表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/570

魔法学園の短期休暇 その18 ~アンドリィの野望~

「ちっ、駄目だ。噛み砕きやがった!」


 四足で立ち直ったブラッドベアーがボリボリを顎を動かしながら、ゆっくりと二本足で立ち上がる。


 その胸元に魔力図が構築されていく。


「させない!」


 駆け寄ったブラッドベアーの足が、一瞬で私の視界から消える。


「え!」


「上だ!」


 あの巨体で跳んだ!?


 頭上にいるブラッドベアーの血のように赤い目と、私の目が合う。


 下を、私を見てる? あ、私を踏み潰す気だ!


 足に『すべらない魔法』をかけて急いで離脱する。


 ブラッドベアーの着地と同時に、水しぶきに混じって抉れた地面の破片が爆発したように舞い上がる。


「くっ!」


 地揺れに足を取られそうになりながら、やがてくる大量の落下物に杖を構えて備えた。


 降り注ぐ岩や小石を杖で弾き飛ばす。


 ブラッドベアーを見ると、魔力図をほぼ完成させていた。


「タイガ離れて! バーサククローが来る!!」


 タイガは多分、ブラッドベアーの後ろにいると思うけど、巨躯に遮られて姿は見えない。


 私の声は届いただろうか。


「グワアアアァァァ!!」


 魔力図の構築を終えたブラッドベアーが咆哮をあげる。


 私を一瞥すると四足で突進してきた。


 バーサククローの間合いに私を捉えるつもりだ。


「やばい、どうする!?」


 逃げたところで足の速さでは敵わない。どうにかして避けるか、受けきるしかない!


 半年前に見たバーサククローが脳裏を過ぎる。


 まるで腕が消えたよう高速に繰り出される両手の爪による無差別ラッシュ。


 周囲の木々ごとゴブリンが一瞬で細切れになったあの攻撃。


 背筋に冷たいものが流れた。


「グワアアアアアアアァァァッ!!」


 少し離れたところで足を止めたブラッドベアーが2本足で立ち上がる。


 胸の魔力図が発動の青い光を発した。来る!!


 この間合いなら、前か、後ろか、どっちに避ける!?


「後ろ!」


 『すべらない魔法』をかけた足で大きくバックステップで避けた。


 その瞬間、ブラッドベアーの両腕が高速に動いた。


 集中しているせいか、世界がゆっくりと動く。


 降り落ちる周囲の雨粒が無差別に繰り出される爪に引き裂かれ、その軌道を露わにする。


 怖れるな! 目を開いてよく見るんだ! 肩と腕の動きから爪の軌道を予測しろ!!


「ぐ、くっ!!」


 杖を握る手に連続して重たい衝撃が伝わってくる。


 吹き飛ばされ気味に、爪攻撃を杖で受けながらなんとかギリギリ爪の射程外まで逃れた。


 けれど、高速に動く爪の衝撃波なのか、十分に殺傷力のある風の刃のようなものが遅れて飛んでくる。


 上から角度をつけて降り注ぐ、身体を持っていかれそうな重い衝撃を、足を踏ん張り杖を振るってなんとか打ち消す。


 全部は防ぎきれない。致命傷になる攻撃だけは確実に防ぐんだ!


 ブラッドベアーが立つ地面に、その腕の長さ以上の広範囲にわたって無数の爪跡が、水しぶきを撒き散らしながら見る見るうちに広がっていく。


 杖で打ち消しきれなかった余波を受けて、頬や手足に鋭い痛みがいくつも生まれていく。


()っ! くぅッ!」


 踏ん張る足が少しずつ押されて下がり始めた。


 全力を出し続けている全身の筋肉が悲鳴をあげ始める。


 もう長くは持たない。このラッシュはいつまで続くの!?


 心が折れかけたところで、大きな爆発音と同時にブラッドベアーの頭が殴られたように大きく揺れた。


「タイガ!?」


 ようやくラッシュが止まる。


 虫の息の私を無視して、ブラッドベアーは怒りにさらに目を赤く染めると、振り返ってターゲットをタイガに変えた。


「はぁ……はぁ……ぐっじょぶタイガ。はぁ……もう駄目かと思ったよ……っ!」


 息を整えながら身体の状態をチェックする。


 手足が血で濡れている。ほっぺも痛い。でも数は多いけど殆どの傷はそこまで深くはなさそうだ。


 なんとか致命傷を受ける事なくやり過ごせたみたい。


 それにしてもこのケープとワンピース。手足がこんな有様なのに、あのラッシュの後でまるで無傷だ。


 さすが15年ほころび1つ出来ないだけはあるってこと?


 おかげで服の下の体は爪に裂かれずに済んだみたいだ。


 痛みはあるけれど、まだ戦える。タイガを援護しにいかなきゃ。


 顔をあげて辺りを見回して気づく。


 地面に残された無数の爪痕が、バーサククローの広い攻撃範囲とその向きをくっきりと浮かび上がらせていた。


「これは……偶然? にしては規則的すぎる。じゃあ、この個体のクセ? でももしこれがバーサククローのもう1つの正体だとしたら……って、いまはそれどころじゃないね」


 長く伸びた爪痕で作られた、規則的に並ぶ無数の×印の上を走り抜けて、私は前方で爪を振るっているブラッドベアーのお尻へ向かって駆け出した。


 大きな爆発音のあと、ブラッドベアーの右手が弾き飛ばされるように上に伸びた。


 タイガは逃げながら爪攻撃に対して魔法で反撃しているようだ。


 その攻撃に合わせるように、私は『超つるつるの魔法』をかけて、三足で立つブラッドベアーの左後ろ足の踝を思い切り殴りつけた。


 反時計回りにくるくる回ってブラッドベアーが横転する。


 お腹を見せて横転しているブラッドベアーが足元を覗き込む。


「グワアアアアァァァァッ!!」


 私を見つけると怒りの咆哮をあげた。


 ブラッドベアーはやや緩慢になった動きで体を捻って四足で立ち直る。


 ん? ひょっとして、バテ始めてる?


 バーサククローはもしかするとブラッドベアーにとって相当体力を使う技なんじゃ?


 一瞬どころか、延々と魔法で無理やり高速化して爪を振るうんだ。少なくとも楽なはずがない。


 それにもう何度目だっけ? 私の魔法で転倒してはあの重たい体重をかけながら頭部や体を地面に打ちつけている。


 そうだ、ちゃんとダメージはあるんだ。少し勝機が見えてきた。気力が沸き立ってくる!


「タイガ! このまま攻め続けるよ!」


 ブラッドベアーの右フックを、前方へ加速して懐に飛び込んで避ける。


 最初のころより、明らかに前足の攻撃速度が落ちている。いける!


 後ろ足の間を潜り抜けながら足に『つるつるの魔法』をかける。


 私の背後で足を滑らせたブラッドベアーが右肩を地面に突っ込ませて転倒する。


「今度は噛み砕けねぇだろ!」


 その後頭部へ上空からタイガが鋭い大きな岩の塊を高速射出した。


 私はブラッドベアーが立ち上がろうとして立てた左後足に『つるつるの魔法』をかけて滑らせ、足止めする。


 鋭い大きな岩の塊の直撃を受けたブラッドベアーの頭部が、その衝撃で一度地面に激突してから跳ね上がる。


「グワアアアアアアアァァァッ!!」


 何か黒い液体のようなものが後頭部から吹き出した。漆黒の毛皮でわかりづらいけれど、多分出血だ。それも結構深い!


「効いてるよ、タイガ!」


「ああ、畳み掛けるぞ!」


 2本足で立ち上がったブラッドベアーが再び魔力図を構築し始める。


 それを阻止しようと近づく私にブラッドベアーが飛び上がると、お尻で押しつぶそうとしてきた。


 あわてて離脱する。


「くっ、近づけない。完全に学習したね」


 巨体で迫られてしまっては、こちらは手の出しようがない。厄介な!


 私が阻止できないうちに魔力図の構築を終えたブラッドベアーが、今度は私ではなくタイガを追いかけ始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ