第三十七話
時間が掛かりましたが更新します。
咄嗟に右手を切り落とされたミナは眼を見開き驚愕して、一度後退しようとするが猿の異形に何ヵ所か骨折した挙げ句に左手を切り落とされた時の痛みが生じ動きが鈍くなる、その隙を見逃さんと言わんばかりに黄金の聖剣を斬りかかってくる。
「オラオラ! どうした!! それだけなのかよ、テメェの力はよぉ!!」
調子に乗ったのか段々と速度を上げており、ミナが身に付けているコートと服がボロボロになっていき、腿が露出していた。
「オラよぉ!!」
カリンは彼女の腹ドロップキックを放った。
「グハッ!!」
ジークフリートで防御したが、その衝撃は強くミナがこの書斎だった場所に繋がる廊下へと吹き飛ばされた。
「クゥッ!!」
バク転して体勢を整えてエントランスまで後退する。
もしジークフリートで防御してなかったら死んでいたところだろう。
「おいおい、逃げんなよ~。」
エントランスまで後退した彼女は周りを見渡すがランスロットの姿とメディナ達の姿が無かった。
場所を変えたのか何処にも居なかった。しかし、彼女にはそのように考える暇はなかった。
「おいおい!! エントランスに逃げ込んでどうすんだよぉ!! それだとずっと俺様のターンだぜ!!」
黄金の聖剣を持ったことにより、強力な力を得たカリンを前に唯単に防戦するしかなかった。
「どうしたあ!! 守ってばっかだと死ぬぜ!!」
「ハア、ハア······」
(魔神剣を全開に近い力を発揮しないと······勝てる可能性が低い。)
しかし、ジークフリートを全開に近い力を発揮しようとするが、怪我のせいか体力が消耗しており、とてもじゃないが黄金の聖剣に力を奪われている感じがした。
「へへへ、そろそろ魔力が尽きる頃合いだろうなあ。」
「何っ」
「知っている筈だぜ? 俺様のこの黄金の聖剣に魔力を奪われていることをな。」
「·····ッ」
「それにな、その剣にも興味有るし、提案があるんだ。何よりテメェを犯して妾にしてやっても良いぜ? どうだ?」
「断る。」
ここで惨めな結果になるくらいなら戦って死ぬと言うような眼でそう訴えた。
「そうかい、んじゃ死ねや。」
その一言で興味を失ったのか、黄金の聖剣を振り下ろした。
「何だと!!?」
突然居なくなったことに眼を見開き驚愕したカリンは周りを見渡すと灰色の翼を片方だけ生やし、見た目が眼帯を除くならミナと対して変わらない見た目をした少女がミナをお姫様抱っこしていた。
「全くもう、御前が死んだら私はどうすれば良いんだよ。」
「すまんな、天津······情けない姿を晒して。」
「まあ、良いや······最初からジークフリートを全開に使っとけば良かったのにな。」
「悪いが私がトドメを刺すんだ。」
「分かったって、あいつを再起不能になるまでフルボッコにすれば良いだけだろ? 簡単だよ。でも後で約束してくれる?」
「分かった、1日中妹になってやる。」
「ありがとう~」
·······そうして、堕天使である天津はミナを運びエントランスの右の壁に寄っ掛かせた。
「まあ、休んでおけよ。」
「気を付けろよ。」
彼女は笑みを浮かべて踵を返し、カリンの前に出た。
「お待たせしたな。
私はミナの姉をやっている天津だ。」
「何だテメェ? いきなり邪魔しておいて自己紹介するのかあ? アア!!」
「うるさいよ、その言い方······どうにか出来ないの?」
「黙れや!! それにテメェも良い体つきをしてるじゃねぇか!! テメェも犯してやるよ!! それも翼が付いている美少女と来たあ!!」
「我が肉体に気安く触れるとでも? たかが精霊使いごときが·····精霊を消せる私をやれるとでも?」
「無理矢理犯してやるよ!! 四肢を切り落としてなあ!!」
天津は冷たい表情で人差し指を今にも黄金の聖剣を振り下ろそうとする右手に向ける。
「それは御前だろ。」
そして、線を描くような動作をした。
「えっ?」
するとカリンの黄金の聖剣が落ちた······右腕と共に。
「痛えええええええええぇぇぇぇよおおおおおおお!! 俺様の利き手があああああああああああああああ!!? 俺様の腕があああああああああ!!?」
何故自分の利き手が無くなっているのだろう? 何故膝を着いて情けない絶叫をあげているのか?
カリンには理解できなかった。
目の前にいる小娘は何をした? 唯指で線描くような動作をしていただけなのに何故自分の利き手が落ちた?
「そんなことで叫ぶなよ。
せっかくのイケメンが台無しだぞ?」
「腕が······腕が·······!!」
「腕くらいで喚くな。もっとやって欲しいみたいだな。」
また人差し指で残りの部位、左腕、両足を線を描くような動作をする。
「うわあああああああアアアアアアアアア!!」
そして、またしてもカリンの利き手と同じく左腕、両足が血を吹き出しながら無くなった。
「······楽しかったか? ミナを痛め付けたことは? どうだった?」
両手両足を失ったカリンは見上げて罵倒した。
「ふざけんな!! これだと楽しみが出来ねぇじゃねえか!! 直せよ!!」
その楽しみとは立場の弱い人間を痛め付けることだろう。
「下らん、そんな楽しみなどな······知ったことか。」
そう言って指をパチンと鳴らした。
「あっ、あれ元に戻っているだと!?」
「さあ、それでどうする? また私を襲うか?」
彼女は軽蔑な目刺しを向けて問いだした。
「ケヘヘ、俺様を回復させるとはな!! テメェアホだろ!! なあ!! ギャハハハハハハハハハ!!」
黄金の聖剣を拾い上げて、立ち上がって地面を蹴り三回斬り掛かる。
「そう来るか。」
それを指先一つで防ぎ、翼で叩き付けた。
「グハッ、テメェ······ズルいぞ!!」
「ズルは御前だろうが······まあ、所詮借り物では私は殺せん······当然魔王にも、況してや闇の女王を倒すことさえ無理だろうな。」
「何だとテメェ······調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
「いや、調子に乗っているのは御前だよ。借り物の力で」
「はっ、反則だろ······それ」
「その剣はある意味反則だと思うがね······しかし、御前は使いなれていない時点で負ける。それとミナにさえな。」
「へぇ~あの女、ミナというのか······良い名前じゃねぇか。
·······それに俺様はあの女を殺せた筈だぜ? テメェが邪魔しなかったらなあ!!」
「ランスロットを雑魚と言っていたが、御前は本当に倒していたのか?」
「ああ!!? 倒したさ!! ちゃんと死んでいることも確認したからな!!」
「例え生きていたら?」
「ああん!!? 生きてる筈無いだろうが!! 心臓を破裂させたしな!!」
(······この男はランスロットを死んでいると思っている······つまり、この男は察知能力を持つ精霊が居ないということか? にしては妙だな。)
精霊には必ず得意不得意がある。
ミナとランスロットが交戦した精霊騎士のメディナとの戦いで察知していても可笑しくない······なのに察知能力を持つ精霊が居ませんでしたって満足できるわけがない。
「そうか、じゃあ何故精霊騎士のメディナが戦っている? 彼女は一体何と戦っている?」
「ハア!? アイツは頭が可笑しいだけだ!! 死んだ奴に恋するとかふざけているだろうが!!」
カリンは立ち上がって、黄金の聖剣を使って斬りかかる。
「死んでないだなあ······それがね。
それに何でさっきから同じような攻撃しかしない?」
カリンに腹を高速で3発殴り付けて平手打ちをお見舞いさせ、
「グへぇ!!」
「弱い······正直に言うと御前は弱い。
その剣と精霊使いで無ければ雑魚も同然な上に努力をして習得したわけでもない。
······運が良かっただけでもない······その証拠はこれだ。」
彼女はカリンの指を突っ込み、その中の物を目玉ごと抜き取りカリンは絶叫した。
「ギャアアアアッ!! 目がッ、目があッ!!」
天津は丁寧に抉り取った目玉を丁寧に剥いて分解していた。
「これをこうして、こうやって分解してと······良し、出来た。」
目玉だった物から取り出したのは赤い宝石のような石だった。
「これ······何処で手に入れた?」
「ひっ」
表情は笑顔では有るものの目が笑っておらず、声色が低い上に威圧的で思わずカリンは情けなく小さい悲鳴を上げた。
「何処で手に入れたと聞いているんだが、大半はこの石が原因かな。」
「かっ返せ」
「しかもこれ量産型じゃないか······って事はオリジナルが何処かにあるかもな。」
そう言いながら指に力を入れる。
するとその赤い石に皹がピリッと入りカリンは彼女が何かすることを理解したのか懇願した。
「やめてくれ!! それがなきゃ俺様は生きていけないんだよ!! 頼む、やめてくれ!!」
「馬鹿か、たかが石一つで······それにこれは私が居た世界ではタブーだ。
相手を魅了する石なんて欲しがる奴など居ないだろ? 下心がある奴以外はな。」
そして、パキンという音が鳴り響きその石「魅了の義眼石(量産型)」は粉々になった。
「ッアアアアアアアアアアアア!!!!!! テメェエエエエエエエエエ!!!」
「良し満足満足♪ これでもう御前に従う者なんて居なくなったよ。
これで安心して戦えるね♪」
邪悪なオーラが見えるくらい魔力を大展開して、天津に飛び掛かった。
「御前は猿か。」
頭を掴み地面に叩き落とす。
「また、同じようになりたいのかな? ねえねえ。」
髪を掴み持ち上げてベシベシと彼の両頬を腫れるくらい叩く。
「面白ーい。」
目は笑ってないが笑顔のまま叩き続けた。
「やめっクベッ!! てくッブバッ!! 頼むかッ!! ギガぅ!!!!!!」
何とも情けない悲鳴を上げて段々とイケメン顔が不細工になっていく姿は滑稽だろう。
「何~? その変な悲鳴? 変だね。」
そして、再度地面に叩き落として、片方にしかない羽を右肩にブッ刺した。
「グギャアッ!!」
「もうギブかな?」
そう確認した後、黄金の聖剣を取り上げて「ふーん」と納得したような素振りを見せた。
「黄金の精霊ねぇ、これどう見てもそうは見えないんだけれどね。」
黄金の聖剣の刃の部分を見つめて、少し触れると音も立てずに土になって崩れ去った。
「脆いな。
少し触れただけで崩れるなんて······さては私があの石を破壊したことによって一部は逃げ出したな。」
「アア!!!!!! 俺様の······黄金の聖剣がああ!!? テメェ、このビッチがァ·······ふざけんじゃネェぞお!!」
「ふざけてない、もうこれ直せないよ。」
黄金の聖剣だった物を見せ付ける。
これに目を見開き歯を噛み締めて、これまでにない怒りに震え、震え口で罵倒した。
「よ、よくも······やって、くれたな······!!」
「·······えい。」
そんなことなどお構い無しにカリンの顔面を殴る。
それに威力も上がっている。
「てへぇ、よぬも」
手加減していたとはいえ、顔面を殴ったせいかカリンの顔立ちは更に不細工になっており、鼻は変な方向に曲がり、歯はほとんど欠けて中には抜けている歯もあった。
その証拠に顎も外れたらしく、変な話し方になっている。
「あれぇ? 手加減したつもりが顔が更に不細工になったな。」
「なんひゃと······?」
天津は鏡を魔法で出現させて見せる。
「なっ、なんひゃこひゃあ!!?」
彼は表情を真っ青にして、確認のためか鏡を見ながらさわって確認した。
「うひょおおおおおおオオオオオオoooooooo!!?y!???」
ソレが事実だと判明すると彼は発狂した。
「気持ち悪い発狂だな。まあ、そろそろ良いかもな······彼奴はもう回復したみたいだし、能力を排除して拘束しよう。」
「にゃにを、しゅるちゅもりだ」
「こうするの」
彼女は手を翳して呪文を唱える。
するとカリンの身体から光の粉のような物体が彼から逃げ出すかのように次々と出てきた。
それが全て逃げ出した途端、カリンは身体が重くなるような衝撃を食らった。
「あっがっ、おみょいッ!! イヒャイッ」
「そりゃあ重いし痛いよねえ~······だってさ、借り物の力を何も工夫も無しに使えばそうなるよ。現に身体の何処か、その一部が折れてるか、粉々になっているよ。」
「まあ、自業自得だよね~だってさ、ずっと悪事を働けばいつか自分に帰ってくるんだよ? 御前は運が悪かったのさ。」
「ふっじゃけるにゃ!!」
「まだ余力残ってたんだ。縛る必要は無いが年のためにね。」
無詠唱で魔法陣から縄を取り出して、カリンを巻き付けた。
「さてさて、彼奴をそろそろ呼ぼう。」
「おーい、ミナ!!」
「何だ。」
「もう直ったのか? 速いな。」
「速くはない。少し手間が掛かった。」
ミナは余裕さは無いが、少しだけ回復しており相手を殺める事は出来ないが人生を破壊することなら出来る。
「そうなんだ。じゃあどうするの?」
「こいつを使う。」
ミナはポケットから注射器のような物を取り出した。
「にゃにをしゅるちゅもりだ?」
「安心しろ、死にはしない。だが元の生活に戻れるかどうかは保証できんが。」
そうして、カリンの腕に注射器の中身を注入した。
「キシャマ、にゃにをしたんひゃ!!」
「直ぐに効果が現れるわけではないか。よし、少し気絶させてもらうぞ。」
「ひゃにを········グベッ!? ぐる、シイ!!」
ミナはカリンの首を腕で絞めた。
腕の力を少しずつ入れていく。
そして、しばらく経つと彼は意識を失った。
「これで気絶させた。後は地下に運ぶ。」
「そうか、なら私瞬間移動が出来るから肩に掴まって。」
「何でもアリだな、堕天使という奴は。」
そう言いながらも天津の肩に手を置いた。
「んじゃ行くよ。」
彼女はパチンと指を鳴らした。
すると薄暗い空間が広がっていた。
そこは先程戦闘が有ったのかホコリまみれになっており、物が散乱していた。
ミナは天津の肩から手を離し、赤い何かを確認する。
「これは血か······それに続いているな。」
一度気絶したカリンを降ろして、天津にソイツを椅子に縛ってくれと頼み、彼女(彼)は続いている血を辿った。
辿った先にあったのは身体や顔が酷く歪み内蔵を散らしていた遺体と腐敗した性別不明の下半身だった。
そして、その遺体を調べていると後ろから声が掛けられる。
「遅かったではないか。」
聞き覚えのある声で咄嗟に後ろを振り向くとそこには椅子に座っていたランスロットが寛いでいた。
黄金の剣:ライトの魔力を奪いながら追い詰めていたが天津に消滅されてしまった。