第95話 慈愛
お客様を入れ替え、女神喫茶二日目午前の営業二部の開始です。
客層の殆んどは個々の生徒で私服の他校の生徒がちらほら混ざる。大人の姿もあるが若者がほとんどだ。
男女比で言えば男子の方が若干多いだろうか。
改めてお客さんを見渡すが……うん、知り合いが一切いない。見た事ある生徒がいるぐらいだろうか。私服の他校の生徒だろう若者にも、もちろん知り合いはいない。大人の人にもいない。
この営業は媚びずにわんことニャンコで癒されよう。
僕はベルを鳴らしメイドさんを呼び、女神のメニューから紅茶二つと緑茶にイチゴのタルトとモンブラン。それにみたらし団子を注文した。
わんこはモンブランが大好きらしく「明日もまた食べたい」とニコニコ顔で尻尾を振りながら言っていた。
みたらし団子は向日葵ちゃんの大好物。洋菓子よりも和菓子が好きなのは父である斎賀さんの影響もあるのだろう。家だって純和風の作りだし。
「ご注文を繰り返させて頂きます……」
その言葉に商品名ごとにうなずく僕。
無駄に揺れる胸。
目を見開く女装メイド。
胸をガン見された……
セクハラだ!
どうでもいいか……
確認を終えたボブカットの笹塚翼くん(イケメン女装メイド)は「畏まりました。少々お待ちください」と真っ赤な顔で去っていった。
視線を癒し対象に向けると、さっきまで「クゥンクゥン」だったのに「グルル」に変わり尻尾もピント立っている。もう片方も「シャァァァァ」の鳴き声。
何この威嚇。
二人の頭をゆっくり撫でて「仲良くね」と言葉を添える。
争いは何も生み出さないもの……
もう、女装登校とかしたくないです……
二人共「クゥクゥ」「にゃんにゃん」に戻り僕の太ももに頬をスリスリ。
あぁ~癒される~。
来年は動物喫茶にして、ストレス社会を生き抜く現代社会の人々に、癒しを提供したらどうだろうか。でも、お客さんが変な気起こしたら問題になりそうだし、今僕がしているような膝枕して撫でるなんてこと問題になりそうだな。無理か。
「見て、見て、ペットが増えた」
「昨日いなかったよね」
「オーディションあったの?」
「私も知らないし聞いてない!」
「でも明らかにあの子小学生……」
「下手したらそれ以下かも」
「見たことない子だね」
「誰だろ?」
「論点はそこじゃないわ!」
「そうね」
「えっ?」
「「かわいい~」」
「確かに!? もう完全にペット役になりきってる!」
「女神様になれないのは分かってるけど撫でる側に回ってみたいものだわ」
「それもいいけど撫でられる側にもなりたい」
「あのペット役の二人の顔見たら本当に気持ちよさそう」
「それにしても優様の膝枕ナデナデで赤面しないで耐えられるとか凄い子達ね」
「まだ幼いからじゃない?」
「異性として見てないとか?」
「いや、もう完全に甘えたいだけよ。心から愛玩動物なのよ」
「そこまでの境地に達してるの!?」
「それって!?」
「えぇ……とても不憫だわ」
「不憫?」
「そりゃそうよ。もう優様から異性として見られてないのだから。そして本人も……もう百パーセント男女の仲にはなれないわね」
「羨ましい反面少し可愛そう……」
「確かに……」
「私達は違うでしょ? いつか優様の良い人になるって」
「そうだよね!」
「そうそう、見てるだけの派閥が多い中、私達は女性だけの優様親衛隊『戦乙女隊』を発足するんだから!」
「丁度よく男子の親衛隊は昨日潰れたらしいしね」
「これからは青春を謳歌するんだから!」
「もちろんみんなでね」
「わかってるわよ!」
わんことニャンコを撫でていると、変な会話が聞こえてくるが……
「お待たせしました」
テーブルに並べられるモンブランとみたらし団子を視界に捕らえた二人は、ソファーにチョコンと座り直した。
そう言う素直な所は長所だと思う。
「さて、頂きましょうか」
僕はイチゴのタルトをフォークで切って一口パクリ。うん、最高! イチゴの酸味とタルト生地のサクッとした食感。甘さもくどく無くて紅茶によく合う。
半分ほど食べたけど二人は姿勢を正したままだ。
何二人共ウルウルした目でア~ン待ちしているのよ。
もう、可愛い奴らめ!
みたらし団子をニャンコに「ア~ン」。小さなお口でモグモグモグモグ。
モンブランの栗をフォークで指して「ア~ン」笑顔でパクリ。尻尾がブンブン。
これは予想外に癒される。
以前メイドちゃんにもア~ンはしたことがあるが、ちょっと違うな。母性を刺激させられる感じ?
いやいや、僕は男だから父性だ! でも、他所から見たら母性と取られるのだろう……
もう! マイナス思考禁止! 今は親鳥気分でわんことニャンコを餌付けする! そして癒される!
この日を境に僕が『慈愛の女神』と呼ばれるようになったのは不可抗力です。
お読み頂きありがとうございます。
私事ですが風邪はほぼ完治。でも喉ガラガラです。
皆さんは風邪に注意して下さい。手洗いうがい必須!




