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第2話 YouTuberに私はなる!!(ドン)

他の園児が到着するまでの間私たちは雑談に花を咲かせた。


「美香は今記憶を思い出したの?」

「うん、そうだけど……え、舞華は違うの?」

「私は一昨日の入園式の時に思い出していたわ。美香に必死で手を振ってたんだけど反応しないから……もしかしたら記憶を持たずに生まれたんじゃないかと心配だったわよ」


舞華は大げさにため息をつく。


「舞華は頭がいいからそれだけ早く思い出せたのかもね」

「ところで美香はどんな才能をいただいたのかしら?」

「えっとね、私は『記憶』と『歌の才能』と『美少女になりたい』みたいな」

「ふふっ、美香らしいわね。でも、歌ならとっても上手かったじゃない。わざわざ恩恵としてもらわなくても良かったんじゃないの?」

「いやいやいや、私なんて素人に毛が生えたも程度だから。毛ガニみたいなもんだよ」

「もしかして、プロを目指す気かしら?」

「うーん、まだ分かんないけど……」

「まあ、ゆっくり考えていいと思うわよ。私たちが大人になるまでまだ十二分に時間があるわけだから」


舞華は大人っぽくそう言った。まだろれつもうまく回っていない子供なのに。舞華は高校の時も群を抜いて大人びていたからな。


「そういう舞華はどんな恩恵をもらったの?」

「私は——」

「はーーい、みんな、集まってーー!」


舞華が答えようとした時、先生の声が聞こえた。私は舞華と目配せして話を切り上げる。


「みなさん、おはようございまーす!」

『おはようございます!』


園児たちは叫ぶように返事した。

園児たちの前に立つのはだいぶ顔にシワの入ったおばさん先生だ。

前も私の世話をしてくれたんだろうけど……幼稚園の先生なんて顔も名前も覚えていない。


「今からみんなのお名前を呼ぶから、名前を呼ばれたら返事してねー!」

「はーーい!」

「秋山雄輔君」

「はい!」

「石橋美兎ちゃん」

「はい……」

「井上圭太郎君」

「はーい」

 ・

 ・

 ・


点呼が終わる。

次は園歌紹介。

次は学校案内。

意外にやることがあるんだな。


ようやく舞華と話ができたのは粘土遊びの時間だった。


「なんだか懐かしかったわね」

「私はほとんど忘れちゃってたから逆に新鮮だったよ〜」

「うふふ、一般的には幼稚園なんてほとんど物心ついてないものね」

「ね、そんな事よりさ。舞華はどんな恩恵を受けたの?」

「私は『記憶の保持』あと……『美人に生まれる事』」

「だよね! やっぱり女に生まれる以上綺麗でいたいもん!前から舞華は美人だったけど」

「うふふ、ありがとう。それからもう1つは『一度聞いただけで覚える記憶力』よ。」

「すごいねそれ……生まれてから今までのことを全部暗記してるの?」

「うふふ、流石にそこまで万能ではないわよ。ただ、覚えようと思って聞いた言葉は忘れないわ。例えば……」


舞華は一呼吸置いた。


「秋山雄輔 石橋美兎井上圭太郎 榎田麗音 大野浦忠也 大山敦 鍵山綾 狩野雪菜 木下伴之助 楠木美香 近藤さくら 猿下匠 重松彪 園田彩香 田中賢一郎 種田尚志 築野由香里 堤下光太郎 伴田純子 仲田真一 西尾沙耶 根岸流星 野田宇太郎 花山冴子 姫野舞華 藤田俊樹 本田佳恵 山田喜太郎 湯之元恵子 渡邉英子」

「ふぇ?」

「ここの組のみんなの名前よ」

「もう覚えたの? まだ先生が一回点呼を取っただけなのに」

「そうね。まだ美咲そこまで深く自覚してないみたいだけど……」


舞華は口角を釣り上げた。


「恩恵で授かった能力は特技なんてレベルじゃないわ。言うなればチートね」

「まじすか」


●○


午後3時にお母さんが迎えに来た。


「舞華ちゃんばいばい!」

「ばいばい! 美香ちゃん!」


私は子供らしく舞華に手を振る。


「あらあら、もうお友達ができたのね」


お母さんも嬉しそうだ。

お母さんは仕事の帰りに私を迎えに来ているので、私は車での登下校である。


「お母さん、歌を歌っても良い?」

「いいわよ。何の歌を歌うの?」

「中島みゆこの『糸』」

「渋っ」


おっと、チョイスを間違えた。幼稚園生らしい曲は……


「間違えた、『タンパンマンのマーチ』!」

「よね。びっくりしたわ」


タンパンマンは子供達に広く愛される国民的キャラクターだ。困っている人達に短パンを配って回り、短パンを駆使して悩みを解決させるという奇想天外かつ技巧に満ちた人気アニメである。

私は息を吸い込んだ。


「そうだ 嬉しいんだ生きる喜び

愛と勇気だけが友達だ」


自分でも驚くほど透き通った声が出た。


「何のために生まれて 何をして生きるのか

答えられないなんて そんなのは嫌だね」


お母さんは静かに私の歌声を聞いた。


「今を生きる事で 熱い心が燃える

だから君は行くんだ 微笑んで」


車が信号にかかる。


「そうだ 嬉しいんだ 生きる喜び

愛と勇気だけが友達だ」


信号が青に変わった。


「ああ タンパンマン 優しい君は

行け! みんなの……」


後ろに待っていた車がクラクションを鳴らした。

お母さんがビクッと体を震わせアクセルを踏む。

私は思わず歌うのをやめた。


「美香、すっごい上手ね。お母さん感動しちゃったわ」

「うん、私歌うの大好き!」

「……………………」

「お母さん……泣いてるの?」


バックミラー越しにお母さんが涙を流しているように見えた。


「あはは、何で泣いてんだろ……私」

「大丈夫?」

「大丈夫よ。タンパンマンのマーチっていい歌ね」

「うん……」


すげえ。私。

私すげえよ。

普通タンパンマンのマーチで4歳児が大人を泣かせられる?

泣かせられないよね。

チートだ。

これもしかしたら人生勝ち組ってやつなのかな……。今はまだよくわかんないけど、私めっちゃかわいくなりそうだし……。


「お母さん」

「なあに?」

「私の歌をもっと大勢の人に聞いてもらいたい」

「! そうね……分かった。お母さん協力するわ」

「ほんと!? やったあ、ありがとう!」

「歌手志望の4歳児……どこでオーデションを受ければいいのかしら。いや、その前に歌のレッスンとかを受けれる教室を探すべきかしら……」

「私、YouTuberになる!!」

「!?!?」

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