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梅仕事

 その日の私は浮かれていた。

 ニートになったからには、今までやってみたかったけどできなかった事をしよう! という気持ちになっていて、今日はそのうちの一つに取り掛かる事に決めたのだ。

 この時期にしかできないそれは、自家製の梅酒作りである。

 酒飲みとしては、やっぱり自分で作る梅酒というものに憧れを持っていた。けれど忙しすぎる日々は、そんな事をする気力すら奪っていたのだ。

 だけどニートになった今ならば、有り余った時間を使って梅仕事に取り掛かれる。

 ちなみに買ったほうが安いだとか、間違いがないだとかは言ってはいけない。自分で作ることに意義があるのだ。



「何か作るのか?」


 台所で材料を用意していた私にルイが声を掛けてくる。


「ん、ちょっとね」


 用意したのは梅の実と氷砂糖にホワイトリカー、それと大きな広口瓶。

 今は瓶を消毒するためにお湯を沸かしている所だった。


「その実、毒があるな……いや、ごくわずかか」

「え? ルイって見ただけでそういうのわかるの?」


 確かに梅の実には微量の毒があると聞いたことがある。大量に食べないと問題ない程度らしいし、そもそも生食する気はないから関係ないけどね。

 それよりも、見ただけで毒を見抜いてしまうルイの能力に驚いてしまった。


「毒殺への備え一つだな。毒の有る食材は見れば大概はわかる」

「そうなんだ、すごいね」


 やっぱり、王と毒とは無縁ではいられないものらしい。昔の王様の話でも毒殺はなんかはよくあったし、毒見役がいたり、毒に備えて銀食器を使ったりなどしているというのも聞いたことがある。


「でもこれは大丈夫だよ。漬けてるうちに毒も抜けるしね」


 ま、でも私は誰も毒殺する気はありません。作りたいのは美味しい梅酒。


「そうだ、一緒にやる?」


 これから待っているのは、竹串を持って梅の実のヘタ取る作業だ。

 きちんとこれをしておかないと、お酒にエグみが出るらしい。地味な作業ではあるけれど、一つ一つ丁寧に取り除いていかなくては。


「遠慮しておこう」


 肩をすくめたルイはあっさりと断りの文言を口して、台所から離れていった。その答えはなんとなくわかっていたけれ、ど少し残念に思ってしまう。

 まあでも、仮にも王様に梅のヘタを取る作業をさせたとか不敬でしかないよね。


 地道に梅のヘタを取ったら、しっかり水洗いして今度は一つ一つ丁寧に水気をふき取っていく。

 やっぱり地味な作業だけど、カビの発生を防ぐためにも怠る訳にはいかない。

 全ての梅の水気が取れたら、熱湯消毒した広口瓶に氷砂糖と交互に詰めていく。その上からホワイトリカーを流し込んで、仕込みは完了。


「よし、出来た!」

「それは酒だな? すぐ飲めるのか?」


 私の声につられたのか、ルイがもう一度台所に顔を出す。


「いやぁ、これは最低でも三か月……うーん、できれば半年とか一年は漬けておかないと飲めないよ」

「そうか……」


 出来たといっても完成ではない。梅酒の熟成には時間がかかるのだ。見たことのないお酒に期待していたのか、非常に残念そうな顔をされてしまった。



「そうだなぁ。市販の奴だけど同じ種類のお酒を飲もうか?」


 なので、そんな提案をしてみることにした。

 手作りしてみたいほどには好きなのだ。市販の梅酒なら家に常備してある。

 梅酒はまだルイには飲ませたことが無かったので、ちょうどいいかもしれない。

 まだお昼だけどね。まあいいか、ニートだし。


「仕方がないな」


 しぶしぶという感じに頷くルイの顔は、どこか楽しそうに笑っている。飲んだことのないお酒が今から待ちきれないのだろう。


 グラスにいくつか氷を入れて上から梅酒を注ぐと、きれいな琥珀色が踊る。

 ルイにも手渡したら、そっとグラスを重ねて乾杯。


「これは、甘いな」


 ルイは梅酒をひとくち口に含むと、驚いたように顔を上げた。


「あ、そうなの。お砂糖と一緒に漬けてるからね」


 作るところは見ていなかったからか、お砂糖が入っている事に気が付ついていなかったらしい。

 びっくりした顔のまま、もうひとくち口にするとしみじみと目を閉じた。


「甘い酒は初めて飲んだが、美味いな……」


 ルイって結構甘いもの好きだもんね。お気に召したなら何よりです。

 しかし、いつものことながら、良いリアクションをしてくれるなぁ。

 何を食べても飲んでも美味しそうにしてくれるから、ついつい色んなものを出してみたくなっちゃう。


 おっと、ルイのリアクションに見とれて、自分が飲むのを忘れてた。

 そっとグラスに口を付けて梅酒をひとくち。甘みとさわやかな梅の香りが広がる。


「うん。美味しい」


 私の作った梅酒もこんな風に美味しく出来上がってくれたら嬉しいな、と思いながら喉を潤す。



「これが出来上がったら一緒に飲もうね」

「……ああ」


 梅酒の瓶を眺めながらそんな事を言うと、ルイはどこか驚いた表情でこちらを見た。

 三か月後、半年後、一年後。気が付けば、そんな未来もルイと一緒に居る気持ちになっている自分がいた。

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