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ビッグスパイダー討伐 後編

 私はタイガに群がってくる子蜘蛛を『つるつるの魔法』を地面にかけて足止めする。

「うおっ!」

 しまった! タイガが巻き込まれて転倒してしまった。


「ごめん、タイガ! 『すべらない魔法』をかけるから待って」

「問題ねぇ」

 体をすべらせながらも、羽を生やして力技で空に舞い上がる。そして再び魔力図を構築し始めた。


「あれは……さっき使った魔法と同じ模様だよね? ということは」


 タイガの意図を理解した私は子蜘蛛が群がっているところを杖で挑発的に叩いてまわり、注意を集める。タイガがビッグスパイダーを牽制している隙に子蜘蛛を出来るだけ私の周りに集めるんだ。


 あらかた集めてからふとみると、タイガの魔力図の展開が終わっているのが見えた。

「タイガ、やって!」

 高く飛び上がりつつ地面に『つるつるの魔法』をかけて集めた子蜘蛛を逃がさないように足止めする。そこへタイガが発動させた魔法が走り抜ける。


 再び子蜘蛛の体が風の刃に切り裂かれる音が、幾重にも重なって響く。足元に集めた大量の子蜘蛛が一掃された。よし! いい感じだ。辺りにはまだ少しだけ子蜘蛛が散らばっているけれど、ほぼほぼ倒しきったみたいだ。


「ギィィィィィ!!」

 ビッグスパイダーが怒りの篭った鳴き声をあげて、私に向けて連続して糸を吐いてくる。


「無駄だよっ」


 私は杖を振るって難なく全ての糸を絡め取る。空中にいるタイガが魔法を発動して風の刃を飛ばした。が、鈍い音がしてビッグスパイダーの足で防がれる。


(お腹はやわらかそうだけど、あの足はタイガの風魔法で斬れないほど硬いの? 『つるつるの魔法』ならあの足を無力化できるかなぁ)


 『つるつるの魔法』でへたり込んで動けなくなった子蜘蛛の姿を思いおこす。大きくても構造が同じなら同じようになるんじゃないだろうか。でも巨大な巣の真ん中に陣取っているから、高すぎて私の魔法の射程外なんだよね。糸まみれの杖が重たいので『つるつるの魔法』をかけてから振り下ろすと、べちゃっと糸の塊が地面へ落ちた。


(ん? そうだ、いい事思い付いたかも)


 私は巣を支えている大きな木の元へ走って近づくと、力いっぱい高く飛び上がる。足に『すべらない魔法』をかけてから、木を蹴ってもう一度高く飛び上がると、ビッグスパイダーの巣へ飛び込んだ。


 全身に巣の糸が絡みつき、体の自由が奪われる。


「おい! 何やってんだ!」

 タイガが叫びながら魔力図を構築し始めたようだ。ビッグスパイダーが巣にかかった獲物を捕らえようと、巣を揺らしながら動けない私に近づいてくる。


(よし、狙い通りこっちに向かってきた。あとは……)

「タイガ、私は大丈夫! いまからこいつを巣から落っことすからフォローお願い!」


 私は十分に引き寄せてから、自分の体とビッグスパイダーの8つの足に『つるつるの魔法』をかけた。糸の粘着から自由になり落下する私と、糸を掴めなくなって落ちるビッグスパイダー。すぐさま糸を伸ばして落下を免れようとするが、私を助けるために展開していたのだろう、タイガの風の刃によって阻止され、地面に叩きつけられる。

(ぐっじょぶ、タイガ!)


 ビッグスパイダーの落下の衝撃が地面に響く中、私は巣を掴みながらゆっくりと下へ降りる。

「流石に硬い足は折れなかったけど、ダメージは与えられたのかな?」

 ビッグスパイダーは8つの足で立ち上がりはしたが、なんだかふらふらしているように見える。


「タイガっ、私が足を抑えるから止めをお願い!」

 ビッグスパイダーの周囲に『つるつるの魔法』をかけて動きを封じる。


「わっぷっ」

 足を滑らせてへたり込みながらも、目の前にいる私に次々と糸を吐いてくる。往生際が悪いやつだ。窒息だけはさせられないように、杖と手で顔を防ぎながら魔法を維持して耐える。ビッグスパイダーの真下に、魔力図が構築・展開されていく。魔法が発動されると皮と肉が裂ける音が聞こえてきた。


「ギィィィィィッ!!」

 顔を上げて見るとビッグスパイダーのやわらかいお腹を、大きな石のトゲが下から貫いていた。そして上から降って来たタイガが爪を青く煌かせて頭と8つの足を根元から切り飛ばした。


「ぷはぁ、討伐成功だね!」

 体についた蜘蛛の糸に魔法をかけて取り除きながら言うと、

「お前、あせっただろうが!」

 いきなり巣に飛び込んだ事を、タイガに怒られてしまった。


 タイガがまだ残っている周囲の子蜘蛛を処理している間に、私はビッグスパイダーの牙と頭の中にある魔核をナイフを使って取り出して鞄へ仕舞いつつ、愛用の大きな袋を取り出す。お腹を裂いて中にある大量の糸を、魔法を使いながら袋の中へ仕舞う。8本の足も忘れずに仕舞った。袋の中で足に糸が粘着してしまうが、私には問題ない。


 これらは素材として高く売れるんだよね。ランクが上がるほどお金になる理由の1つとして、討伐した魔物の素材が高く売れる事が大きいんだ。持ち運べる量には限界があるけれど、高い素材はなるべく持ち帰りたいよね。


 そうして討伐を終えた私達は報告をするため、今回の戦闘の反省会をしながら歩いて村長さんの家へ向かう。もちろん、素材がいっぱい詰まった愛用の大きな袋には、いつものように魔法をかけて滑らせている。


「おぉ、お嬢ちゃん無事じゃったか!」

 村へ着くと村長さんが出迎えてくれた。心配して外で待っていたようだ。


「うん。ちゃんとビッグスパイダーも子蜘蛛も倒したから、もう安心していいよ。死体を残してきたから確認してもらってもいいかな?」

「村長! おらがひとっ走り行って見てくるだ」

「うむ、まかせたぞ。お嬢ちゃん達はお昼を食べてなかったじゃろう? 何か用意させるから、うちで食べていくといい」


 村の若い男が走って確認に向かったので、村長さんにご飯をごちそうになることにした。遅いお昼を村長さんの家でご馳走になっていると、若い男が確認から戻ってくる。


「すげぇよ、村長っ。全部倒されてただよ! もう安心だぁ」

 村長さんはその報告に頷くと、依頼書に達成のサインを書いて私に渡してくれる。


「本当にあれを倒すとは、見かけによらず強いんじゃのう。ありがとうな、お嬢ちゃん。助かったよ」

「えへへ」

 自分がしたことで人から感謝されるのは素直にうれしいね。


「ひょっとしてその黒猫も強かったりするんじゃろうか?」

「もぐもぐ……タイガ? 強いよ。魔法も使えるしね」


 なんせ自称大魔王様だからね。食事を終えてゴロンとしているタイガを、村長さんが物珍しそうな目で見つめている。


「魔法が使える猫じゃと。そんなものが村の外にはおるんじゃのう」

「まぁね。もぐもぐ……。ふぅ~、お腹いっぱい。ごちそうさま~」

「お粗末様ですじゃ」

「それじゃ、死体の後始末をしてから帰るね」

 そういって立ち上がると

「あぁえぇよ、それは村の若いものでやるから。お嬢ちゃんには倒してもらっただけで十分じゃ~」

「んだんだぁ。それくらいはわしらで出来るけのう」

 そういってくれるので、お言葉に甘える事にした。


 外は既に夕日が沈み始めていたけれど、日帰りするつもりだったので村長さん達に別れを告げて、村を出発することにする。


 街道を馬で走っているとあっという間に暗闇に包まれてしまった。私には真っ暗で殆ど見えないけど、馬は夜目が利くので基本は馬に任せて街道を走らせていく。要所要所で馬の頭の上に座ったタイガが、「反れてる、右に戻せ」とか「左だ」といった風に指示を出してくれるので、それに従って手綱を操作する。2匹共、夜目が利いて羨ましい。私ひとりだったら夜道で迷子になっていたかもしれない。


 そうして、夜中になってしまったけれど無事に冒険者ギルドへ帰ってこられた。ちなみに街の前まで来た時点で、タイガは髪になって休んでいる。タイガにとってはブリトールの外に出てから入るまでが『仕事』なのかな?


 街の中にいて顔見知りの前で髪が伸びたり縮んだりすると説明が面倒くさいので、私には都合がいいんだけどね。それとも、それで気を使ってくれてるんだろうか?


 馬を厩舎へ返して木札をもらうと、それを持っていつもの受付嬢の所へ向かう。受付嬢に木札とサイン入りの依頼書を渡した。


「ビッグスパイダーの討伐依頼、達成ですね」

「あと素材の買取もお願いしたいんだけど」

 カウンターに魔核1つと牙2本、足8本を並べる。


「それと糸があるよ」

「それでは、糸は袋ごと買取りますが、よろしいですか?」

「え、この袋は無くなっちゃうと困るかも」

「ですが、糸がついてしまっては、その袋はもう使えないのではないですか?」

「そんなことないよ」

 そう言って魔法をかけて糸を袋からつるりと取り出す。


「えっ! ……ティアズさんの魔法って、本当に便利ですね」

 なんかすごく感心されてしまった。私の魔法はマイナーだけど、便利であるらしい。糸はギルドが用意した、専用の袋に小分けにして移した。


「こちらが依頼達成分と素材の買取分になります」

「ありがとう」


 お金を受け取って鞄に仕舞う。馬の貸し出し代を引いても、なかなかの稼ぎになってホクホクだ。やはり、素材の売却分がおいしい。


 今日はお店で2人分の夜食を買って宿へ帰る事にした。昇級も出来たし、たまには贅沢してもいいよね。


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