閑話 勇者達と魔王ミトラ(魔王ミトラ視点)
魔王ミトラ視点です。
魔王城
「お前が今回の魔王だな? しかも女ときた!」
なんかニヤニヤした気持ち悪い男子が私に指を指して言ってきたのだが···まさかこいつが勇者なのだろうか?
こいつが勇者なのかしら? もしそうならかなり強いと思うけど···どのくらいだろうか? まあ良いか、戦ってみれば分かるだろう。
だが、その前にこいつが本当に父を殺ったのだろうか
「お前達が我が父を殺した勇者達か?」
そう答えると勇者達は勝ち誇ったような表情になり、彼らの英雄譚を語りだした。
へぇ、なるほどね···つまり父のハーレムメンバーを寝取ったり、目の前で抱き合ったりなど好き勝手にして、父の精神をジワジワと削って殺ったというわけね?
まあ、私も父の事はあまり感心してなかったからね。
そんな父を倒してくれた目の前の勇者に感謝したいけど、やはりお前は嫌いだ勇者···お前なんかよりライトの方が圧倒的にかっこいい。
しかもこいつはライトから将来婚約した幼馴染を寝取ったらしい。
また、ライトの家族でもあった姉と妹も寝取ったとか? 性格悪すぎるわね。
まあ、幼馴染と姉と妹もだけれど···何故あの女神はこいつみたいなゴミクズを選んだのだろうか? それも人間も人間だ。
王国はそもそも、私達には戦う意思もないのに勝手に悪だと決めつけて戦争を起こさせたんだよな。
とりあえずこの勇者達は私が殺すのでは無くて、ライトに殺される方が良いだろう。
あの人には勇者達···いや、人間達を殺す必要がある。
人間達を殺す、つまり人間そのものをやめる必要がある。
あの人にはどのような種族が良いのだろうか? 私がおすすめするのはやはり邪神かな? それでこそ人間達と法則そのものが存在する限り、何度でも復活する最強の邪神になってほしい。
だが、それは本人の承認次第だが···
「そうか、お前達が父を殺したのか·····まあ、良いだろう、父はそもそも魔王の中で最弱だったからな。そこのところは礼を言うぞ。」
すると勇者達は「何故そこまで喜んで居るんだ?」と不思議そうな表情をしながら呟いた。
まあ、無理もないだろう。
私としてはあのクソな父親は邪魔だったからな。あいつは私に何回も暴行したり、罵声を浴びせたりと好き勝手にしてきたし、私を娘として愛してもくれなかった。
そもそも私は、感情というものと法則というものがどういうモノなのか最初から分かっていなかった。
そもそも私って何だろう? と最初は思った。
父は確かに強者だ。しかし、あいつは自身の欲望の為だけに数多くの宇宙を破壊したり、気に入らないモノは何もかも消したりしていったのだ。父は弱体化していったが、最終的にこの父を倒したのは目の前に居る勇者だ。
しかし私は違う、あの父のようになりたくない。もし、もしかしたら私は父のようになっているのかもしれない。
その事だけなら自覚はある。
では、始めるか···あの勇者も戦う気満々だからな。それなりの報復を受けてもらおう。
「あっ、そうだ勇者よ···良ければ全員で掛かってきても良いぞ? 私としてはその方がやりやすい。」
私がそう言うと勇者は自信満々に"良いだろう"と聖剣を抜いて構えた。
そして勇者の仲間達も戦闘準備に入った。
では、父上···お前を倒した勇者達の力はどれくらいか試してみるとしよう。
「良い、参れ」
私がそう答えた瞬間に勇者は超音速で迫ってきて剣を振り下ろされた。
「な、何故攻撃が効かないんだよ!!?」
それは単にお前が弱いからだ。いや、バフくらいは付けただろうな。
「弱すぎないか? 勇者よ···お前は馬鹿なのか? 仲間達に大量のバフを与えられて強化できたのに私に傷一つ付けられないのか? 流石に失望したぞ。」
現に私は勇者の仲間達がバフを与えているのを感じている。
まあ、しかしな···傷一つ付かないということはどういうことなんだろうか? そもそも私って何なんだろう? 父は何も話してくれなかったし、ましては母も···あれ? そもそも私に母って居たっけ?
私がそう考えていると勇者とその仲間達が「うおおおおおおお!!」と叫びながら突進してきた。
お前達は猪か? まあ良い、動きを封じれば良い。
「法則その一『服従――――――跪け』」
何故かわからないが自然に口に出していた。
あれ? 拘束魔法を掛けるつもりだったのに何故? 服従とか跪けとか言ったのだろうか? しかも法則?
そもそも法則ってあれだよね? え~と何だっけ? 確か世界は法則で満ちているとか本とかで書いていたような···?
まあ良いか、悔しそうにしている勇者に何か言えるから別に良いか。
「ゴホンッ···さて、勇者よ···気分はどうかな?」
「貴様···俺たちに何をしやがった!?」
何をしたかって···ただ服従せよって自然に呟いただけだが?
「えっ? 跪けと言っただけだが? 何か問題でも?」
すると勇者達は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
まるで子供だな。
「ふざけるな!! 俺たちはお前達のような悪を滅ぼすために選ばれた存在だ!!
勇者、救世主、神に選ばれた特別な人間なんだよ!!」
ほう、その選ばれた力で私を倒せたのかしら?
勇者? 救世主? 神に選らばれた特別な人間? 何だそれ? 何なのだ? そんなものに頼っているから己の強さに気づけないのであろう? では、勇者に質問するとしようか。
「そうか、ではお前達に訊きたいことがある。
感情とは何だ? 法則とは何だ? 能力というものも良くわからん? 考えても無駄だろうし、私が言っていることもわからないのであろうな。」
勇者達はその時ポカーンといった表情になり、固まってしまった。
何故固まる? まあ良いか、話を続ければ良いだけだ。
「そもそも私って魔王なのだろうか? お前達は私が何者か解るかな?」
すると勇者達は"こいつ何を言っているんだ?"という表情になって殆んどの者が"お前は魔王なのだろうが!!"と言ってきた。
まあ、魔王か···そうなのかも知れないし、そうじゃないかもしれない。
では最後にこの質問に答えてもらおう。
「では、最後の質問だ···お前達は何故ライトを王国から追放した? 理由は何だ? 彼がお前達に何をした? 私にはそれが理解できない。」
私がそう言うと勇者達は何だその事かというような態度になり、下衆な笑みを浮かべ答えた。
「それはあいつが邪魔だからだよ。」
「そうよ、あの屑とはもう決別したわ。居なくなって精々したわ。」
「あんな出来損ないの弟なんて最初から居なかったのよ。」
「あんな塵が兄というだけで吐き気が出るわ。」
「アレは女神に見捨てられた人間の失敗作だ。」
「そうよ、あんな汚い小石なんてどうだって良いのよ。ああ、もしかしたら小石以下の汚物かしら? うふふ」
こいつら、本当にゴミクズだな。
あいつが小石以下の汚物? ふざけるな···あいつは汚物なんかではなく立派な男よ! ライトが汚物? 汚物ですって!? むしろお前達の方が汚物だ! ふざけるな。
私は何者のなんて解らないがあの人と結ばれたい。例え、私が生物ではなくても結ばれなくても私は彼を愛している!
でも―――――
「分かった···もういい、もう良いわよ。」
こいつらは存在してはいけない存在だ。
お母様、やはり私は人間なんて信用できません。ライト以外の人間を信用できないのです。だから、もう良いわよね? 勇者達よ、後で後悔すると良いわ。
「お前達を王国へと戻すわ、良いわね?」
そして私は、ハサミを取り出して一本の髪の毛を切った。
その一本の髪の毛を持ち、勇者達にこう言った。
「この髪の毛一本でお前達を王国へと戻すわ。
あまり、理解できてないようね···私はお前達よりも強い。」
「ふざけるなぁ!!」
そして私は髪の毛一本を勇者達に払った。
すると勇者達は一瞬で目にも止まらぬ速さで王国へと飛んでいった。
「本当に私って何なのかしら? あれ?」
これは何? 目から水が出ている。これって涙?
涙、私が涙を流している? この私が? 何者でもないこの私が? 初めて出た、これが涙か···なんかスッキリしたわ。泣くことは良いこと、というわけね? 覚えたわ。
「ライトに会いに行こうかしら? もうそろそろ終わった頃だし、いや、もしかしたらまだやっているのかも? 良し、見に行こう!」
そして、勇者達を追い出した私は最愛の人のところに向かった。
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