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【S】  作者: マチカネ


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10/10

根性を張ったれ

 エピローグになります。

 盛綱市(もりつなし)市内に残っていたアンデッドを狩る《ダーククロウ》の戦士たち。

 それほど探索は苦も無く進む、GGD(ジージーデー)の笛がなければ、向こうから得物を求めてやってくる。結果、獲物になってしまうのはアンデッドの方。

 だからと言って探索任務を手を抜くものなど、《ダーククロウ》の中に一人もいやしない。どこに隠れていても必ず見つける、一匹残らず。

 このペースなら時間をかけることなく、アンデッドの全滅は済む。



       ◆



「お母さん」

 避難所になっている盛綱市市民球場にやってきた秀介(しゅうすけ)は、母親の幸乃(ゆきの)を見つけ、大きく手を振りながら駆け寄る。

「秀介、元気で良かったわ」

 強く息子を抱きしめる。

 あっちこちらで再会を喜ぶ、家族親類恋人親友知人たちの姿が見える。

 避難所の中には再会を喜べない人たちもいた。

 羨ましく見る者や他人事でも祝福している者や希望を捨てない者、飛び交う様々な視線。

 そんな視線を背中で受けて頭では理解していても、再会の嬉しさは、どうしても堪えきれるものではなかった。

「お母さん、聞いてほしいことがあるんだ」

 ここへは再会を喜ぶためだけに来たのではなく、もう一つ大切な目的があってきた。

「僕、特殊部隊に入ることにしたんだ」

 何も言わず、息子の顔と目を見る。いつになく真剣さ、軽率に決めたのではない、強い意志を持って決めたことが伝わってきた。

「解った、父ちゃんには私から話とく」

 まだ封鎖は解けていないので、市外へ行くことも連絡も出来ない状態は保たれたまま。

「せやけど、一旦決めたんやったらしっかりとやりや。途中で逃げ出したら許さへんからな、あんたも立派な男なんやさかい」

 認めてくれたことが嬉しくて、

「ありがとう、お母さん」

 今度は秀介から抱き着く。


 盛綱市市民球場を出ると弘一郎(こういちろう)が待っていた。

「許してくれたんだな、秀介」

「うん、弘一郎くんも許してもらえたんだね」

「ああ」

 弘一郎は秀介の様子から悟り、秀介の方も弘一郎の様子で家族が許してもらえたことを悟った。

 迎えに来た車に乗り、盛綱市市役所へ向かう。



 盛綱市市役所に到着すると、秀介と弘一郎は会議室へ入った。

 すでに会議室には柿木園(かきぞの)を初め、《ダーククロウ》の戦士たちが集まっていた。

 2人も席に付く。

「まずは今回の任務、みんな、ご苦労だった。心からお礼を言われてくれ」

 やっとGGDにたどり着けた、ホワイトボードの前に立つレディ・オーガは一礼。

 柿木園の戦士たちも立ち上がり一礼、秀介と弘一郎も立ち上がって一礼。

 皆が席に付き、話を始める。

「相も変わらずGGDの氏素性は解らないままだがよ、それでもいろいろと解ったことがあるぜ」

 アンデッドの残存掃討中、別動班は回収したGGDの遺体と身の回りを調べていた。

「ウィルス【S】のSがSEED、つまり種という意味だったことと、GGDの目的が私や秀介を生み出すこと。私たちのことを御実(おみ)と表しいてな、私をレベル1、秀介をレベル2と記していやがった」

 レベル1のレディ・オーガの角は一本、アンデッドを倒せる。レベル2の秀介の角は二本、倒したアンデッドは崩れ去る。

「その先の目的は解らんがな……」

 何のために御実(おみ)、“鬼”を生み出すのかはまでは掴めなかった。それ以外にも不明な点は少なくはない、肝心なGGDが死んでしまったので。

 だからと言って誰も柿木園を咎めることはしない、あの状況下、自爆を止めるために射殺したのは正しい判断と認めている。あの時、何もしなかった出来なかったのに、あれこれ後から文句を言うことなんで心の狭いこと。

「奴が最後に行った台詞『例え世界の終末が明日来ることになっても、私は今日、リンゴの種を蒔く!』これにピンと来るものはいるか?」  おずおずと手を上げる秀介。

「ゲオルグ・ゲオルギウ・デジの言った『どんな時でも人間のなさねばならないことは、たとえ世界の終末が明日であっても、自分は今日リンゴの木を植える』をアレンジしたものだと思います」

 病弱だったころ、布団の中で読んだ本に載っていた。

「ゲオルグの言葉かどうか、いろんな説や異論もあるが、概ねビンゴだ」

 ゲオルグ・ゲオルギウ・デジ、ルーマニアの政治家でスターリンの下で多くの弾圧を行い、彼の思想はあの吸血鬼と呼ばれたルーマニアの独裁者、チャウエスクにも引き継がれた。

「皆も気が付いていると思うが、GGDはゲオルグ・ゲオルギウ・デジのイニシャルを略したものだ」

「あっ」

 弘一郎1人、今、この時、気が付いた。

 さぁ、ここからが本題。

「GGDは各地に隠れ家を持っていてな、そこに相当数のウィルス【S】や何体ものアンデッドをストックしていることが解った。今のところ、あの横笛の命令で動きは止めてはいるが……」

 GGDが死んだ以上、いずれは動き出す、そうなれば盛綱市と同じようなバイオハザードが起こるだろう。

「事態が悪いのは隠れ家がどこにあるか、いくつあるか解らねぇことだ」

 何年も逃げ回り、バイオテロを起こしただけあり、死んでも抜け目のない奴。

「まぁー、ポジティブに考えようじゃないか、隠れ家を見つけ出しゃ、まだ掴めていない情報を手に入れるチャンスだ。おまけにそれなりの量のウィルス【S】が手に入りゃ、ワクチンだって作れるかも知れねぇ」

 もしかしたらGGDが御実(おみ)、“鬼”を作ろうとしている目的が解る可能性だってある。

盛綱市(ここ)が片付いたら、GGDの残りのカスをぶっ壊しに行くぜ。根性を張ったれ、野郎ども!」

 レディ・オーガの掛け声に、秀介、弘一郎、柿木園、《ダーククロウ》の戦士たち呼応した。




 これでひとまず終了となります。

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