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恋愛記録ファイル(学生時代編)

長く遠い憧れの人

作者: 涼

夏も終わった9月の中旬の話。残暑が続く中、私は海沿いの国道9号線をひたすら歩いて憧れの人の家を目指した。その道のりは私が想像した以上に辛く長いものとなった。


ことの始まりは、その年の夏、私が近所の幼馴染の下山正俊の田舎に10日間遊びに行った時のこと。田舎は島根県で正俊の祖母が住んでおり、その家に寝泊まりすることになった。ほとんど海でしか遊ばなかったので退屈でしかなかった。最初の二日間は海で泳いだりしたものの、3日目には飽きてTVゲームばかりしていた。そのうち生活リズムが狂いだし、昼夜逆転の生活になった。そんなある日、たまたま午後に目が覚めた私は、一階の玄関から女の子の声が聞こえた。


「正俊はまだ寝とるん?」


ちょうどその時、正俊も目が覚めたみたいだ。


「うるせーな」


寝ぼけながらも面倒くさそうにしながらも正俊は一階の玄関へ向かったので、私もついて行った。私が寝泊まりさせていただいていたのは二階だったが、昔の家ながらの階段が急で、寝ぼけて転びそうになったのはいうまでもない。そして玄関に着いた時、私は一発で目を覚ますことになる。私と正俊の顔見るやいなや、その女の子は話しかけてきた。


「あんたら、田舎に来てまで昼間寝とるんか!?」


正俊は暇で仕方がない、行くところなんてないなどと言い訳をしていた。


このちょっと気の強そうな女の子は色白でスマート、ツヤツヤした髪の毛をポニーテルにして、少し目が垂れ気味でクリッとしていた。そう、まさに私のタイプの女の子で胸がはちきれそうにキュンッとしたのだ。私が即一目惚れしたことはいうまでもない。私は女の子に誰なのか聞いてみると、正俊の従妹で名前は亜津子さんというらしい。


その日は顔出し程度だったのか、すぐに亜津子さんは帰って行った。私は退屈すぎる田舎暮らしがなんだか楽しくなってきた。それから私は亜津子さんの家に新しいゲームソフトがあるという話をきいたので、正俊にそのゲームをしにいこうとしつこく言った。正俊は面倒臭そうであったが、私を亜津子さんの家に毎日のように連れていってくれた。亜津子さんとゲームしているうちに会話も弾んできた。そして亜津子さんが私より一つ年上なのと、恋人はいない、都会に憧れていていつかこっちの住む街で一人暮らしをしたいということがわかった。


ところが・・・


私が帰る日がやってきた。今回の滞在は10日間という短い期間での約束だった。帰る日には亜津子さんも見送ってくれたけど、もうこれで終わりなんだと思った。そういえば亜津子さんと写真すら撮ってないし、そもそもカメラなんて持ってなかった。まあ、短い恋心だったと思いながら電車に揺られて帰っていくことになった。


それから一か月後・・・


私は帰ってからも亜津子さんのことが忘れられず、もう一度会いたいと思っていた。その頃、ちょうど私の伯母が島根県の病院で入院生活を送っていて、手伝いをする人が必要という話があった。そこで私は次の連休を利用して手伝いに行かせてほしいと手をあげたのだ。もちろん手伝いは口実で、亜津子さんとの再会が目的だったのはいうまでもない。私は手伝いを行くかわりに一日だけ時間がほしいと伯母にお願いしてみた。すると伯母が日曜日なら暇だから構わないという。


手伝いに行く前日、私は正俊の母に「今度の日曜日、正俊の田舎のすぐ近くに行く用事があるから、夏のお礼も兼ねて立ち寄りたい」という理由で正俊の祖母に連絡をしてもらった。もちろんお世話になったという理由で亜津子さんの家にも立ち寄るということも連絡してもらった。これでバッチリだ!


そして、いよいよその日曜日当日・・・


夏に訪れた時は出雲市駅で降りて、車で迎えにきてもらい、出雲大社に立ち寄ってから正俊の祖母の家へ行ったのだ。しかし今回はすぐ近くの駅まで行かないといけない。事前に地図で調べたところ江南駅と小田駅の中間ぐらいの国道9号線沿いであることは間違いなさそうだが、どっちの駅で降りれば近いのかわからなかった。そこで私は亜津子さんが話していた「江南」というキーワードを思い出して、江南駅で降りることにした。


江南駅に着いた時はもう17時30分をまわっていた。まず江南駅から国道9号線を目指して歩くことにしたが、道路標識を見ると国道9号線まで2kmと記載されていた。30分ほど歩いて国道9号線に辿り着いたが、海なんてどこにもなく、ただの山道だった。後で拡大地図を確認してわかったのだが、江南駅から海はかなり離れていたのだ。そんなこととは知らずに国道9号線を西へ西へと歩いていった。もう江南駅から1時間以上も歩いたけど海など見えず、民家すらない。しだいに辺りは暗くなってきているし、ヘトヘトになりお腹も空いてきた。辛く長い国道9号線は延々と続くようだった。


しばらく歩いていると坂道の頂上付近に明かりが見えた。明かりのほうに近づいていくと、そこは喫茶店だった。あまりにも疲れてお腹も空いていたので、その喫茶店で何か食べることにした。喫茶店でカレーを注文して食べているとTVでアニメのオープニングテーマが流れている。もう19時なんだと思いながら喫茶店を後にした。そこから30分ほど西へ歩いていくと下り坂の途中で海が見えた。その後、坂道を降りた先に見覚えのある消防署が見えた。2時間ちょっと歩いてやっと着いたのだ。


国道9号線沿いは亜津子さんの家のほうが近かったので先にお邪魔することにした。亜津子さんの家のチャイムを鳴らす。出てきたのは亜津子さんの母親だった。ずいぶん遅くなったので謝ったと同時に江南駅から歩いてきたことも話した。


「よく江南から歩いてきたね!!」


亜津子さんの母親にびっくりされた。本来なら小田駅で降りると近かったらしい。


早速、家にお邪魔させてもらい、お世話になったお礼といってちょっとしたお土産を亜津子さんの母に渡した。すると亜津子さんが二階から降りてきた。その姿は相変わらずのポニーテールでキュートな目をしていた。やっとの想いで亜津子さんと再会できた喜びは絶頂に達していたのはいうまでもない。


ここで呑気にしていられない!


今回はカメラを持ってきていたので、なんとかして亜津子さんの写真を撮らないといけない。それが今回の最大のミッションだった。しかし、どう切り出すかしばらく途方に暮れていた。そこでわざとらしいがお願いしてみた。


「知り合いになった人の写真を集めているんだけど1枚撮らせてもらえないかな?」

「別にええけど」


亜津子さんは何も動じなかった。こんなにストレートにうまくいくとは思わなかったが、なんとか一枚だけ亜津子さんの写真を撮ることができた。もちろん亜津子さんだけだと怪しいので、亜津子さんの妹の写真も撮っておいた。


その後、亜津子さんの母に車で送ってもらい、正俊の祖母の家へお土産を持っていった。


「もう遅いから泊まっていきなさい」


正俊の祖母はそう言ってくれたが伯母の手伝いもあるのでどうしてもその日のうちに帰らないといけない。私は事情を話して泊まっていくことは断った。電車の時刻表を見ると終電には間に合いそうだ。急いで亜津子さんの母に小田駅まで送ってもらってその日が終わった。亜津子さんとの再会は一瞬の出来事だったかのように過ぎ去っていった。その後、私が亜津子さんと再会するのは6年後となる。


連休も終わり私が実家に戻った時、すぐに亜津子さんを撮影した写真を現像しにいったのはいうまでもない。そして綺麗に映った亜津子さんの写真を大切に保管して、ときどき見るようにしていた。


ところが・・・


秋も深まった頃、どういうわけか亜津子さんへの熱が急激に冷めていった。その後、保管していた亜津子さんの写真も見ることがなくなった。これはひと夏の思い出だったのか!?しかし、国道9号線をひたすら歩いて再開した時の感動は今も忘れはしない。


6年後・・・


亜津子さんがこっちに出てきて正俊の家でしばらく暮らすことになった。都会に憧れていたのか、こっちで一人暮らしをするために島根県を離れたと言っていた。以前と少しも変わらずキュートな亜津子さんはやはり可愛いと思う。しかし、もうもうあの時のような熱をあげることはなく、それ以上の感情になることはなかった。

それにしても私が歳上の女性に熱をあげたのは珍しいことであった。

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