してもらっても構わないからね。他の素材と違って急ぐ必要がある分、大変だし」


 鮮度に関わるお肉を諦めるだけで、計画にも実行にも大幅な猶予ができる。


 大分楽になるはずだ。


 勿体ない気持ちはあるけれど欲張りもよくないしね。


「そうですね。ですがなんとかなると思いますよ」


「そうなの? 無理してない?」


「はい。食肉の加工に関しては必要な人手は既に揃っていますから、あとは追加分の契約延長の交渉だけです」


「ちょっと待って。揃ってるってどういうこと?」


「実は先週もキングデスストーカーの買い取り依頼があったんですよ。運搬の方は王国騎士団と宮廷魔術師団の方々がやられましたけどね」


 先週? 騎士団に魔術師団?


 あっ! ひょっとしてタイガが倒した奴かな?


「その時に解体と加工のための人集めにマスターが急遽奔走しまして、お肉の加工については既に人を集めて作業を進めているところなんです」


「そんな大変な時に追加でもう1匹ってなったら、余計大変なんじゃない?」


「特に問題ないかと思いますよ? マスターは職人から主婦まで、かなりの人手を集めていますから。物量作戦で作業はかなり進んでいるようです。おそらくティアズさんのキングデスストーカーが運び込まれる頃には、今の作業は終わっていると思います。それに交渉はマスターの十八番ですからね。契約の延長も問題ないでしょう」


「そんなに簡単に人って集まるものなの?」


 エルガンはすごく大変って言ってたけど。


「選り好みをしなければ、続く物価高騰のせいでこの街にも生活費にすら困っている人が溢れてますからね。マスターは、包丁を握ったことがないような人でも単純作業なら半日もやり続けていれば嫌でもコツが掴めるはずだと言って、未経験者には1つの単純作業に集中させて進めているようです。逆にそこそこの経験者は職人の下につけて指導させて、適性値の高い作業へと配属を変更しながら作業のピッチをあげてもいるようですよ。日々彼等の練度は上がっていて、作業の精度も速度も高まっているそうです」


「なんかすごいね」


 確かに解体の全行程をひとりでやるには熟練の技術がいるけれど、その中の1つの作業に特化するならすぐに必要な技術を身に着けられるかも。


「うちのマスターは魔物と戦うことは出来ませんが、そういう方面に関してはちょっとすごいんですよ」


 受付嬢が微笑む。


「ただ外殻の解体は専門の設備と職人の手でなければ出来ませんから、解体場の指揮を取りつつ、今はそちらの方の交渉で走り回っている所ですね」


 ギルマスはてっきりやりたくなくて受付嬢に私の試験官を押し付けたと思い込んでいたけれど、忙しいっていうのは本当だったのか。


「そうなると一番厄介なのは運搬だね」


「そうですね。大きさが大きさですから。ですからそこはマスターに国王さまとの交渉を頑張ってもらいましょう」


「もしかして騎士団と魔術師団に運んでもらうとか?」


「はい。今回に限っては交渉の余地は十分にありますから、きっと国王さまの承諾を得られると思います」


「随分と自信がありそうだけど、何かあるの?」


「ええ。交渉するのがマスターというのもありますが、今回冒険者ギルドが無茶な量の食肉の買い取りを引き受けた背景には、この国の現状を回復したいという国王さまの()っての願いがあったからなんです」


 ギルドがお肉を沢山買い取るとキューチェガルのためになる?


「ごめん。何がどう繋がるのか全然わからないよ」


「つい先日、この街の商人達に商業ギルドを通じて国王さまから通達が発せられた事はご存じですか?」


 私は首を横に振る。


 なんせ街に出たのは1週間ぶりだもん。


「内容は黒薔薇盗賊団解散の一報と、それに伴って引き上げられてきた物価を可能な限り早急に適性値へ戻せ、というものです。ですが一度高騰してしまった物価高を元の位置まで引き下げるには年単位の長い時を要します。商人とは自分の利益を最大限にすることを信条とする者ですし、現在の価値で商談が成立してしまっている契約もあるでしょうから、善良な商人と言えどもいきなりという訳にはいきません。ですが一部の貧困層は既に毎日の食事にも困窮するほど追い込まれてしまっているのが現状です」


「つまりお肉はそういう人達に配給するってこと?」


「もちろんそれもありますが、マスターが言うには、狙いはあくまでも物価の引き下げのようです。さしあたって命に係わる食料品の値下げを狙っているのだろうと。王家の名の元で相場より安いお肉を市場に並べ続けることで、価格競争を起こして値下げを促すつもりなのでしょう。王家に品質が保証されている上、安く買えるのならわざわざ高い物を買う人はいませんからね」


「なるほどね。だから売る物はあればあるだけいいと。でもちょっと無理のある計画じゃない? すごい量のお肉なのは間違いないけど、王都だけでも何万人もの人が住んでるよね。安く売るなら行き届かなかった人達も手に取れるようになるわけでしょう? 何か月もしないうちに売り切れちゃいそう。それに王都だけでやっても効果も薄いだろうし、転売する人も出るんじゃないかな?」


「そうですね。私もそう言いました。ですがマスターはそれでいいと言っていました。狙いは価格の適正化に一石を投じるためであって、これ自体が目的ではないだろうと言うんです。王家はこれだけのキングデスストーカーのお肉を持っているんだぞ、と商人達に知らしめることが出来れば十分で、本命は大量に抱えているキングデスストーカーの各種素材の方だろうと言っていました」


 う~? 価格競争で値下げさせるのが目的じゃなかったの?


 なんかもうこんがらがって来た。


「……ごめん、もう少し教えてくれる?」


 受付嬢が私に共感するように微笑んだ。


 ひょっとすると彼女もギルマスと同じようなやり取りがあったのかな?


「つまりこういう事だそうです。聡い商人なら王家の目を盗んでまで目先の利益を追うよりも、積極的に協力の姿勢を見せる事で、王家が大量に抱えているであろうキングデスストーカーの素材の販売委託権を得る方がお得だと考えるはずだ、と」


「あー……。国を立て直すには沢山お金がかかりそうだもんね」


 配給するお肉だって元は無料ってわけじゃない。


 倉庫で腐らせるよりも売ってお金に変えたいよね。


「Aランク級の魔物であるキングデスストーカーの素材は、この砂漠の国でしか手に入らない希少な素材です。用途は鉄並みに広いですが、高ランク冒険者の武具や一流料理人が使う調理道具、貴族の屋敷を飾る芸術品と、特に国外では非常に高価な品物ばかりです。その売買で生まれる利益は相当なものでしょう」


「なるほどね。ようやくわかったよ。つまり王様はキングデスストーカーの素材を餌に、大商会に価格正常化の手伝いをさせるつもりなんだね」


 商人自身が意図して価格を下げるのなら、市場を壊さずにこれ以上上手くやれる適任者もいない。


 大商会が率先して動けば、キングデスストーカーのような大きな商売に手を出せないような個人店や小さな商会は、その大きな流れには逆らえずに飲み込まれるしかない。


「そういうことみたいです。物価に合わせて関税を重くする方法もありますが、強硬手段に訴えては隣国や商人達の不満を買いますからね。彼等自身の利益追及と競争によって自発的に値下げを促す狙いだろうと、マスターは言っていました」


「はぁ~。みんないろいろと考えてるんだねぇ」


「フフフ。そうですね」


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