第1章 奇跡
ホラーパニック系の作品になります。
何かアドバイスがあったら、遠慮なく教えてください。
「おい秀介!」
「えっ、弘一郎くん」
昼休み、線の細い少年、藤崎秀介が、学校の中庭にある木陰で佇んでいると、ブレザーの上からでも解るほど鍛え上げられた体を持つ竹野功一郎に声をかけられた。正反対の体格をしている2人は幼馴染。
盛綱市市立南塚高校、秀介と弘一郎は共に2年生。
「来い!」
腕を掴まれ、引っ張られる。
「ち、ちょっと、待って、弘一郎くん」
有無を言わせず校舎裏に連れていかれ、壁に押し付けられる。
ドーンと音を立て壁を叩いた。その勢い、まるで壁が壊れそう。
「おい、秀介、服を脱げ」
「そ、それは……」
戸惑いを見せる秀介へ、
「いいから、脱げ」
強引に迫る。
病弱でか弱い秀介では、力の強い弘一郎を拒むことは出来ない、もじもじしながらブレザーのボタンを一つ一つ外していく。
ブレザーのボタンを外し終え、シャツのボタンを外し始める。ピタッと途中で手を止めてしまう。
それを見た弘一郎、襟を掴み、無理やりシャツをめくりあげた。
露になった男にしては白い肌、そこにあったのは痛々しい痣、それも真新しい。
「谷畑どもか?」
何も言わず目を逸らしただけでも、幼稚園の頃からの付き合い、すぐに答えは解る。
「あの野郎ども!」
弘一郎は憤慨。
「弘一郎くん……」
止める間など与えず、走って行った。
谷畑のグループは南塚高校では名の知れた不良たち。
注意して因縁を付けられたくない上、父兄からの抗議、いわゆるモンスターペアレントとも関わりたくないサラリーマン教師は見て見ぬふりのほったらかし。
それ故、好き勝手にできている。
たまり場は木造の旧校舎、学校ではおなじみの七不思議の舞台になっている以上に谷畑グループが居座っているため、誰も近寄りたがらず。
「この間、しめた奴は傑作でしたね、谷畑さん」
「そうそう、最後にはおもらしまでして」
「谷畑さん、今度は女も浚ってきましょうよ」
「そうだな、そろそろ先輩も連れてこいと言ってくるころだからな、いい女を見繕っておくか」
ボスの谷畑を中心にした5人の不良は、カツアゲで手に入れた金で買ったコンビニ弁当やカップラーメンを食い散らかしながら、下卑た話をしていた。
乱暴な音を立て戸が開いた。ビックリして見ている谷畑グループを弘一郎が睨み付ける。
相手が同じ学生だと解ると、谷畑グループは嫌な笑みを浮かべ、
「何だ2年の竹野じゃないか」
「ホ〇ダチの敵討ちに来たのか」
「恋人を傷つけられて、怒っているんでちゅか」
「あんな女みたいな奴なら、女の代わりにしたくなるよな」
下品に笑う、ゲラゲラと。
自分のことならいくらバカにされても我慢はできる、殴られても我慢はできる。しかし親友をバカにされ、痛めつけられるのは、どうしても我慢が出来ない。
「汚い口を閉じてろ、めいさん」
谷畑の顔色が変わる、グループ4人の笑いも止まり、ドン引き。めいさんは谷畑に対しての最悪のNGワード。
めいさんとん、漢字にすると梅山豚という中国原産のブタがいて、あの『西遊記』の猪八戒のモデルになったともいわれ、とても美味しい肉とは裏腹な姿をしている。
めいさんのあだ名は谷畑の見た目から付けられたもの、大きな地雷。
「このゲ〇野郎が!」
怒り心頭、侮蔑用語を吐き、殴りかかる。グループの4人もボスに続く。
谷畑グループのやっているのは、たかだか弱い者いじめ。一方、実家が開いている空手道場で、幼少時より鍛錬を重ねた弘一郎。
殴りかかってきた谷畑のゲンコツなど、祖父や父親の拳に比べればお遊戯そのもの。
ゲンコツを掴み止めだけでなく、引き寄せて顔面に正拳突き。背後から来た3人を回し蹴り一発でノックアウト。
残った1人は元はデッキブラシだった棒を拾い上げ、奇声を上げて振り下ろす。
手刀で棒をへし折り、青ざめ逃げ出した後頭部へ当身。
あっさり谷畑グループを撃沈。
体に付いた埃を弘一郎は払い落し、
「今度、秀介に手を出したら、三途の川の向こうに渡してやる」
このドスの効いた台詞は木造旧校舎教室の床に転がる谷畑グループに届いていたのだろうか……。
「おーい秀介、終わったぞ~」
ぶらぶらと手を振りながら、校舎裏に弘一郎が戻ってきた、至って元気。
負けないとは解っていても、ついつい心配な気持ちは持ってしまう。
「あっ、手をケガしているよ」
指摘された拳には擦り傷があった。棒をへし折った時に擦りむいた様子。
「こんなもん、掠り傷さ、舐めとけば治るって」
擦り傷を舐めようとしたら、
「ちょっと、待っててね」
ポケットから小箱を出し、中にあった絆創膏を張ってあげた。よくいじめられる秀介は絆創膏を常に携帯している。
「サンキュー、これなら明日には治っていそうだな」
軽く笑って、ぽんぽんと優しく頭を叩く。
いつもこんな関係の2人。幼少時より、いじめられる秀介、その相手を容赦しない弘一郎。
一時、守られるだけではダメだと思い、秀介も空手道場に通ったことはあった。結果、一日目で熱を出して寝込んでしまったけれど。
悲しいことに師範をしている弘一郎の祖父から、君には空手は無理だと言われてしまった。
秀介の体質のことを考えれば、はっきり言った方がいい、無理をして取り返しのつかないことになる前に。
昼休み終了のチャイムが鳴る。
「もう昼休みは終わりだね」
いろいろあったので、長いなと感じていても実際は短い時間。
「じゃ教室に戻るか」
何事も無かったような弘一郎の仕草、普通に昼飯を食べて普通に遊んだように見える。
「うん」
秀介と弘一郎は、それぞれの教室に戻っていく。
◆
「種を蒔こう 種を蒔こう いっぱいいっぱい 種を蒔こう~」
未明近い時間、人通りの絶えた盛綱市商店街、しっかりとボストンバッグを担ぎ、鼻歌を歌い歩いている男。
鈍色のパーカーを着た中肉中背の、容貌はどこの居酒屋や競馬場にもいそうな普通のおじさん。
ピタッと足を止め、雑居ビルを仰ぎ見た。
「種を蒔こう 種を蒔こう たくさんたくさん 種を蒔こう~」
◆
「いってきまーす」
朝、家を出た秀介は学校へ向かう。
いつもと同じ登校ルート、角を曲がった途端、
「あっ」
立ち止まる。
「待ってたぜ」
そこには谷畑と手下が待ち伏せていた。
2、3歩たじろぎ、急いで逃げ出す。脱兎の如く、秀介のイメージはウサギにピッタリ。
「待て、こらぁっ!」
一斉に追う谷畑グループの5人。
すぐに秀介の体力は尽き、息切れでふらふら、あっさりと捕まってしまう。
「俺たちと楽しいことしようぜ、秀介ちゃん」
前歯を失った谷畑の嫌な笑みは、なおさら嫌さが増していた。
盛綱市商店街に建つ、雑居ビル内のゲームセンター。
「先輩、奥の部屋、また使わせてもらいますよ」
谷畑はニコニコ顔の店長に挨拶。
「今度の子は可愛いじゃねぇか、後で俺にも味見させろ」
「アレ、男スッよ」
「男なのか、アレ」
「まぁー、女みたいになよなよした奴ですがね」
「ほどほどにな、警察に嗅ぎつけられるのは勘弁だぞ」
「解ってますって」
ニコニコ顔も商売のため、本質は谷畑と同類。
「今日は徹底的に痛めつけてやるつもりスッよ、足腰立たなくなるまで」
ゲヘヘ、下品な笑い声を上げて奥の部屋へ。
奥の部屋には秀介が床に寝かされていた。口に猿轡、ロープで簀巻きにされて。
取り囲むグループの4人、蔓延る悪意の中、震えている秀介の眼は屈服してはいなかった。体は恐怖に震えていても、心までは折れてなるものかとの強い意志が込められた眼差し。
「最初はどうやって欲しい? 秀介ちゃん」
そんな心には気が付かず、見下す谷畑。
猿轡をしているので答えるのは無理、それを解っていての挑発。ゲラゲラと谷畑グループは笑う。
浮かび上がるサディスティックな高まり、自分たちが絶対的に優位にあるからこその嗜虐性。
「まずは前歯を折ってやらないとな、次に手足の骨も折ってやる」
谷畑は壁に立てかけてあった鉄パイプを手に取った。
床に落ちているロープや手錠、今までもこの部屋でこんなことをやっていた証。
「弘一郎にやられた以上のことをやらないとなぁ、俺たちの気持ちが収まらないんだよ」
叩きのめされた恨みを晴らしたいが、弘一郎には歯が立たないのは身に染みている。だから自分たちより弱い、秀介を痛めつけることで恨みを晴らす。
自分たちが卑劣なことをしている自覚などない、やりたいようにやりたいことをやる。今までもそうしてきた、犯罪行為をも平気で。
「やり過ぎたってな、俺たちは少年法に守られてんだ。刑務所に入ることはねぇんだよ!」
満面の笑みで谷畑は鉄パイプを振り上げた。
カチカチカチカチッ、時計の針が仕掛けていた時間に到達。
爆音と爆風と爆炎が秀介と谷畑グループを包み込む。
この日、爆発を起こしたのは盛綱市商店街の雑居ビルだけではない、盛綱市の各所で同時刻、デパート、本屋、駅など人の集まる場所で爆発が起こった。
◆
「意識不明の重体、全身の50%近くに重度の火傷、感染症の危険性もあり。かなり危険な状態です、すぐに手配を。身元は生徒手帳によると、盛綱市市立南塚高校2年生、藤崎秀介、17歳」
重い火傷を負った秀介が担架に乗せられ、救急車に運び込まれる、口には酸素吸入器。
ビルの屋上から下を見ている鈍色のパーカー姿のおじさん、双眼鏡を握り、盛綱市の様子を見ている。
市内中を何台もの救急車が走る。盛綱市で初めて起こった最悪の大事件、大惨事。
唇の両端が吊り上がる。
「種を蒔こう 種を蒔こう いっぱいいっぱい 種を蒔こう~ 種を蒔こう 種を蒔こう たくさんたくさん 種を蒔こう~」
楽しそうに楽しそうに歌う。
◆
前代未聞の連続爆破テロ、盛綱市警察署は騒然となっていた。私服の刑事も制服の警官も総動員、対応に追われている。
「鈴川さん、俺は町の方に行ってきます」
制服姿の若い警官は、スーツ姿のベテランの鈴川刑事に声を掛けた。
「そうか、私は病院へ聞き込みに行く」
壁に掛けたあったコートを手に取り、
「オイ、杉本。まだ犯人がうろついているかもしれない、十分、気を付けろよ。結婚が近いんだろ、岬さんを悲しませることはするんじゃないぞ」
部屋を出て行こうとした杉本巡査は、緊急事態なのに照れくさくなってしまった。
◆
今日の稽古が終わり、シャワーで汗を流してさっぱりした後、何気なく弘一郎はテレビを見ていた。
テレビで流れているのは盛綱市で起こった無差別テロのニュース。
「ひどいことをする奴もいたもんだな」
住んでいる盛綱市とはいえ、他人事のように思っていたのも束の間、被害者の中に藤崎秀介の名前を見つけた途端、表情は変わる。
「!」
急いでスマホを取り出し、秀介にかけてみても通じない。
「俺の見間違いであってくれ、秀介、頼む出てくれ」
見間違いであってくれと祈りつつ、もう一度、かけても反応なし。
次に秀介の母親の幸乃にかけたところ通じた。
『幸乃さん、さっきテロのニュースで被害者の中に秀介の名前を見たような気がする。あいつ、テロに巻き込まれたのか? 俺の見間違いだよな」
『……』
「幸乃さん!」
『秀介はテロに巻き込まれて……、今、意識不明の重体……』
辛そうに絞り出した声を聞いたら、もういても立ってもいられずに病院の場所を聞き、家を飛び出そうとした、風呂上がりの薄着で。
「何があったの」
母親の聡子が呼び止める。
「秀介がテロに巻き込まれて重体なんだ。これから病院へ行ってくる」
事態を察した聡子、コートを取ってきて、
「これを着ていきなさい。馬鹿だって風邪を引く、秀介くんに心配かけるような真似をするほど、馬鹿じゃないでしょ」
母親の差し出したコートを着ながら、病院へ駆ける。
盛綱市市内にある総合病院に飛び込むなり、弘一郎は受付で事情を話す。
次から次へとテロに巻き込まれた被害者たちが運び込まれ、周りは大変、医者も看護師もてんやわんや。
刑事の姿も見え、運よく負傷を免れた人たちから話を聞いている。
盛綱市内にある病院は、どこもこんな状況だろう。
今、秀介は手術中だと聞き、手術室の前へ。
「弘ちやん」
手術室の前で長椅子に座っていた幸乃が立ち上がった。連絡を受けた父親の和人も病院に向かっている最中。
「秀介はどうなんですか」
とっても気がかりなこと。
「医者の話では予断を許さないって……」
顔色から、かなり危険な状態であることがうかがい知れる。
手術中のランプを見る。今、あの中で秀介は戦っている、迎え入れようとする死と。
「秀介に何かあってみろ、俺は犯人を許さない、絶対に」
ギリッ、意識せず歯を噛みしめ、拳に力がこもる。
秀介が助かるなら、神にも仏にも願う、何なら悪魔でも願ってもいい、そう弘一郎は本気で思っていた。
いきなり手術室のドアが開き、手術着の医師が出てきた。重度の火傷の手術しては、あまりにも早すぎる退室。
「こんな、こんなことが……」
医師の顔は真っ青で放心状態でブツブツと呟く、予想される最悪の事態。
「ま、まさか」
幸乃の眼に浮かぶ涙。
「秀介!」
我を忘れた弘一郎は手術室に飛び込んだ。ドアの上の手術中のランプはまだ点灯したまま。
「弘一郎くん?」
ちょこんと手術台の上に座る秀介は首を傾げた。全身の50%近くのにも及ぶ、重度の火傷は白い肌のどこにも見当たらない、痣の跡さえも……。
いきなりアレな始まり方になってしまいました。次章に女性のメインが出てきます。ヒロインかどうかは別ですが……。




