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サラとダンジョン その1

 光る苔にぼんやりと照らされるダンジョン内を、前回よりも深い階層へ向かって階段を降りていく。

「結構降りたけどまだ先があるんだね。このダンジョンって一体何階層あるんだろう?」

「ダンジョンの深さはいろいろだからねぇ。潜ってみないとわからないよぉ」


 前回、キングアイアンゴーレムを討伐したのが10階層あたりだったんだけど、いま私達は20階層にいる。このあたりになると魔物が強いので、他の冒険者に遭遇することは殆どない。稀に出会うことがあっても、みんなそれなりの人数のパーティを組んで挑んでいるようだ。私達のような少人数は珍しいのか、すれ違うと妙な注目を浴びることがある。……決して、リーガンが言っていた噂のせいではないはずだ。


「ティア、いつも私に付き合ってくれてありがとねぇ」

「突然どうしたの?」

「だってぇ、私って運がないでしょ? そのせいでみんなパーティを組んでくれないのよぉ」

 あー、最近ではすっかり慣れたけど、毎回死にそうな思いをするもんね。だけど、


「えへへ。私からすると、Dランク程度の小娘とこうしてダンジョンに挑んでくれるサラにこそ、お礼を言いたいけどね!」

 幸運にもサラと出合ったのでその機会はなかったけれど、もしも冒険者ギルドでダンジョン探索パーティを募集していたら、きっとそう言われて誰からも相手にすらしてもらえなかったはずだ。


「けどぉ、ティアは学生さんでしょう。学園のお休みの日くらい、王都の街で遊びたいんじゃないの?」

「本業はこっちなんだけどね。でもそうだねぇ、そのうち王都見物は行ってみたいね」

「でしょお? 私は助かってるけどぉ、あんまり無理しちゃ駄目よぉ?」

 学園に滞在中の生活費くらいはサラのおかげでもう十分以上に稼げているけれど、この先何か手がかりがわかって旅を続ける場合に備えて、少しでも資金を貯めておきたいんだよね。


「うん、無理はしないよ。だけど私も助ってるからね。サラがパーティを組んでくれるいまのうちに、なるべく稼いで実績も積んでおきたいんだ」

「そっかぁ、ティアってギルドの査定ではDランクだもんねぇ。明らかにBランク以上の実力があるのに」


 サラは苦笑いで言うけれど、Bランク以上か。彼女は数ヶ月前にBランクになったばかりらしいけど、私の目から見ても、明らかにリーガン達Cランクの実力を凌駕している。もし模擬戦闘をしたら勝てるだろうか? これまでダンジョン攻略を共にする中で観てきた、実戦で磨きあげられたサラの剣術と多彩な魔法。少なくとも苦戦を強いられることは間違いないだろうなぁ。


「それね、ルイズが規則だから駄目なんだって。だけど実績の面で特別に優遇してくれるみたいだし、サラの事も含めて、この恵まれた幸運を手放す気はないよ」

「私が幸運? ふふっ、ティアって本当、変わってるよぉ」

 そう言ってうれしそうに笑う。変わってるかなぁ?



 雑談をしながらも、時折襲ってくる魔物を蹴散らしながら宝箱を探して階層内を探索していく。

「サラはここ以外のダンジョンにも潜った事あるんだよね。他のダンジョンもこんな感じなの?」

「行った事があるのは攻略済みだけどぉ。そうねぇ、迷宮はまた別の趣きがあるけど、ダンジョンの中は大体こんな風な、洞窟! って感じの景色よぉ。だけどぉ、入り口には宿泊所や食べ物屋のお店が沢山あって、商人がお土産と一緒にダンジョン内部の地図を売ってるから、それを見れば初めてでも迷う事はないよぉ。それに先駆者達の手でトラップも殆ど停止してるから、ここより全然楽ちんよぉ」

「そうなの!? なんだか賑わってて観光地みたいだね」

「低階層は見学ツアーもあるから、観光地みたいなものよぉ。深く潜ると魔物だらけだけどねぇ」

 う~ん、本当に観光地だったようだ。このダンジョンも攻略されたら、王都のギルドに観光ツアーの護衛依頼の仕事がでるようになったりするんだろうか。


 考えながら歩いていると、2つに分岐する通路の影に木製の箱がぽつんと置かれているのに気づく。

「あ。ほら、あそこに宝箱があるよ」

「おっけ~」

 指を差して場所を教えるとサラが宝箱を開けに行く。私とタイガは少し離れたところでそれを見守る。これは何度か彼女とダンジョンに潜っているうちに決められた私達のルールだ。


「あけるよぉ~」

「うん、いいよ~」

 宝箱が開かれると、中から黒い青く光る魔力が溢れ出す。それは彼女の背中に集まると、一瞬で魔力図が構築・展開されて発動する。

「あぁ~、ち、ちからがぁ~」

 とろけるようにへちゃりこむサラ。これは脱力のトラップかもしれない。私はすぐに近づいて原因となっている魔力図を引きちぎって破壊する。


「サラ、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。もう治ったよぉ」

 言いながら元気良く立ち上がる。

「なんだかサラにだけ危ない橋を渡らせてるよね、私」

「ティアは呪いを解いてくれるけどぉ、ティアが呪われた場合、私には助けられないし」

「そうなんだけどさ」

 わずかな間とはいえ、トラップの効果を受けることになるんだよね。いまみたいな解除すれば済むものならともかく、怪我をしたりすればそれは私にもどうにも出来ないから、彼女がリスクを背負っている事に違いはないんだよね。


「箱を開ける前に罠を解除できたらいいのになぁ」

「そうねぇ。魔法でそういうのがあるって話を聞いたことはあるけどぉ……」

 何気なく呟いた言葉にサラが何かを思い出すようにそう返してきた。

「え、あるの?」

「私も聞いた話だからぁ。まぁあったとしても、魔力図がわからないけどねぇ」

「う~ん。タイガならわかる?」

「あ? 知らん」


 駄目元で聞いてみたけれど、やっぱり知らないか。以前に眠りの魔法を『あ? そんなまわりくどいもん、使ったことねぇ』と言っていたしね。タイガにとって宝箱の罠を解除する魔法は、そんな部類になるんだろう。それなら学園の図書館で調べればわかるかな?


「魔力図がわかればサラなら使える?」

「あんまり難しいのは駄目よぉ」

 彼女はそういうけれど、以前使ってみせた魔法『火炎の衝撃ブレイジングインパクト』もなかなか難しい魔法なんじゃないだろうか。遅延発動とか組み込まれていたし。


「もしかしたら学園で見つかるかもしれないし、一応気に留めておくよ。それで宝箱には何が入っていたの?」

「これよぉ」

 サラが小さな小瓶を宝箱から取り出した。中には赤い液体が入っている。

「赤いから元気のポーションかぁ。外れだね」


 このポーションは飲むと『ちょっと元気になる薬』だ。ちょっと元気になるだけでこれで病気が治ったりする訳ではない。今日は疲れたな~ってときに1本飲むと、ちょっとだけ元気になれる、そんなものだ。まぁ死にかけの状態で飲んだら気休めくらいにはなるかもしれないけど。あと、サラがいうには大人が夜に使うケースもあるとかないとか。なので高いものではないんだよね。


 そもそもポーションという時点で、どれもこんな程度のものだ。ちょっと魔力を回復してくれるとか、効果はないけどなんかおいしい味がするだけとか。解毒作用のあるものや、麻痺や脱力などの悪意のある効果を中和してくれるようなものが出たら、少しお金になるくらい。


「エリクサーだったら、城を1つ軽く買えるくらいのお金になるんだけどねぇ」

「エリクサー?」

「伝説のポーションよぉ。どんな傷も病気も瞬く間に癒すらしいよぉ」

「えっ! それってすご過ぎじゃない!?」


 ルイエさんの話だと、万能と言われる魔法でも擦り傷程度の怪我すら治癒出来ないと言っていたのに。そんなものの価値が城1つは寧ろ安すぎる気がする。実際に城が1ついくらするのかは知らないので勝手なイメージだけど。でもそれを使う時と場所、相手によってはその価値は天井知らずになるんじゃないだろうか。


「まぁ~伝説だから。あるともないともつかない噂だよぉ。もしあったとしたら神器級は間違いないよぉ」

「じゃあ最奥の宝箱からもしポーションが出てきたら……」

「激アツよぉッ!」

 おぉ! それは高まる!

 このダンジョンはまだ攻略されていないので、最奥の宝箱から神器が出てくる可能性はまだ残されているのだ。


 次の宝箱を求めてダンジョンの奥へ向かって歩いていると、聞きなれた何かのスイッチが入る音が響く。

「今度は何だろうね」

「そうねぇ」


 地響きがして壁と天井に小さな穴がいくつも開いていく。私とサラは穴の空いた壁に向かって背中合わせに立つと、これから起こる事に備える。

「ん~、穴の中に矢じりが見えるよ」

「本当ねぇ、じゃあ逃げなくても大丈夫だよぉ」


 何度もトラップに遭っていると、それがどんなトラップなのかなんとなくわかるようになってくる。壁に穴が空く系はパターンが多くて、槍が伸びてくるものや棘が生えてくるもの、火炎が放射されるもの、毒煙が出てくるものなど様々だ。火炎や煙系の場合は逃げないと危ないけど、矢が飛んでくるやつは全部叩き落とせばいいだけなので、逃げなくても大丈夫という訳だ。


「タイガ、作戦Bでいくよ」

 返事の代わりにタイガが私の背中へ姿を消す。作戦Bとは、タイガが髪にもどって私が主導になって戦う方法だ。ちなみに作戦Aは私が足止めしてタイガが止めを刺すいつものスタイルで、作戦Cはそれぞれで各個撃破だ。


 穴が完全に開くと一斉に矢が放たれた。

 私は私の側を、サラはサラの側の、壁の穴から一斉に飛んでくる矢を一瞬で全て叩き落とす。天井から降り注ぐ矢はタイガが全て爪で弾き、私とサラの頭上を守ってくれる。こんなことを繰り返していると、木剣を振る速度もあがるというものだよね。尤もいま振っているのは杖だけど。


「ぐっじょぶ」

「ないす~」

 サラとハイタッチ。


「なんだかトラップもだんだん前に見た奴が出てくるようになったね」

「他のダンジョンでも同じトラップがあったりするしねぇ」

「え、そうなの? それってなんだか同じ人がトラップを作っているみたいだね」

「そうねぇ……考えたことなかったけど、言われてみると確かにそうね。ダンジョン生成の謎は諸説あるけどぉ。神様が創ったとしたらそれも納得?」

「神様ねぇ」

 そんなのいないと思うけどね。辺りに散らばった鉄の矢を踏みながら、しばらく歩いていくと開けたところに出た。


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