質問の意図
「はぁ……」
学校に着くなり勝手に大きなため息が出る。
でもこれはいつも通りだ。
いつも校門を抜けるとだいたいため息が出てしまう。
もはや癖を通り越して習慣となりつつある……。
そんな気分が優れないまま、僕は自分の教室へと足を運ぶ。
教室に着いた僕はいつも通り、椅子に座ると塾の教材を出す。
そして塾で出されていた課題を進める。
家では授業の復習をして、学校では塾の課題をやる。
この勉強サイクルを僕はもう一年ぐらい続けている。
これほど有意義な時間の使い方は他にないと断言できる。
早速勉強に取り掛かろうと、鞄の中から筆箱を取り出して時間を確認するために時計の方を見ると、その前に立っていた笹川詩織と一瞬だけ目が合ってしまった。
ほんの一瞬なのだが、僕はすぐさま目を逸らすように机の方を向いた。
そして勉強に取り掛かろうとしたとき、前の方からすたすたと歩いてくる足音が聞こえた。
そしてその足音は僕の机の前で止まると。
「ねぇ……」
っと、僕のことを呼んだ。
だが誰だ?
というか本当に僕を呼んでいるのか?
何の用があって?
もしかしたら僕の近くにいる生徒に話しかけているのかもしれない。
もし僕が声の主の方を向いたら、何勘違いしてんだ? っと思われるかもしれない……。
そうだ。
多分僕の近くの生徒に話しかけているんだ……。
僕は微動だにせず、勉強の続きを始めようとすると。
「おーい。二年E組出席番号3番の秋口勇気くん。聞こえてるんでしょー?」
今度は確実に、丁寧にクラスと出席番号まで言って僕のことを呼んだ。
さすがに動揺した僕は、その声の主の方を見るとあの笹川詩織が僕の目の前に立っていた。
「え、あっと……なんですか……?」
普段家族以外の人間と喋らないので思わず敬語になってしまった……。
僕があたふたと慌てていると、笹川詩織はにこっと小さく微笑むと。
「別にそんな緊張しなくていいよ。一つ君に聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
そう聞いてきた笹川詩織は、僕の目を真っすぐ見て。
「昨日の放課後さ、どこかで会わなかった?」
っと聞いてきた。
なぜこんなことを聞いてきたのかよくわからないが、確かに昨日僕と笹川詩織は一応会っている。
あれを会っていると言っていいものなのか分からないが、とりあえず昨日僕はコンビニで笹川詩織を見かけた。
でもあっちの方は覚えてなさそうだし、僕だけが一方的に覚えてるというのはなんか負けた気がするので。
「いや……。多分……会ってないと思います……」
っと返す。
そういうと笹川詩織は、そっかと言って自分の席の方に戻っていった。
何だったんだいったい。
何であんなことを聞いてきたんだ?
僕は彼女の質問の意味が全く分からずに、少しの間混乱していた。
でも考えるだけ無駄だと思った僕は、また塾の課題を進め始める。