第2話 始まる第二の人生
街へと向かった僕とシラユキは冒険者ギルドを訪れていた。
「登録お願いしまーす」
「畏まりました。こちらの記入用紙に必要事項を記入してください」
シラユキはギルドの職員から何かの登録用紙を受け取った。
そして名前の所にネムと書き、必要事項を着々と記入していく。
このゲームに職業などは無く、個人のステータスから振り分けたいステータスを決め、基礎ポイントを振ることでそのステータスを基礎ポイントの量に応じて伸ばすことが出きるのだ。
「ネムちゃん、ちょっといい?」
シラユキがそう言うと僕はシラユキに抱き上げられ、本人確認の場所に手をかざされると僕には読めない文字が写し出されてた。
すると今度はギルド職員がやってきて登録用紙を回収すると登録用紙が2つの腕輪に変化した。
「こちらはネム様の【契約の腕輪】になります。装備するとネム様のランクやスキルレベルなどをステータスから確認できるようになるだけでなく、距離制限なども出来るようになるので必ず装備してください」
「はい。了解です」
シラユキがギルドの職員から2つの腕輪を受け取るとシラユキは自分の右腕と僕の左腕に1つずつ嵌めた。
腕輪は2つとも同じで柄もないシンプルな黄色い腕輪。契約の腕輪ということは同じパーティーの申請か何かなのだろう。
「ネムちゃん、ステータス出して」
僕はシラユキに言われてステータスを開いて確認する。
すると僕のステータスは明らかにおかしかった。
HPやMP、VITが存在してなかったのだ。
他にもスキルの枠が10個しかなかったり、解説の部分には『人気VTuberシラユキの可愛い妹。管理者以外の触れた異性を【魅了】にする』と書かれていた。
「……【管理者】?」
「私のことだね。ネムちゃんは肉体がないから私が腕輪をつけてる限り、ネムちゃんは私の装備品として扱われてるよ」
シラユキの言葉を聞いて僕は納得した。
僕は肉体もないのでプレイヤーとしてカウントすることは出来ない。そして、装備品には【破壊不能】を持っているものも多く、HPやVIT等がないことにも納得がいく。
もし僕が破壊されてしまうとどうなるのかそれは誰にもわからない。もしかしたらゲーム事態が壊れてしまう可能性もある。
だからシラユキは僕を【破壊不能】装備としてこの世界に連れてきたのだ。
「じゃあついておいで。私たちのギルドまで行くよ」
僕とシラユキは手を繋いでシラユキの加入しているギルドハウスへと向かった。
途中、他のプレイヤーたちからの視線が凄まじかった。シラユキはこの視線に対して何故平常心を保っていられるのかと、疑問に思った。
「さあネムちゃん! 私たちのギルドへようこそ!!」
シラユキに言われて中に入るととても可愛らしい内装でいかにも女子という感じだった。
しかし、肝心のプレイヤーの姿が何処にもなかった。僕がシラユキの方を見るとシラユキは僕から顔を逸らし、ヘタクソな口笛を吹いていた。
つまりこれはアレだ。シラユキは━━━━
「やめて! そんな哀れな目で見ないで! 違うから! ちゃんと居るから!!」
「ボッ━━━━」
「いやああああああああっ!!!」
僕がシラユキに言おうとするとシラユキは大声を出して僕の声をかき消した。
「どうせネムちゃんだって私と一緒でしょ!」
「え? ボッチじゃないよ?」
「…………」
シラユキが勢いよく誤魔化すために僕を巻き込もうと指をさして言ってきたが思わぬカウンターを喰らい、絶句した。
全く、この僕をコミュ障と一緒にしないで貰いたい。ただちょっと会話が下手で友達との縁が1ヶ月ぐらいしか持たないだけさ。
それから少しするとシラユキが落ち着いたのか話しかけてきた。
「さて、まずはネムちゃんの力を試しに行くんだけど、その前に━━━━」
「?」
シラユキが笑って僕のことを見てきた。
イヤな予感しかしないのだけど……
「かわいい!!」
ただいま絶賛着せ替え人形中。僕は先ほどから体操着やメイド服、修道服、巫女服、某人気アニメのコスプレとシラユキの趣味が丸出しの服を試着させられ、購入。という作業になっていた。
着替えはボタン1つで完了だから身体的にはそこまで疲れないけど、精神的にはかなり疲れた。
「やっぱりね……」
シラユキが僕のことをジッと見つめてくる。
僕はただ着せ替え人形をしていただけなのだが、何か不味いことをしたのだろうか……?
「女の子らしさが殆どない!!」
当たり前である。今朝までは男子高校生だったのだから。
逆に女の子らしさしか無かったらそれはそれで問題がある。
「(どうしたらいいの? そうだ! Pちゃんに聞こう!)
……ちょっとログアウトして調べてくるから大人しくここで待っててね?」
シラユキはそう言うとログアウトを押すと姿が消えた。
本来装備品扱いの僕はシラユキと同時に消えるはずなのだが、サポートキャラという枠なのでシラユキがログアウトしてもその場から消えることはない。
そして、シラユキがログアウトした場所から15m以内の区域を自由に動いてシラユキがログインするのを待つシステムになっている。
簡単に言えばスーパーの前で飼い主を待ってる犬である。
それから待つこと30分。ようやくシラユキがログインしてきた。
ゲーム内は現実世界の3倍で進んでいるので待機時間が長く感じる。
「お待たせ! 待ったよね? 解決方法探すのに時間が掛かっちゃって……
(ネムちゃんも人工知能らしいからそういうものだと学習させるんだって、Pちゃんも言ってたからやってみよっかな?)」
何故かその瞬間僕はあり得ない程の寒気がして肩がビクビクと震えた。
そしてシラユキが顔をニヤつかせながら僕の方を見た。
僕は恐怖のあまりにゆっくりと後ろに退いていく。
「ネムちゃんの性能確認は明日でもいいよね? ネムちゃん、どこに行くの?」
シラユキが呼び止めるけど、僕とシラユキの距離はそれなりにある。さらに僕とシラユキのAGIが同じになるように調整されている。つまり絶対に捕まらないのだ。
というわけで僕は走り出した。
「【止まれ】!!」
シラユキの声が僕の身体に響く。
すると僕の身体は突如として動かなくなり、慣性の法則によって前に転んだ。
━━━━どうして……?
「ふっふっふっ、ネムちゃんは私のサポートキャラだからね。ある程度の簡単な命令は出来るのだよ」
ドヤ顔で倒れてる僕に解説してくるシラユキ。
僕はシラユキの奴隷にでもなったのだろうか……?
「ネムちゃん捕まえた。もう逃げられないからね? 大丈夫。お姉ちゃんの言う通りにすれば悪いことはしないから……ね?」
僕はシラユキに抱き上げられ、何も抵抗出来ないままギルドハウスへと運ばれたのだった。
その日僕は、女の子としての常識を身につけられたのだった━━━━━━