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王都の冒険者ギルド 後編

「クックック。土下座するならいまのうちだぞ?」

「言っとくが、俺たちは全員Cランクだからな。お前みたいな小娘が逆立ちしたって敵わねぇぞ? 大人しく非を認めた方が痛い思いをしなくて済むぞ」

「おらおらぁ、そこの娘と並んで2人共早く俺に土下座しろぉ~。ぶっひ。そうだ、俺の靴を舐めたら許すかどうか考えてやってもいいぞぉ~」

「ティ、ティアっ」


 この考えなしの4人はCランクだったの!? 私が知っているCランク冒険者といえばカブトにいちゃん達や、リーガン達だけど。どうやらランクと品性は結びつかないようだ。後ろからタイガが囁く。

「わずかだが殺気を感じたが。こいつら……殺すか」

「殺したら駄目だよ。Cランクらしいけど、やれるだけやってみるから。ギリギリまで手は出さないで」

「ふん。相手は殺る気かもしれねーぞ」

「……そうだね。街の外では実際にやってるのかもしれない。ここでそこまでするかはともかく、ちょっと性質(タチ)が悪い連中みたいだよ」

 ブリトールでの教訓もある。もしやるなら徹底的にだ。そう覚悟を決める。


「おい、何をぶつくさ言ってる? さっさと土下座して泣いて許しを請えよ、お嬢ちゃん。時間を稼いだところで誰もお前等を助けちゃくれねぇぞ。それともビビっちゃって声も出ないか? クックック」

「ほらほら、斬っちゃうぞぉ~」

 男のひとりが剣の切っ先をこちらに向けて来るので、それを杖でどかしながら、

「はぁ~。だからぁ、何度言えばいいのかな? 私達は何も謝るようなことはしていない。それよりもこの子を傷つけた事を謝りなさいよ、ハートン」


 抜き身の真剣をちらつかせて4人で囲んでも尚、私の態度に全く変化がないことに加えて、中年のハートンは名前を呼び捨てにされてイライラが限界を超えたらしい。

「ぶ、ぶひぃ! 小娘が俺を呼び捨てだとッ!! お前、いい加減に本気でキレたぞぉ!!」

「キレただなんて口から出るくらいなら全然キレてないよ。ハートンあんた、本気でキレたことないんじゃないの?」

 怒りを込めてハートンを睨み付ける。私の方がエンリを傷つけられて怒っているんだよ!

 その目を反抗的だと受け取ったのかハートンの目が怒りで血走ると、私に向かって剣を振りかぶる。その手に『つるつるの魔法』をかけて剣を落とさせてもよかったけれど、彼らの方が先に真剣で斬りかかって来たという事実を踏んでおきたかったので、あえて魔法は使わずに振り下ろされる剣を半身で避ける。


「やってくれたね、ハートン。なら覚悟はいいよね?」

「こ、この野郎ぉっ!」

 ハートンが振り下ろした剣を、私が避けた方へ向けて横なぎに斬り上げるのを屈んで避けつつ、『つるつるの魔法』をかけて踵側から足を払ってやる。

「なぁ!? げぶッ!」

 重たいハートンの体が1回転して背中から地面に倒れたところへ、間髪をいれずに隙だらけのおでこへ杖の一撃をお見舞いしてやる。

「ぶひぃ!」

 ハートンは白目で動かなくなった。あれ? 随分あっさり気絶しちゃうんだ。


「や、やりやがったッ。この野郎!! おい、こうなったらもうやるしかねぇぞ!」

「ちっ、大人しく言う事聞いてれば怪我しなくて済んだものをよぉ。お前が悪いんだぞ!」

「そうだ。これは逆らうお前が悪いんだ。素直に謝っておけば許してやったのに。怪我してから精々後悔しやがれッ」

 言いながら3人が私を取り囲んでくる。それにしても何なの、仕方なくやるみたいなその言い方は。自分達で事を荒立てておいて、ここにきて腰が引けるくらいなら始めから真剣なんて抜かなければいいのに。本当に考えなしな人達だなぁ。まぁ、どっちにしても私は正当な防衛として返り討ちにするだけだ。


「「「ハートン君の仇ッ!!」」」

 3人が同時に剣を振り上げる。いや仇って、殺してないよ? こっちの武器はガジの木の杖だし、ちゃんと手加減したもん。それにしてもこの人達本当にCランクなの? 動きにまるでキレを感じないけど。これならタイガの力を借りなくてもなんとかなりそうだよ。


 3方向から剣が振り下ろされるが避けるまでもなく私は無傷だ。だって3人とも剣を床に落としているから。私の魔法のせいだけどね。杖を持った手を伸ばす。男のひとりのみぞおちに、私のガジの木の杖の先端がめり込んだ。


「はうッ!」

 男が膝から崩れ落ちている間に、もうひとりの男に足払いをかける。もちろん魔法を掛けて。

「ふぁ!?」

 男は中空で錐揉みしながら床に頭を打ち付けて止まる。

「ぐえッ!」

 見ると両足で天井を指し直立姿勢でズッコケている、なにこれ美しい。

「て、てめぇ何しやがったぁ!」

 床から拾ったのか、最後のひとりとなった男が剣を構えて叫ぶ。そうだもうひとりいたじゃん。

「もう1回試せる……」

「え? 何? その目……ふぁぁぁっぐえッ!」

「う~ん、失敗。難しいなぁ」

 もう少し力を抜くべき……? ってそれよりも周りがやけに騒がしい。そっか、こいつ等が大声かけたせいで大分目立っていたもんね。少し聞き耳をたててみると、聞こえてくるのは主にハートン達への罵りと私への賞賛の声みたいだ。彼等は普段からこんなことをして周りに迷惑をかけているんだろうか、余程の嫌われ者のようだ。


「全くこいつ等は懲りないねえ。だがティアの連れに手を出すとは運がいいのか悪いのか。それにしても成り立てとはいえ格上のCランクを相手に、よくもまあ4対1で軽くあしらって見せたものだねえ。エルガンが気に掛けるのも肯けるよ」

 こいつ等成り立てだったのか、通りで。明らかにリーガン達より動きが悪かったもんね。


「はぁ……。それよりなんなのこの人達?」

「まあ何処にでもいる頭痛の種ってやつだよ。冒険者同士の揉め事にギルドは介入出来ないから、軽く注意するくらいしか出来なかったんだけどねぇ。なまじ実力があるから自惚れていたんだろうが、これで少しは懲りただろうよ」

 ルイズはなんだか軽い感じでそう言うけれど、それで済ませていいの? 私は全く納得していないよ。


「ねぇ、ルイズはさっきの話は聞いてなかったの? こいつらが街の外でやっている事は、許されない事だよ」

「あぁ、聞いていたさ。けどねぇ、証拠がなければ裁けないんだよ。そもそもティアを脅かしたくて虚勢を張って大口を叩いただけかもしれないだろう?」

 まぁ確かに。腰の引けた3人の事を考えるとその可能性はあるかもしれないけど。けどそうでなかったらどうするの。


「でもそんな人にギルマスとしてCランクを与えるのはいいの?」

 まるで他人事のようなルイズの態度に、イライラが少し語気に現れてしまうが、それをまるで意にも介さずにルイズが答える。

「ティアが今、実力に見合わないDランクに甘んじているように、逆に言えばルールに則ればどんな奴だってCランクになれるんだよ。それがいまの規則、法治というものの限界なんだ。お前はまだ若いから理想を求めるかもしれないが、人がやることに完璧な事なんて殆どないんだよ」

 ルイズが言うことは理屈では理解できるけれど、

「……だったら私は私に出来ることをするよ」

 ルイズが見守る中、私は気絶しているハートンの頬を平手打ちして起こす。


「ぶ、ぶひぃ!?」

「ハートン。まだ終わってないよ、立って。あんたが私との実力差を理解するまで何度でも続けるよ」

 はっきりいって、この男に負ける気は全くしない。だから自信を込めて言う。


「お、お前らっ! こ、このぉ~ ぶっ殺してやるっ。ぶひぃ~!」

 気絶している3人の仲間を見て、ハートンが私に斬りかかって来るがそれを軽くいなして再び杖で気絶させる。


「ほら、立って。まだ終わりじゃないよ」

 これで何度目だろうか、気絶しては起こされ、また気絶させられるハートン。それをまた叩き起こす。

「も、もう許してくれっ。ぶひ~。あんたには二度と逆らわないからぁ~」

 起き上がらずに土下座するハートン。


「もしあんたたちが街の外でやっている犯罪を私がみかけたら、必ず法の下に引きずり出して裁きを受けさせるからね。あんたたちの脅しが私には通用しないことは、これでわかったよね? 絶対に見逃したりしないからね。言っとくけど、私は今すぐにでもあんたたちを警備兵に突き出してやりたいと思ってるんだからねっ!」

「ご、誤解だよぉっ。あんたが全然怯まないから、ちょっと脅かそうとつい意味深な態度を取っただけなんだっ。そんな事はやってないんだ、信じてくれぇ。ぶひ~」

「それならそれで構わないよ。でも今後やったら同じことだよ。こんな事絶対見逃せないから」

「わ、わるかったよぉ~」


「やれやれ、ティアはお節介だねえ。あいつ等が何しようとあいつ等の責任だろうに」

「そうかなぁ……」

 だって、それで理不尽に誰かが傷つけられたり殺されたとして、やられた本人だけでなくその人を大切に思う人もどれだけ悲しむと思うの? いまだってもし、エンリがもっと酷い事をされていたらと考えたら、やっぱり絶対許せないよ。法が不完全だと言うのなら、私のように見ているものがいるってことを知らしめて、わずかでも抑止になってくれればいいと思うんだよね。


 ハートンが他の3人の仲間を起こしてギルドから逃げるように出て行こうとする。あぁ自分達が何をしたのか全然理解していないんだこの人達。

「ちょっと待ちなさい!」

「ま、まだ何かあるのかよぉ~」

「あんた達、わかってないみたいね。あんたが最初に絡んでいた子だけど、あの子冒険者じゃないからね? どちらかというと依頼を出す側だから」

「ぶひっ!?」

「はぁ~~……。ハートン、あんた本当に何も考えてないんだね。あなた達もあの子にちゃんと謝っておいた方がいいんじゃないの? でないと、今後受けられる依頼がなくなるかもしれないよ」

「ど、どういう意味だよぉ~」

 ハートンを含めて4人の男達が動揺している。薬が効きすぎただろうか。


「あのねぇ。Cランクは護衛依頼がメインでしょう? 私はDランクだけど、あの子の父親は私に彼女の護衛を指名依頼で出しているのよ。今日の事が父親へ報告されれば、そこから他の護衛依頼をだす同じような立場の人達にどんどん噂が広まるよ。その結果どうなるか、想像力を膨らませてよく考えてみなさいよ」


 冒険者に護衛依頼を出すような立場の人は貴族や商人など、ある程度業界が絞られる。当然、横のつながりがあることくらい私にだって想像に難しくない。ホーケンが冒険者の実力について言及していたように、依頼をする側からすれば自分の身の安全を任せる相手の実力や、品性について考えないわけがないんだよね。そこで悪評が立ってしまえば依頼者側から拒否されるようになるだろう。信頼できないものに護ってもらうことなんて出来ないのだから。


「Dランク!? いや、それよりもやべぇよハートン君!」

「俺、Cランクになったから金貸しに借りて武具を一新してんだよ。護衛依頼受けられなくなったら返済出来なくなるよ」

「俺も困るよ。ハートン君……」

「お、俺だってまずいよぉ~」

 4人があわててエンリの前に土下座すると、口々に言い訳を含めながら謝っている。


「くっくっく。ティアはやっぱりお節介だねえ。放っておけばあいつ等は勝手に干されただろうに」

 小気味の良い笑みを浮かべるルイズに私は苦笑いで返す。

 確かにお節介だったかもしれないけど、エンリが冒険者だと勘違いされたままだと、私に敵わないあいつ等の恨みの矛先がエンリに向くかもしれないから。だから正しておきたかっただけだよ。


「ティア、早くCランクに上がんな。お前の昇級試験を楽しみにしているよ」

 そう言い残してルイズは奥の部屋へと戻っていった。


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