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王都への旅 パラライズウルフ戦

 タイガが魔力図を構築しながら、上空へ飛び立つ。一番前を走るパラライズウルフに『つるつるの魔法』を掛けて転ばせると、森へ向けて思いっきり蹴り飛ばす。

「ギャウ!」

 私の腰ほどもある大きさのパラライズウルフが数m吹っ飛んだ。


 他のパラライズウルフが足を止めて一斉にこちらへ顔を向ける。どうやら注目を集める事ができたようだ。暗闇に光る目で私を睨みながら、遠巻きに少しずつ包囲してくる。これはウルフ種がよくやる狩りの手法だ。こんな夜道にぽつんとひとり立つ人間の少女は、魔物達からすれば絶好の獲物に見えていることだろうね。


「「「グルルルルルル……」」」

 いくつもの威嚇の声が私の周りをゆっくりと廻る。少しずつ少しずつ、包囲が狭まってくる。


「ガウゥ!!」

 突然、背後から1匹が飛び掛ってきた。私はステップで避けると、すれ違い様に杖で殴りつける。

「ギャウン!」

 また背後から1匹が飛び掛ってくる。それを避けると、また背後にいる別の1匹が飛び掛ってくる。

「さっきから背後からばっかり、陰湿な奴らだね!」


 周りをみると包囲網がどんどん狭まってきている。が、まだまだ魔法の範囲外だ。少し離れたところで、地に降りてタイガがこちらを見ながら大きめの魔力図を構築しているのが見えた。


 あそこに誘導しろってことかな? 魔力図の構築が終わるまで、しばらく魔物達の注意を引きつけよう。


 後ろから飛び掛ってくるパラライズウルフを避けては杖で殴ろうとする。が、すぐに次が飛び掛ってくるのでなかなか手が出せない。絶え間なく死角から飛び掛かかられるせいで反撃しづらい。何せこちらはひと噛みでもされたらおしまいなんだ。無茶はできないけど、一方的に攻められるのはストレスが溜まる。なんか反撃の手はないものか。


「むー。そうだ、殴れないなら嫌がらせで転ばせてやろう」


 自分に『すべらない魔法』をかけてから、範囲いっぱいに地面に『つるつるの魔法』をかける。飛び掛ってくるパラライズウルフが着地と同時にすっ転んでいく。うん、これはいいかも。飛び掛らずに走ってきたパラライズウルフが範囲内に入って転びながら私の足元に滑ってくる。

「ギャッ!」


 杖の一撃をお見舞いするが、そのまま滑って範囲外へ出てしまった。あとちょっとで1匹仕留められたのに、おしい。次に同じ事があったら『すべらない魔法』で止めてから殴ってやろうとチャンスを伺っていると、一通り転んだのだろうか? 飛び掛ってくるのをやめて私の周りを威嚇しながら回るだけで近づいてこなくなった。ノーラウルフよりは知能がありそうだ。


「ティア、こっちだ!」


 タイガの方を見ると、構築を終えた魔力図を地面へ展開していた。発動準備が整ったらしい。『つるつるの魔法』で立ちふさがるパラライズウルフを転倒させ、包囲網を破って魔力図へ向かって走る。


 唸りながら後ろを追いかけてくるが、近づかれたら魔法で転ばせて追いつかせない。噛みつき攻撃しかしてこないパラライズウルフは逃げるだけなら私の方が圧倒的に優位だ。


 タイガの魔力図に重ねるようにかけた『つるつるの魔法』に、追ってきたパラライズウルフが転倒して滑り出す。先ほどの反省を活かし、すかさず『すべらない魔法』を一瞬だけかけて勢いを止めてやる。ほっとくと範囲外まで滑って出ちゃうのは経験済みだからね。3匹のパラライズウルフが魔力図上でつるつる滑ってもがいている。よし、上手くできた。


「ティア、もっと離れろ」

「えっ、わかった」


 側にいると危険な魔法なんだろうか、わからないけれど急いでタイガの魔力図から離れる。4匹目が範囲に入ったところでタイガが魔法を発動した。


 爆音と共に一瞬で大きな炎が立ちのぼる。離れていた私の顔まで熱風が届き、暗闇だった辺りが真昼のように明るく照らされた。

「「ギャアアウアウアッ!」」

 炎に焼かれたパラライズウルフは、炎上してしばらくもがいたあと動かなくなるが、それを見ても怯まなかった後続の2匹が、炎を避けて私に向かってくる。なかなかに根性がある固体のようだね。


「左は俺がやる」

 空から降りてきたタイガが私の左側に立って言う。

「わかった。じゃあ私が右だね」


 私は『つるつるの魔法』を掛けて2匹を転ばせると、右側の1匹に渾身の力を籠めて頭目掛けて杖を振り下ろす。

「「ギャ!」」

 同時に左側の1匹をタイガが駆け寄って首を刎ね飛ばした。


「「「グルルルルルル……」」」

 残りは4頭だろうか? 少し距離を開けたところで足を止めてこちらを睨んで唸っている。私は杖を握り締めて構える。絶対にエンリがいる馬車には近づかせない!


「なんだ! そこで何をしているっ!」


 どうやら魔法の炎に気づいて他の冒険者達がこちらに来たみたいだ。人間の数が増えたからかパラライズウルフの残党は、森の闇の中へ引き返していった。


「なんとか守れたね、タイガ」

 男達が来たからか、返事もせずにタイガが私の背中へ姿を消す。気のせいだろうか、なんだかタイガの足取りが軽そうに見えた。


「何だよこれ……。魔物の襲撃ってマジだったってか」

「一体ここで何があったんだ。大きなウルフらしい焼死体が4つみえるが……」

「お、おい待てよ。この毛色に、この大きさ。こいつパラライズウルフじゃねぇかよっ!」

 松明で死体を照らして確認していた男が叫ぶ。


「パ、パラライズウルフだって~!?」

「4匹くらいが逃げていったのは見たが、死体が……全部で6つあるな」

「はあ!? じゃあひとりで10匹相手に退けたってのかよ? そんなのCランクでもパーティ推奨だろがよっ!」

「まじかよ~……。あいつDランクだろ~?」

「ああ。俺が聞いた話じゃ、それも成り立てらしいぞ? 普通に考えてありえねぇって……」

「だが、いま目の前にあるこの状況をそれ以外に説明出来るか?」

 男達が死体を眺めて沈黙する。


「確かにリーガンが言うことはわかるがよ、ヨルガスが言う事の方が俺は納得出来るぜ。パラライズウルフ10匹相手にするとか、Dランクがひとりでどうこう出来る次元じゃねぇだろがよ」

「ああ、信じがたいが。事実それを、あいつはひとりでやってみせたということなんだろう」

「「「……」」」


 辺りの惨状を確認した4人の冒険者が私に注目してくる。う、なんか恥ずかしいから止めて欲しいんだけど……。正確にはひとりじゃないよ。タイガと2人だ。


「ふん! 今頃来やがって。役に立たねぇ野郎共だぜ」


 後ろからなんだか上機嫌なタイガの囁きが聞こえてきた。そういえばタイガはどうして魔物の接近に気づけたんだろう。もしかして眠らないでずっと見張ってたの?


 その後、4人の冒険者と一緒に微妙な空気の中、無言で死体の後始末をする。このまま死体を放置しておいて、また他の魔物が寄って来るといけないからね。タイガの魔法で燃えてしまった4匹は、男達がそれぞれ穴を掘って埋めた。パラライズウルフはそれなりの大きさがあるので、埋めるだけの穴を掘るのもなかなかの労働だと思うけど、男達は疲れも見せずに掘っていく。死体の後始末にも馴れているようだった。


 残りの2匹は私が解体して素材を確保したよ。魔核はもちろん、毛皮や牙が売れるんだよね。それにお肉もおいしいらしいから明日のお昼にでも焼いて食べようかな。魔物の後始末を終えてから馬車へ戻る。


「ティアっ!?」

「あ、エンリ。起こしちゃった?」

 馬車に戻るとエンリが不安そうな声で私を出迎えた。


「いいえ、外から獣の吼える声が沢山聞こえてきたので、怖くて目が覚めちゃいました」

 星明かりでもわかるくらい真っ白な顔と、その瞳には強い怯えの色が覗えた。暗い馬車にひとりきりで怖かったのかもしれないね。


「そっか。でももう大丈夫だよ。全部、私とタイガで追い払ったからね! 安心していいよ」

「そうですか。ふふふ。ティアは強いですね」

「えへへ。タイガもいるからね。エンリには魔物なんかに手出しさせないよ」

「ふふ。すごく頼もしいです」

 硬かったエンリの表情がいつものほわほわしたものに戻っていく。大丈夫そうかな?


「さ、明日も早いし。もう寝よう」

「はい!」

 私はエンリの横に敷いた薄い布団に潜り込むと、エンリを護る事が出来た充足感に満たされながら、再び眠りについた。


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