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第四話 田中君と相沢さんのとある月曜日 その②


「……田中先輩」

「……なに、小山君?」

「アレ……どうにかしてもらえませんか?」

「いや……どうにかと言われても……」

 小山君の視線の先では、鬼気迫る勢いでパソコンに向かって何かを打ち込んでいる相沢さんの姿があった。何かに憑かれてるんじゃないかって程のその勢いと視線は……うん、恋人である僕から見てもちょっとどころじゃなく怖い。

「……そうですよ! 田中先輩! なんとかして下さい! もう、相沢先輩、怖くて怖くて……明日から私、銀行に登行拒否になりますよっ!」

「語感が結構いいね、登行拒否って」

「冗談言ってる場合ですか! ともかく、田中先輩、なんとかして下さいよっ!」

「いや、なんとかって言われても……」

「だって先輩、同期でしょ!? ぶっちゃけ、なんで相沢先輩怒ってるのかさっぱりですけど……でも、私や小山先輩は後輩だから、アレですけど、先輩ならガツンと言えますよ! 『可愛い後輩である中川が怖がってる! 怒るな!』って言って下さい!」

 それ言ったら、たぶん逆効果だと思うんだけどなー。

「いや、そもそも僕と相沢さんだよ? 中川さんも知ってるでしょ? 僕と相沢さん、そんなに仲良くないしさ?」

「そんなの照れ隠しに決まってますよ!」

「……え?」

「おい、中川! 適当な事言うな! 相沢さんの『あたり』田中先輩にだけきついの知ってるだろうが、お前だって!」

「それはきっと素直になれないだけです! ツンデレさんなんですよ、相沢先輩!」

「んなワケねーだろうが!」

 ……いや、中川さん。君は結構鋭いね。別に照れ隠しじゃないけど……アレ、演技だしね。


「……あら? また随分、楽しそうにしてるわね? なに? 人の顔見てこそこそ喋ったりなんかして?」


 ……相沢さん、いつの間に僕の後ろにいたの? あとその威圧感、結構マジで半端ないので出来れば抑える方向でお願いできませんかね?

「……相沢さん」

「なに、田中? 貴方、また仕事サボってお喋りかしら? 余裕ね? なに? そんなに仕事が早く片付いちゃってるワケ?」

「いや、そうじゃないけど……」

「それとも……わざわざ、係が違う香織がいるって事は……『デート』の相談、かしらね~?」

 中川さんから『ひぅ!』という声が聞こえて来る。チラリとそちらに視線を送れば……うん、顔が真っ青だ。

「……神聖な仕事場でイチャイチャイチャイチャイチャイチャして……」

「いや、相沢さん? 誤解だよ、誤解! 別にイチャイチャなんかしてないからさ!」

「どうだか? まあ? 香織は可愛いしね? アンタも楽しいでしょ、可愛い子とお喋り出来て! なに? キャバクラかなんかと勘違いしてんの!?」

 ……ヤバい。相沢さん、結構ヒートアップしてる。普段冷静だけどこの人、僕が絡んだら結構ポンコツになるからな。いや、嬉しいんだけどね?

「……なに笑ってるのよ、田中?」

「いや、別に笑ってないんだけど……」

 ……仕方ない。とっておきの裏技を使うとしよう。

「……悪かったよ、相沢さん。仕事中に私語をして。そうだね、確かに相沢さんは今朝からずっと仕事してるのに、僕ばっかりお喋りしてたら気も散るし……腹も立つよね?」

「……え?」

「ごめんね、迷惑かけて」

「た、田中?」

「本当にごめんね、相沢さん。これからは気を付けるから」

「ちょ、ちょっと! た、田中? わ、私、別に、そこまで怒っている訳じゃないわよ! な、なによ、その言い方……た、田中?」

 僕の言葉に、ちょっとだけ焦った様な態度を取る相沢さん。きっとこのポンコツ可愛い彼女、『僕を怒らせた!』とか思ってんだろうな~。

「……だからさ、相沢さん? お詫び、させて貰えない?」

「た、たな――え? お、お詫び?」

「そう、お詫び。今日って相沢さん、何か用事がある? 仕事終わってから」

「な、無いけど……」

「それじゃ、さ? ちょっとご飯でも食べに行かないかな? こないだ友達から美味しいイタリアンの優待券、貰ってるんだ。ご馳走させて貰うよ?」

「い、イタリアン……?」

「嫌いだっけ?」

「す、好き! だ、大好き! だ、大好きだけど……」

 ちらっと小山君と中川さんに視線を向ける相沢さん。コレ、あれだな? 『ふ、二人っきりでご飯なんて、関係がバレちゃう!』って思ってんだろうな~。

「どう思うかな? 小山君、中川さん?」

 でもね?

「す、素敵だと思いますっ! 相沢先輩、ぜひ田中先輩とご飯、行って下さい!」

「そ、そうです! ぜ、ぜひ、田中先輩とご飯に行って上げて下さい!」

 こうなるさ。それぐらい、相沢さんの機嫌悪いんだもん。僕がご機嫌取ってるぐらいにしか思ってないさ。まあ、間違ってもないんだけどね?

「え、ええ? た、田中とご飯!?」

「そ、そうです! 田中先輩、奢ってくれるらしいですし! 良いな~! なあ、中川!」

「は、はい! 羨ましいですよ! 美味しいイタリアンなんでしょ? 私も行きたいな~!」

「なんなら君たちも一緒に行く?」

「え!? ふ、二人も一緒に行くの!?」

「「謹んで、ご遠慮いたします」」

「そっか。それじゃ、相沢さん? どうかな?」

 僕の言葉に、相沢さんは目を白黒させながら。



「――し、仕方ないわね! つ、付き合って上げるわよ!」



 そう言ってふんとそっぽを向いてその場を後にする。

「……た、助かった……」

「小山先輩……私、生きてます?」

「おう……流石に俺も心臓止まるかと思ったぞ。田中先輩、勇者です!」

「そうです! あの相沢さんにご飯を奢る事で許しを請うとは……なんでしたっけ? あの、暴れる大蛇にお酒上げるやつ? なんかそれを思い出しました」

「八岐大蛇か? いや、それだと田中先輩が生贄になっちゃわないか?」

「え? 田中先輩、相沢先輩に対するお供え物じゃないんですか!?」

「……ひ、否定は出来ないけど」

「……君たち、失礼過ぎない?」

 いや、良いけどさ。っていうか、そもそも生贄に差し出そうとしてたでしょ、君たち。

「……ん? ……ふふ」

「それにしても怖かった――って、田中先輩? どうしたんです? 携帯見てニヤニヤして」

「いいや、別に。それじゃ、相沢さん待たせたら悪いから今日は残業しないようにね」

 小山君の言葉を軽くかわしながら、僕は携帯にもう一度――『で、デート! お帰りデートだ! 楽しみにしてる!』とハートマークが十個ぐらい飛んでる可愛い彼女からのラインに目を通し、僕は仕事に戻った。


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