王都への旅 和解の昼食
翌朝、携帯食で簡単に朝食を済ませたあと王都へ向けて出発する。午前中は魔物の襲撃もなく順調に進んでいく。お昼ごろになると街道の脇に馬車を止めて火を起こし、それぞれ昼食の準備をはじめた。
「さて、私はちょっとお肉を焼いてくるね」
「はい」
昨夜解体したパラライズウルフのお肉がたっぷりと入った袋を持って馬車を降りると、焚き火へ向かう。日持ちする塩漬けの干し肉は持ってきているけど、やっぱり新鮮なお肉がいいもんね。
2つのお肉の塊にナイフを刺して小さい穴を沢山つくる。火の通りをよくするのと味を染み込ませるためだ。塩と香草を揉みこんで太い木の枝を刺すと、焚き火であぶり焼きにする。出発前にブリトールのお店で買っておいた新鮮な野菜も、適当な大きさにカットしてから、お肉の脂を伸ばしたスキレットへ放り込んで塩を振って炒める。
しばらくするとお肉から溢れてくる油が焚き火で燃えて、ときどき小さく破裂音が鳴り始める。香草と焼けるお肉の香ばしい匂いが漂い始めると、男性冒険者4人が私の前に歩いてきた。なんだろう、お肉食べたいのかな?
「俺はリーガンだ。そしてこいつらはブリトン、ボンス、ヨルガス。俺達は全員Cランクの冒険者だ」
「あ、ティアズ・S・オピカトーラです」
いきなり自己紹介を始められたので私も名乗ると、リーガンの後ろにいた3人が一瞬ざわつく。
「昨晩の魔物の襲撃は加勢もせず、すまなかった!」
「「「すまなかった!」」」
リーガンが頭を下げると、他の男達も頭を下げてきた。
「え、あ。ううん。私は信頼されてないみたいだしね」
お肉じゃなくて昨夜の事を謝りに来たらしい。
「いや、あんたの魔物襲撃の言葉に耳を貸さなかったのも、悪かった。あそこでちゃんと聞いていれば、あんたひとりに危険を冒させることもなかったんだしな」
あの夜に見張りをしていたヨルガスという男だ。
「俺たちはあんたを舐めていたんだ。Dランクだって聞いていたし、女の子だし。旅にも慣れていないようだったから」
「「ああ」」
「それにちょっと妬みもあったかもなぁ。護衛依頼はCランクから受けられるもんだしよ」
「そうだな~、なかったとは言えねえかもな~」
「領主様直々の指名依頼なんて、まず貰えることねぇしな」
男達が口々に本音を吐露する。
妬まれるのは私にはどうしようもない事だけど、旅慣れていないのも護衛が始めてなのも本当の事だ。だからここまでの間、失敗もしたけどすごくいい経験が出来たと思っている。最初から何でも出来る人もいるらしいけれど、私は孤児院育ちの凡人だ。失敗しながら次に活かしていくしかないもんね。
「なあ、ところであんた。ギルマスと模擬戦したことねえ?」
ブリトンと呼ばれた男が聞いてくる。別に隠すことでもないので
「うん、あるけど。2回だけだけどね。それがどうかしたの?」
「やっぱりかよ!」
再び男達がざわつく。
「まじかよ~、この子がそうなのか~?」
「俺のダチが実際に観てたらしいんだがよ、すごかったらしいぜ。あのギルマスから2度もダウンを取った上、剣まで持たせたらしい」
どうやらブリトンの友達が私とエルガンの模擬戦闘を観ていたらしい。
「はぁ!? あんた、それは本当なのか?」
ヨルガスと呼ばれていた男が、私を見て言う。
「え、う~ん。ダウン2回というのはともかく、槍のあとに木剣に持ち替えてたよ」
『つるつるの魔法』で転んだ事をダウンとは呼べないよね。
「まじなのか……。てことはパラライズウルフ10匹を相手に出来たのはまぐれじゃねぇってか」
「そもそもあのギルマス、頼んだって絶対相手してくれないんだぞ。それが2回ってことは本物って事だろがよ」
「言えてるな~。リーガンですら頼んでも相手してくれなかったもんな~」
「おい、さらっとバラすな、ボンスッ!」
「あいたっ、殴る事ないだろ~」
「大体あの人Sランクだしな。Cランクなんて相手にもならんってか」
「それならこっちは成り立てDランクだろがよ」
カブトにいちゃんからも羨ましがられたけれど、エルガンに相手してもらえることってそんなに特別なものだったの? 私をおいてけぼりにして、男同士でどんどん盛り上がっていっている。まぁ、何でもいいか。
焦げた香ばしい匂いが鼻をつく。あ、お肉焼けたかな。私はお肉を回して反対側を焼き始める。新鮮だから生でも大丈夫とは思うけど、大きいからじっくり火を入れないとね。
「うまそうだな~……」
ちょっと太った男がつぶやいた。確かボンスだったかな?
「食べる?」
「いいのか~!?」
私が焼いているお肉にボンスの目が釘付けになっている。
「これは駄目だよ。お肉あげるから自分で焼いてね」
私はお肉の入った袋から大きな塊を4つ出して渡してあげる。
「俺たちの分もいいのか?」
「いっぱいあるしね、よかったらどうぞ」
男達は私に感謝の言葉を述べると、それぞれでお肉を焼き始めた。
リーガンが見たことがない粉をお肉にすり込んでいる。なんだろう、あの黄色い粉。
「ん、これか? これはカリーの実の粉だ。味見してみるか?」
じっと見ている私の視線に気づいたリーガンが、そう言って調味料の入った小袋をこちらに向けてくるので、少し手にもらって舐めてみる。
「辛っ!」
「わはは。だけどこれがやみつきになるんだ」
「……本当だ。辛いけどあとから旨味がくるね。おいしい」
どうやら南の暑い地方に生えている木から取れるのだと言う。お肉のお礼にと、少し分けてくれた。それを見ていた他の3人も、「俺のもうまいぞ!」とそれぞれの自慢の調味料を少しだけ分けてくれた。
どれも私が見たことがないものばかりで、素直にうれしい。さすがCランク冒険者といったところだろうか、いろんな街へ行った事があるらしくその土地土地の食材にも詳しかった。リーガン達と雑談に花を咲かせている間にお肉が焼けたので、お肉と炒めた野菜を2つのお皿に盛り付けると、それを持ってエンリのいる馬車の中へ戻る。中ではエンリが昼食の乗ったトレイを膝に乗せて座っていた。
「もしかして待っててくれたの?」
「はい! 一緒に食べたかったので」
お皿を座席に置いて座り、鞄からパンを取り出しているとタイガが姿を現した。
「あ、タイガちゃん!」
エンリがタイガを撫でようと手を伸ばす。が、するりと逃げられてしまう。
タイガはエンリに触らせる気はないようだ。
「逃げられちゃいました……」
エンリがしゅんとする。
「人見知りが激しいのかな。でもエンリくらいだよ? こうして自分から姿を見せるの」
「そうなのですか? ふふ。じゃあ嫌われているわけではないのですね」
普段は2人きりのときしか出てこない事を教えてあげると、エンリが元気を取り戻したようだ。
エンリのトレイにはパンとソースがかかったソテーしたお肉、みずみずしいサラダに温かいスープ、カットされた果物、紅いお茶の入ったティーカップが載っている。
「旅の途中なのに本格的なお料理だね」
「はい。執事のハーミスは何でも出来るんです」
エンリがいうハーミスとは、この馬車を操っている紳士なおじいちゃんの事だ。エンリが学園にいる間、王都に住み込んでエンリのお世話をするらしい。学園の入学手続きなども私の分を含めて彼がやってくれるらしい。
それにしても、お料理も出来るおじいちゃんだったんだね。
いや、逆なのかな。何でも卒なくこなせるような能力のある人でないと、執事として領主のお屋敷に仕える事など出来ないのかもしれない。
昼食を食べ終わって小休止にエンリと雑談をしていると、なにやら外が騒がしくなる。なんだろうと馬車の窓から顔を出して外を見てみると、少し離れた森の方からゴブリンの大群が押し寄せてきていた。
「馬車を出せ! 逃げるぞ! 急げ!!」
リーガンが叫ぶ声が聞こえると馬車が動き出した。コブリンはEランク討伐の弱い魔物だ。私ひとりでも何匹いようと軽くあしらえるくらいなのに、リーガンは何をあわてているんだろう?
そう思って辺りを見回していると、森の奥で轟音のあとに砂煙があがるのが見えた。なんだろう、何かがいる? ゴブリン達はその何かから必死に逃げているんだろうか。木を倒し砂煙を上げながら、その何かが街道へ向かっていくのが遠くに見える。しばらくすると、大きくて黒いモノが森から飛び出してきた。




