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第三話 田中君と相沢さんのとある月曜日 その①


 土日をゆっくりと過ごした僕は月曜日、勤務先であるきらめき銀行岡本支店に向かった。ゆっくり……? まあ、ゆっくりっちゃゆっくりか。ともかく、いつも通り二階にあるロッカーにカバンを仕舞い、必要なモノをもって一階の営業室へ。そこには僕の隣、自席で仲良く談笑する小山君と中川さんの姿があった。

「おはよう、二人とも」

「あ、おはようございまーす、田中先輩!!」

「おはようございます、田中先輩」

「うん、おはよう。朝から元気だね、中川さんは」

「そうですか?」

「うん。どうしたの? なにかいい事あった?」

「良い事って言うか……日曜日に可愛いお洋服見つけたんですよ!」

「へー。良かったね。買ったの?」

「そうなんです! もう、一目惚れって感じで! ついつい財布の紐も緩んじゃったっていうか……」

 そう言って照れ臭そうに頬を掻く中川さん。その笑顔は年齢を感じさせない、可愛らしいもので。

「そういう訳で、小山先輩にお昼ご飯を奢って貰おうかと思いまして、今一生懸命交渉中です!」

 ……出て来た言葉が可愛らしく無かった。

「……中川さん」

「い、いや、結構今月ピンチで……」

「それにしたって……大変だね、小山君も」

「……もう本当にいい加減にして欲しいんですよね。さっきからコイツ、『今週の土曜日、ランチ行きましょうよ!』ってそればっかりで。RPGの村人だって今日日もうちょっとバリエーション付けるって言うのに……馬鹿の一つ覚えみたいに同じ事ばっかり言いやがって」

「ば、馬鹿の一つ覚えは酷いんじゃないんですかね! そ、そもそも小山先輩? 土曜日にランチですよ? この意味、分かってますか!」

「……なんだよ」

「さっきも言いましたが、私はとっても可愛いお洋服を買ったんです! どうですか! こーんな可愛い私が、可愛いお洋服を買ったんですよ! 見たくないですか? 見たいでしょ! 見たいって言えっ!」

「最後脅迫じゃねーか!」

『がるる』なんて唸り声をあげる中川さん。まあ、確かに中川さんはパッチリした目をした可愛らしい女の子ではある。男性からの人気も高いし、どんな服を買ったかは知らないけど……まあ、オシャレさんだし、自分に似合う服を買ったんだろう。

「……そう言わずに奢って上げたら、小山君」

「田中先輩!?」

「田中先輩!!」

 同じ言葉でも、聞こえて来る印象は真逆。片や驚愕を覚えた様な声音で、片や喜びを全身で表現する様な声音。

「……中川さんも折角買った洋服、披露したいんでしょう? それなら、付き合って上げるのも先輩の仕事でしょ?」

「……その理論で言うと、別に俺じゃなくても良く無いですか? 田中先輩、付き合ってやってくださいよ」

「……」

 この子、本気で言ってるの? 中川さん、明らかに『小山君に見て貰いたい』って態度じゃん。鈍い子なのかな、小山君?

「……ええっと……それはちょっとどうかな?」

「なんでですか? 別に奢って貰えるんだったら誰でも良いんでしょ? だよな、中川?」

 ……小山君。見てよ、中川さんの顔。『ぐぬぬ』って顔してるじゃん。っていうか、君ね? 普段はもうちょっと出来るでしょ、気遣い。なんで女性関係そんなポンコツなの?

「……ええ、ええ! そうですね! 別に小山先輩じゃなくてもぜーんぜん問題無いですっ! 田中先輩! 土曜日、一緒にランチ行きましょうっ!」

 ほら。中川さん、引くに引けなくなっちゃたじゃない。後、『ぜーんぜん問題ない』顔じゃないからね、それ。なんだろ? 物凄く、被弾した感がつよ――


 ――不意に。


「っ!?」

 背筋がぞくっとした。まるで蛇に睨まれた蛙、後ろから感じる『圧』が半端ない。



「………………楽しそうなお話してるわね、田中」



 あ、死んだ。これ、確実に死んだ。

「……」

「……」

 あまりのプレッシャーにやられたか、小山君と中川さんの顔も青い。血の気の引いた顔で僕の後ろ――きっと、悪鬼羅刹の様な顔をしているであろう相沢さんの姿を見つめていた。

「……ええっと……あ、相沢さん?」

 おそるおそる、後ろを振り返ると……OH……ヤバい顔してる。相沢さん、美人だからか、怒るとその端正な顔立ちが際立って一際怖いんだが。

「……楽しそうな話をしてるわね、田中? なに? 土曜日、香織とデートに行くの?」

 ゴゴゴ……っと音が付きそうなプレッシャーを発する相沢さん。なんだろう? 世紀末覇者とかに睨まれたらこんな感じなんだろうか。

「あ、い、いやね? 相沢さん、別にデートに行くワケじゃ……」

「そ、そうです! 相沢先輩! ち、違いますよ! 別に田中先輩なんかとデートに行くわけじゃないですよ!」

 ……うん、中川さん。フォローは嬉しいけど、『なんか』は酷くない? 『なんか』は。

「……田中先輩『なんか』だ?」

「……へ?」

「……コホン。ともかく、香織は黙ってなさい。私は田中に聞いてるの」

「……黙ります。香織、貝になります」

 フォローもむなしくギンっと睨みつけられお口ミッフィー状態の中川さん。

「そ、そうですよ! 相沢さん、別に田中先輩は!」

「小山君?」

「……黙ります。小山、貝になります」

 二人ミッフィー。っていうか小山君? もうちょっと頑張ろうよ!

「……ええっと」

「……まあ? 別に私は田中が誰とデートに行こうが関係ないけどね? それより田中? アンタ、今週掃除当番でしょ? べ・つ・に! 誰とデートに行こうが付き合おうが結婚しようが知った事じゃないけどさ! ちゃんと仕事しなさいよねっ!」

 そう言って、フンっと顔を逸らしてどすどすと擬音が付きそうな程、足音を鳴らして自席に戻る相沢さん。その姿を見送りながら、僕は。


「……やらかした」


 頭を抱えるしか無かった。


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