第十四話 絶望を与えよ
一番最初にルークが駆け出してファイアーソードを振り下ろした。
それを見切ったのかライトは魔神剣で火が纏うファイアーソードを弾き返そうとした時
「無駄だッ!!」
弾き返そうとした時、火がライトの腕に乗り移り、それに反応したライトはすぐに後ろに下がりクロスボウを取り出して三発射撃した。
「せいッ!!」
だが、ルークは剣を横へと一振して三本のボルトを叩き落とした。
そして、その隙にライトは近くにある衛兵の死体から剣を素早く引き抜き、ルークへと投げた。
投げた剣が素早くルークの喉へと迫るが、彼は口角を上げて、ファイアーソードで斬撃を飛ばしてきた。
「······仕方ない、あまり使いたくはないが、能力を使うとするか。」
ライトは何か理解したのか、魔神剣に強力な呪いを掛け、魔神剣を構えて身体から邪悪な黒いオーラが出しながら眼を鋭くした。
「へっ何をするか分からないが、俺様のファイアーソードには通用しねぇぜッ!!」
そう言いながら攻撃できないライトを煽りながら、ルークは地面を蹴り、駆け出しながら剣を振り下ろした。
「見えた」
そして、たった、たったそれだけの呟きでルークの両腕が宙を舞った。
その時、ルークは思考が停止して、周りの時間が遅くなったかのように呆然としていた。
何だ? 何でファイアーソードが無いんだ? 何故、俺様の両腕が無くなっているんだ? 何処に行ったのだろうか?
そう思いながら空を見上げるとクルクルと回っている物が地面へと落ちて、それに気付いたライトはそれを拾い上げて、それをルークの方へと投げた。
そこにあったのはルークの両腕と粉々になったファイアーソードだった。
自分の腕だと分かったルークは断末魔を上げて後ろへと倒れ込み、それに反応したのか血が吹き出して、更に断末魔を上げた。
「助けてくれッ!! 誰か、痛い痛い痛い痛い痛いッ!!」
当然、助けなんか来るわけが無い。
そう理解しているつもりなのに助けを呼ぼうと声を上げるが誰も来ない。
例え、誰かが生き残って、生き残った人物に助けを呼ぼうとしても恐怖で動けなくなるだろう。
今、ルークが思っていることは恐怖心と絶望感だった。
早くここから抜け出したいと心の底から思いながら逃げ出そうとすると
「どうした? 何故逃げようとする?」
ライトはそう告げながら魔神剣を前へと向けて赤黒いオーラが出始めて詠唱を唱えた。
『我は絶望を司る者、我は卿に絶望を与える者。
そして、どれ程大きな希望を持ち合わせようとも総ては絶望へと変わるであろう。“絶望“』
それはまるで呪いの歌のような詠唱だった。
そして、その詠唱を唱え終わった瞬間、景色が一変した。
「ヒィッ!?」
そして、それを見てしまったルークは小さな悲鳴を上げてしまった。
何を見たかというと周りの空気が重くなり、空も赤く染まり、近くにあった死体は焼け焦げたように灰になり、近くにあった家などが崩れ始めて中にある死体が物凄い悪臭を発して、中には腐敗した死体があり、中には目玉に剣が突き刺さって首だけにされている死体がドロドロと溶けて元の原型が分からなくなっていた。
それを見たルークは更に目に涙を浮かべ、口から嘔吐した。
「汚いな。
だが、それが良い。」
唯一人、ライトはその様子を見て随分と楽しんでいた。
何故、楽しんでいるのかというとルークが何もないのに泣き叫びながら嘔吐して、発狂しているからだ。
恐らく、彼にとってはこれが嗤えずにいられる訳が無いだろう。
ちなみにライトはルークが見ているものを予想しているがルークが見ているモノは見えてはいないが、大体想像ついたようで更に面白く見ていた。
「そろそろ精神が崩壊するかな?」
ライトはそう呟くながらルークの精神が崩壊するまで待った。
そして、ルークにとってはもはや絶望するしかないモノが近づいてきた。
「ルーラ、か?」
「ええ、そうよ」
そこに居たのはルークの恋人であるルーラ本人だった。
「何故、ここに? 君は」
死んだ筈じゃないのか? と聴こうとしたが急に彼女はルークに抱きつき、彼を慰めようと頭をよしよしと撫でた。
そして、泣き止んだルークはルーラに生きていることに喜びを感じ、ここから逃げようと提案を出す。
「あっ、そうだ。
君はまだ生きているのだろ? ならここから出て、遠い場所で暮らそうよ。
ここはあの極悪人の殺戮魔が居るんだからさ。」
そう言うとルーラの表情が少し悲しそうな感じになり、彼女は顔を下に向けた。
それを不思議に思ったルークは彼女にどうしたのか尋ねようと話し掛けた。
「ルーラ? どうしたんだ? 早く逃げようよ。
逃げた後に結婚しようよ。
これはまだ小さかった俺と君との約束だろ?」
そう言いながらルークは彼女の肩に手を置くと、それに反応した彼女は顔を上げた瞬間にルークは目を見開き、顔色を真っ青に変え、口を大きく開け、膝が震い出した。
「うわああああああああああああッ!! ルーラッ!! ルーラッ!!」
彼が見たものはルーラが次々と崩れている姿だった。
目がドロリと落ちて、歯がボロボロと落ち、更に右腕が腐れ落ち、また、その次に左手が落ち、目の穴からウジ虫が出て、そのままサイコロステーキのように腐れ落ちた。
「オエエエエエエエエエエッ!?」
それを見てしまったルークは真実を知って絶望したまま、またしても嘔吐した。
「何で、だよ······ッ!! やっぱりルーラは······。」
やはり彼女は死んでいたんだと改めて知ってしまい、近くにある刃物を拾うとするが、残念なことに両腕をライトによって切断されてしまった為、
彼自身が自害しようとしても腕がなきゃ自害など出来る筈もなく、更に絶望の声を上げた。
「もう、嫌だ······誰か殺してくれ」
そう呟くと
「まあ、良いだろう。
卿がそう言うのなら仕方がないな。」
その声を聴き、ああ、あの殺戮魔か、と安堵して、死ぬ覚悟をして座り込み、何時でも殺しても良いように目を瞑った。
しかし、何時まで経っても殺してくる気配が無かった。
どうしたのだろうと目を開けると
「ああ、卿よ済まないな。
殺すことは止めるが、そのまま死んでおけ、理由は分かるであろう?」
ルークを殺すことを止めたライトは何故、殺さないのか分からずルークはライトの目を見るが、ライトの眼に宿っていたのは呆れだった。
そんなに殺して欲しかったのかとでも言いたげな目をしており、ライトは彼の事を心底呆れていた。
ならば、彼を餓死させるか、魔物に食われて殺されるかのどちらかにして放置することにした。
ライトはルークとのちょっとした戦闘で気付かなかったが、近くに魔物が来ていることを魔神剣を通して感知していた。
そうしてライトはルークを殺すのではなく、魔物に食われる方が良いと考え、放置することにして彼に別れの言葉を告げた。
「さよならだ。
そのまま魔物に食われるか、そのまま餓死するか、好きな風に死んでおけ。」
そう告げながら、魔王城へと続く転移魔法をするための石を使い、ダウンスロー市街を去った。
その後、残ったルークは両腕を失いながらも魔物の進行を止めようとしたが、彼女であるルーラが死んだ事、冒険者ギルドに居る冒険者達が全員死んだ事、住人達を守れなかった事に絶望して、そのまま魔物に両足を喰われ、腹を喰い破られ、中にある腸を食い荒らされ、苦しみながら死んで残ったのはルークが着けていた結婚指輪だけだった。
そして、その様子を魔王城にある水晶玉で見ていたライトは満足そうに微笑み、ミトラに報告しに行ったのだった。
ちなみに『絶望』という能力は魔神剣の能力で幻覚+幻聴+精神汚染+絶望+殺人に特化した能力です。
簡単に言えば相手に幻覚を見せて、更に絶望を与えた後に相手を殺害する物です。
その前に絶望して精神が崩壊した相手が自害する可能性が高いですが、ライトにとっては自害しようが自身が殺そうがどちらでも構わないのですが、今回は彼方から殺してくれと頼んできたため、殺すことを止め、そのまま放置することにしました。(まあ、自分が考えたこの能力の詠唱はちょっと恥ずかしいですが)
それとライトの能力の名前が出てこなかったと思いますが発動した能力は『見切り・高速反撃』という名前でカウンター、パリィ、切り返しに特化した能力です。(しかし、本人は能力を使うこと自体、嫌っていますが)