第92話 モラル
はいはい、女神様が降臨いたしましたよっと、うん。相変わらずの静寂なのですね・・・こちらを見つめ固まる生徒達とメイド達。
その静寂を打ち破ったのは隣のわんこのグルルと鳴るお腹の音だった。
ずっと寝ていたものね。お昼も過ぎて今一時。お腹も減るよね。真っ赤になってうつむくわんこの頭を撫でながら、ゆっくりとソファーに座らせた。
「わんこ何か食べよう。僕はゲレンデと出店で食べたしさ」
ベルを鳴らして女神のメニューを受け取りわんこに見せる。
わんこはキョロキョロとメニューを見始め、サンドイッチを指さした。
「サンドイッチですね。お飲み物はいかがなさいますか?」
そう聞いて来るメイド姿の女装。もう完璧にメイドさんだ。
「僕は紅茶とモンブラン。わんこはどうする?」
「私もモンブラン!」
キラキラした目でこっちを見てくるけどさ、飲み物も頼もうね。
僕は指でドリンクの所を指さしてわんこに示すと「オレンジジュース下さい」と女装に頭を下げた。
「畏まりました。サンドイッチとモンブラン二つと紅茶にオレンジジュースですね」
メニューの確認する女装に待ったをかけて、モンブランからレアチーズケーキに変更。どうせなら違うのも味わいたい。わんことシェアして食べよう。
「畏まりました」と下がる女装を見送り、わんこの頭をゆっくり撫でる。尻尾がブンブン笑顔でニッコリ。本当に癒されますなぁ。
「いいなぁ~」
「俺もペットになりたい」
「お前みたいなごつい奴にペット役なんて無理だろ」
「どう見ても番犬。いや土佐犬」
「ペット役の新しい募集とかないのか?」
「どうだろ? 優YOU会のアンケートに書いてお願いする?」
「それいいな!」
「俺も出す」
「男子のペット役がいた方が平等にもなるし、ペット役のオーディションとか面白そうだな」
「それにしても今日の優様の胸でかすぎ」
「ああ、理想過ぎる」
「パットだろうけど・・・アリだよな」
「うんうん」
アホな男子達の会話が聞こえてくるが、確かに盛り過ぎだよねこの胸。片手に収まらないもの。メイドちゃんより大きい気がする。
それにしてもペット役のオーディションとか意味不明じゃない?
モフり対象はわんこだけでいいよ。ほらこの可愛い笑顔。赤みがさした頬に細めた目、上がった口角。その奥で揺れる尻尾。
本当は抱きしめたいけど流石にそれはまずい気がするので僕の自制心を応援する。負けるな僕のモラル!
「お待たせしました」の声が掛かり、サンドイッチと紅茶にケーキがテーブルに届く。持ってきたのは田中君。以前抱擁したら鼻血ブーした男子生徒だ。(第14話参照)メイドも着こなして・・・スカート短くないかな? 膝上から見える足にはすね毛がない・・・男子にしては細く絞まった足は綺麗だけどさメイドズの仕業かな?
「女神様、このたびは本当にありがとうございます。文化祭で女装する事で新しい自分を発見できました。「カワイイは作れる」と教えてくれたメイドさん達にも感謝しています。本当にありがとうございます」
そう言いスカートを摘まみ一礼して去っていく田中君。女装の女装の理解者になったか。人に迷惑かけなければ別にいいか・・・
テーブルを改めて見るとサンドイッチの入れ物がおかしい。女神のメニューには普通の皿にサンドイッチとポテトフライが写真付きで乗っていたのに、目の前には犬のエサ入れに入れられたサンドイッチともう一つには別の犬のエサ入れにポテトフライが・・・
ペット役かも知れないけど、そこまでのリアリティー求めてないよ。
わんこだって気分が悪くなってないな、笑顔でサンドイッチを手に持ってパクついた・・・
わんこよ・・・わんこの犬化が加速していく・・・美味しいのだろう尻尾がビュンビュン振れている・・・
色々残念に思ったり不思議に思ったりしているのは僕だけなのだろうか?
その後、時間も過ぎていき女神降臨タイムも終わりを告げた。
空席が目立つこともなく。というか空席自体が無かった。常に満員御礼状態だ。僕を見るのがそんなに楽しいものなのかね。あと二日頑張りましょう。
立ち上がり大きく伸びをしていると視線が刺さる。女装メイドさん達がガン見してくる。僕のお胸に刺さる視線。
パットでたいして揺れないけれど、その場でジャンプ。みんなの頭が上下に動いた。何これ面白い。その場でジャンプを数回すると真っ赤な顔の吉田君から鼻血ブー。
「女神様、お戯れはそこまでにしてください!」
目を吊り上げたお嬢に怒られました。折角新しい女神喫茶の長所を発見したのにな。
「女神様、もう一つ言いたいことがありますわ!」
なんだろう。まだ怒ってらっしゃる?
「先ほどの休憩中に先輩の男子生徒を抱きしめましたわね。しかも谷間に顔を埋めさせて! 何てことなさいますの! 女神様がその様なハレンチなこと! 優YOU会ではこの事を大変重大に捉えています! し、か、も、その先輩生徒は仮にも親衛隊だと言うじゃないですか! 守る役目の人が女神様を襲ってどうしますの! すぐに親衛隊は解散させますわ!」解散か、それは嬉しい。
「その生徒は優YOU会からも除名させます! これは決定! 異議申し立てなどさせませんわ!」
扇子でビシッとこちらを指しながら言ってくるお嬢のおでこに青筋ひとつ。あれは僕にも原因があると思うし、う~ん困った。除名の事でいじめに発展されても後味が悪いしなぁ。
「お嬢、ちょっといいかな? あれは足が痺れている所に僕が無理やり立たせてよろけた所を僕が助けただけなんだ。先輩は悪くないよ。それに僕は男だよ? この胸だってパットだしさ、何なら誰か揉んで見る?」
両手で胸を持ち上げ言い切ったら、お嬢の青筋が増えた。
女装メイド達は鼻血を噴いた。
この日夜ラビットテールではメイドズ総出で赤く染まったメイド服の染み抜きが行われた。
お嬢からも小一時間ほどモラルについて説教された。
男同士だし問題ないと思うのは僕だけなのだろうか・・・
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