サラとダンジョン その2
当初3部構成で前中後だったのですが、4部構成になりましたので前日に投稿したタイトルの『前編』は『その1』に変えました。
前方から沢山の、金属を叩くような賑やかな音が近づいてくる。
「なんかこっちにくるよ」
「そうねぇ……あれは骸骨剣士? いっぱいいるけどぉ」
100体くらいいそうな武装した骸骨剣士が、鎧を骨で鳴らしながらこちらに向かって歩いてくる。タイガが虎の状態で姿を現した。ここは手数がいるもんね、作戦Cかな。
骸骨剣士は単体だとCランク討伐依頼相当になるけど、数匹の群れの場合はパーティ推奨になる。だからこれ程の数ともなればBランク、もしくはそのパーティ推奨相当になるんじゃないかな? いずれにしても私達にとっては恐れるほどの相手ではない。それに久々の人型の魔物だ。これは胸が高鳴る。
「えへへ。これは沢山試せそうだ。行こう!」
「おっけ~」
「やれやれ、また始まったぜ……」
私達は3手に別れて走り出した。
サラが腰に下げた剣を抜きながら一閃すると、先頭を走っていた2匹の骸骨剣士が胴体を真っ二つにされて倒される。彼女は魔力図を構築しながら、そのまま集団の中へ斬り込んで行った。
タイガも魔力図を構築しながら爪を振るっている。あの魔力図は……何度か観た事がある模様に似ている。風の魔法かな? ほどなくして発動された無数の風の刃に刻まれて、複数の骨が崩れ落ちる音が響きわたる。タイガの魔法は対複数で強いなぁ。
私を取り囲む骸骨剣士達によって振り下ろされる剣を避けながら、2人を観ていた私もそろそろ仕事をしよう。骨の足に魔法を掛けて力を込めて足と杖で払う。殴る。払う。
どれも不恰好に転倒する。上手くいかない。大したダメージもなく、転倒した骸骨剣士が起き上がってくるたびに試行錯誤を繰り返していると、そのうち首の骨が折れて動かなくなるので、そうしたら次の新しい骸骨剣士達で試していく。
「う~ん、難しいな。もう少し力を抜くべきか、『つるつるの魔法』の強さを変えるべきか……」
私は王都の冒険者ギルドでハートンの仲間を綺麗にズッコケさせてからというもの、人型の魔物をみるといかに美しくズッコケさせられるか、その力加減について試行錯誤を繰り返していた。
――なぜなら、もう一度あの充足感を味わいたいからだ。
足元に骨の山がいくつも築かれる頃、私の周りにいる骸骨剣士が数えられるほどに減っていく。
「むー、まずい。残りあとわずかしかいない。もう少しで出来そうなのに~……」
貴重な実験台……もとい、魔物だ。1匹1匹丁寧に転がせていく。
「いつまでも遊んでんじゃねーよ」
既に他の骸骨剣士を倒し終わったのか、タイガとサラがこちらに歩いてきた。
「遊んでないよ。私は真剣だよ」
タイガの野次に背中で応えながら、最後の1体となった骸骨剣士の足に魔法をかけて払う。くるくる回って頭頂部を地面に突きたててズッコケた。その足はピーンと伸ばされている。おお! やっと出来たっ!
「やった! タイガ見て! これだよっ!!」
「何がだ。全然わからねぇ」
興奮する私とは対照的にタイガは冷ややかな態度だ。どうやら猫には美というものが理解できないようだね。
「ねぇ、サラならわかるよね? この芸術的な美しさ!」
「えぇ~!? ごめん、わかんないかもぉ」
むー……。私のこの美的感覚は支持を得られなかったようだ。
それは残念なことだけど、ほんの少しだけコツを掴めたような気がする。
「もっと骸骨剣士出てこないかなぁ。もう少しで完全にコツが掴めそうなのに」
「ふん、お前に玩具にされる魔物が不憫だぜ」
「ちょっとぉ、人聞きの悪いことを言わないでくれる?」
話しながら骸骨剣士の頭蓋の中にある魔核を集める。体は骨だし、装備品は劣化しているものが多いので基本的には魔核くらいしか価値のあるものがない。とはいっても、魔核だけでもそこそこのお金になるけどね。ただ、たまにレアな武具を身に着けている固体がいたりするので、そういう場合はちょっとしたお金になるらしいんだけど。
「こんなにいたのに、当たりなしねぇ」
「サラも? 私の方も魔核だけだったよ。タイガは?」
「ふん。これを見ろ」
タイガが示す場所には、美しい装飾の刃が輝いている剣が1本横たわっている。
「なんだかすごく綺麗な剣ねぇ。これはひょっとすると当たりかもしれないよぉ?」
サラが近づいてそれを手に取ろうとしている。だけど刃に見えるあの魔力図、何だか嫌な予感がする。
「待って、サラ。それに触らないほうがいい気がする」
「え、何か言った?」
サラが剣を手に持った瞬間、その刃に見えていた魔力図が発動して黒い青く光る魔力が溢れ出し、彼女の持ち手を伝って頭へ伸びていく。
「あれ? 何で!? この剣、手から離れないよぉ! ああっ!? ああああっ!」
剣を握った右手を振り回すサラの頭を覆うように、魔力がじわじわと広がっていく。
「タイガ、それ呪いの剣じゃないの!?」
「あ? そうなのか? 微かに魔力を感じたが、魔法の剣じゃねーのか」
「だって……わっ!」
サラが振るう輝く剣の刃をギリギリで避ける。
「ティ、ティア! 体が勝手にっ、ぐうッ、ぎぎぎぎッ」
「サラ! どうしたの!?」
「ぎぎッ。に、逃げて、ぐッ、ぎぎぎぎ」
何かの力に抵抗しているのか、体を震わせているサラ。その頭に纏わりついた魔力が怪しげに青く光ると、蠢く魔力の隙間から時折見えるサラの目が真っ赤に染まっていく。
すぐにサラの体の震えが収まった。焦点の合わない真っ赤な目でこちらをみやると、脱力したように肩を落とした瞬間、サラから腹の底が冷えるような殺気を向けられる。
「ぐ、ぎぎぎぎぎ」
「や、やっぱりこれ、完全に呪われてるよ!」
「ふむ、いつもと様子が違うな」
「違い過ぎるよっ! わからないけど、ひょっとして身体を乗っ取られてるんじゃ!?」
タイガには見えていないんだろうか? 彼女の頭に纏わりついている魔力が、禍々しい形の兜のようになっているのを。
「ぐぎ、ぎぎぎッ!」
サラが輝く剣を構えながら間合いを詰めてくる。繰り出される剣撃を杖で弾き、受け流す。
「まぁお前なら魔力図を壊せるし、なんとかなるだろ?」
「サラはBランクなんだよ!? そんな簡単に、わっ!」
「ぎぎッ、ぎぃぃぃぃッ!!」
剣先が見えないほどの速さでサラが連撃を放つ。腕と柄の動きを読んで、なんとかその全てを杖で弾く。私と彼女の間にいくつもの風切音と衝撃音が一瞬で響き渡る。
「くッ、速いっ! 受けるだけで精一杯で、魔力図に手を伸ばす隙なんてないよ!」
タイガは観えないからわかってないんだろうけれど、魔力図は刃にあるんだよ? それを掴むということは、振り回される刃を素手で掴むようなものだよ。そんなの格下相手でも難しいのに!
「ちっ、しょうがねぇ作戦Bだ」
タイガが私の背中へ消えると後ろから言う。
「剣撃は俺が弾く。お前が呪いの魔力図をなんとかしろ」
「やってみるけどさぁ、簡単に言って欲しくないんだけど。わかってると思うけど、サラの体を傷つけたりしたら駄目だからね?」
「あ? 腕を斬り飛ばせば話が早いだろう」
予感はしてたけど、やっぱりわかってなかったようだ。
「駄目だよ! そんなことをしたら、サラがこの先冒険者としてやっていけなくなっちゃうよ! ってうわわっ!」
サラの無数の剣撃が青く光るタイガの爪に連続して弾かれる。
「ちっ、面倒臭ぇな」
「だから言ってるでしょ、簡単じゃないってっ」
タイガが剣撃を弾いている間に、私はサラの手に『つるつるの魔法』をかけてみる。が、魔力図から伸びる魔力によって、サラと繋がっているせいか剣を落とさせる事が出来なかった。
「むー、やっぱり駄目か。あれってエルガンが使っていた魔力で固定する方法に似ているもんね」
今度はサラの足に『つるつるの魔法』をかける。
「ぎぎぃッ!?」
サラが盛大にすっ転ぶが、転びながらも剣を振るってくる。私に当たりそうな剣撃は全て、タイガが爪で弾き飛ばす。
意識がないからか、操られているからか、転倒のダメージも気にせず出鱈目に剣を振ってくる。今のタイガの爪の射程は正確にはわからないけど、下手に近づいたら予測外の動きに足を斬られそうだ。
「なんかこう、手の動きを止めるとか、拘束するような魔法はないの?」
「ねーよ。大体、殺す以外の魔法が必要か?」
「いま必要なんだけど?」
頼みの綱のタイガの魔法も駄目か。さて、どうしたものか……。
「ぐ、ぐぎぎぎ……」
サラがぬらりと起き上がってくる。
「お前があれこれ条件つけるからだろーが。四肢を切り飛ばすなり、殺すなりすれば済む話なんだぜ」
「当たり前でしょう、サラは一緒にダンジョンに潜る冒険者仲間なんだよ? そんなこと出来る訳がないよ!」
「あ? 仲間なんか不要だろ。ぐッ、現にこうしてややこしくなってるじゃねーか!」
サラが放つ剣撃を、爪で弾きながらタイガが言う。
「タイガ……。それ、私にも同じ事を言うの?」
「…………ちっ、2人がかりならこいつひとり殺すのは簡単なんだぞ。くそっ、お前の言う事はいちいち面倒臭ぇ!」
タイガがなにやらぶつくさ言っているが、いまはそれどころじゃない。『つるつるの魔法』で地面へ縫い付ければ足止めは可能だけど、それじゃ解決にはならない。刃についた魔力図さえ壊せればいいんだけど、一番わかり易いその解決方法は最も困難ときている。
日を開けて読み返すと加筆・修正したくなるんですよね。
ある程度の投稿頻度を保つために10話程のストックを維持するようにしています。
11話目が出来たら1話目を投稿する、みたいな感じです。
今回、ストック中の話数が増えたので明後日までは、また毎日投稿したいと思います。
丁度話の区切りも良いですし。