Eランク昇級試験 前編
「そうなんだね。じゃあランクをあげるにはどうしたらいいのかな?」
「基本的には現在のランクで半年以上の期間に一定数を超える実績を積むことでランクアップ試験を受ける資格を得ることができますので、あとは冒険者ギルドで行われる試験に受かればランクアップできますよ。ただし、最高位のSランクだけは英雄と呼ばれるだけの功績を上げる事と、国王の推薦が必要になるのでここは例外ですね」
Sランクだなんて私には縁のない話だね。
受付嬢の話によると、実績については細かい禁止事項(例えば討伐依頼で、他の高ランク冒険者を雇って代理で討伐してもらい自分の功績にする行為など)があるようだけど、あからさまな場合を除いてギルドは取り締まらないらしいので最終的には何をしようと自己責任だと言う。
「ズルしても実力不足ならランクアップ試験で落とされるわけだもんね」
そのための試験なんだろうし。
「そうですね。ですがランクアップ試験は基本、同ランクの標準的な冒険者3人もしくは1つ上のランクの標準的な冒険者を相手に模擬戦闘をして試験官に実力を示す事が出来れば合格になるのですが、試験官や模擬戦闘相手の冒険者を買収するなど、抜け道というか非合法なやりようはいくらでもあるんですよ」
ちょ、そんなこと教えちゃってもいいの!?
そんな暴露話を苦笑いしながら教えてくれた受付嬢がこう付け加える。
「尤も、無理に実力に見合わないランクについても、恩恵を受けるためにはそのランクの依頼をこなさなければなりませんから、実力の届かない魔物との戦闘で大怪我を負ったり、命を落とす羽目になるのは冒険者自身ですから不正は心からお薦めしません。ギルドのランク制度は冒険者を守る意味もあるんですよ」
だから自己責任というわけなんだね。
大怪我でもしたら私にとっては死活問題だ。
「不正なんてしたくないし、しないよ」
「それがよろしいかと思います。あ、それからEランクへは実績なしでも試験を受けることが出来ますよ」
「本当!? それって今日でも受けられるの?」
「はい。Eランクへの模擬戦闘試験はいつでも受けられますよ」
ランクFは採取や雑用のみなので15歳を超えていれば手続きだけで誰でもなる事が出来る。
それに対してランクEは魔物討伐の依頼を受けられるようになるので、ランクアップ試験というよりはある意味で冒険者ギルドへの加入試験のようなものなのかもしれない。
実績についてはギルドの依頼を成功させることで増やす事ができるそうだ。
尤も依頼に失敗すると実績にマイナスがつくので、そこはよく考えて受ける依頼を吟味する必要がありそうだ。
折角頑張って実績を積んでも、失敗して失ってしまったら元も子もない。
こうして依頼の受け方や受ける際のルールなど、受付嬢からひと通りの細かい説明を受けた。
「何か疑問ができましたら、いつでもお聞きください。それでは最後に、Eランクへの昇級試験を受けますか?」
ランクが上がればそれだけ報酬のいい依頼を受けられるという話だ。
悩むまでもなく答えはもう決まっている。
「うん。受けたい!」
受付嬢に教わった通りギルドの裏の野外演習場に出ると、私以外にも3人の冒険者が待機していた。
どうやらこの人達もEランク昇級試験を受けるみたいだ。
試験官が来るのを待ちながら、手持ち無沙汰を紛らわそうと周りを観察していると、広い演習場の先に厩舎を見つけた。
あそこで馬を借りられたりするのかな?
「おいおい、お譲ちゃんまさか戦闘試験受けに来たのか?」
先に待機していた冒険者のひとりだ。
「お前には無理だから、泣いちゃう前に帰んなよ。クックック」
明らかに私を見下した目。
その男の後ろにいる他の2人もこちらを見てニヤニヤ笑っている。
「私の勝手でしょ、ほっといて!」
「ああ? 人が心配して言ってやってるってのに、んーだそのクチの聞き方はぁ!」
掴みかかってきたその手をあわてて避けつつ、『つるつるの魔法』を発動する。
男は足を滑らせて地面へ「ぶべっ」と、うつ伏せに倒れた。
誰かがクスクス笑う声が聞こえてくる。
「おいおい、何ズッコケてんだよ。だっせーな」
「う、うるせえぞお前等! 笑うんじゃねえ! ち、くっそガキがぁ……!」
顔を真っ赤にした男が私を睨みつけ、唸り声を上げながら片膝をついて起き上がってくる。
仲間らしき男からの嘲笑を受けて、すっかり火がついてしまったようだ。
ただ試験を受けに来ただけなのに面倒な事になった。
「もう、私の事はほっといて!」
「恥かかされてこのまま退けると思うか? このオトシマエはしっかりとつけさせてもらうぜ」
私を威圧するように両拳の骨をポキポキと鳴らし始める。
「あんたが勝手に転んだだけでしょう? 私は関係ないじゃない」
「あ? とぼけてんじゃねえぞ。なんだかわからねえがお前が魔法を使ったことはわかってるんだ」
「ナ、ナンノコトかわからないけど?」
あれれ、なんでわかったんだろう?
『つるつるの魔法』は孤児院の兄弟達を相手に、小さいころから使ってきた私が唯一使える魔法だ。
不意打ちならそれを知らない人にはバレない自信があったのに、この男は一発で見破ってきた。
こんな成りだけど実は只者ではない、とか?
「これ見よがしに杖なんか持ちやがって、バレバレなんだよぉ!」
なんだ、単に右手に握ったガジの木の杖を見て決め付けてきただけか。
いや、私がやったことに違いはないんだけども。
「知らないけど、いきなり掴みかかってくるのが悪いんでしょう。もうほっといて!」
「いいぜ? 一発殴って俺の気が済んだらほっといてやるよぉ!」
男が拳を構えると間合いに踏み込んできた!
相手は問答無用でやる気だ。こうなったらやるしかない。
私はガジの木の杖を両手持ちで構えて迎え撃つ体勢を整えた。
「待たせてすまないな、これからEランク昇級試験を始める。ん? 2人共どうした。何かあったのか?」
ギルドの試験官らしき男が2人、こちらに近づいてくる。
「ちっ、何でもねえよ!」
「ふむ。まぁいいだろう。試験は俺達Cランク冒険者と1対1の模擬戦闘だ。目的はお前達の実力を見ることだから勝敗ではなくその内容だということを理解した上で挑んでくれ。模擬戦闘だから当然武器は訓練用の木製のものを使う。実戦の武器や道具を使った場合は言うまでもなく即失格だ。何か質問はあるか?」
野外演習場の端っこには片手剣をはじめ、盾や両手剣、棍棒、斧、槍、杖などなど、様々な木製の近接武器が並んでいる。
「では、最初の2人からはじめるぞ」
試験官が2人来たのは2人ずつ行うためみたいだ。
先に待機していた2人が木製の武器を手に取って、それぞれ試験官の前へ出る。
そのうちのひとりは私に絡んできた男だ。
強いのだろうか? 私はその男の戦闘を観ることにした。
男が試験官に向かって必死に両手剣をぶん回して攻めているが、試験官は剣でそれを軽くあしらっている。
5分ほどそんな状態が続いた後、男が息を荒げて膝から崩れた。
体力の限界が来たようだ。
試験官がなにやら男に話しかけたあと模擬戦闘が終わった。
戦闘内容について何かアドバイスでももらえるのかな?
試験官に呼ばれたので、私は木製の杖を手に取って前へ出た。