第90話 ダッシュとBL
今僕は寝ているわんこを起こすか迷っている。
幸せそうな寝顔。ひょこりと動く尻尾。柔らかそうなほっぺによだれの跡。よだれの跡はウェットティッシュで拭き取りました。
人差し指でほっぺをツンツンすると眉間にしわが寄り嫌そうな顔になるが、頭を撫でるとほら笑顔に早変わり。
可愛すぎる。もうここで僕の休憩時間を過ごそうかな。そんなことを思っているとお嬢から咳払い。
そうですよね。出来るだけ多くのクラスや露店を回らないといけないのですよね。
僕と入れ替わる様にソファーに座るお嬢。
「優様がここを出立されないと通常営業の喫茶店を開始できませんので、お早めにお願いいたしますわ。わんこちゃんは私が責任思ってモフっておきますわ!」
ずるいぞお嬢! ニヤニヤしながらわんこをモフりやがって!
仕方ないゲレンデでも誘って露店を回ろう。確か露店の多くは運動部が校庭に出店している。
あれ? ゲレンデはどこにいる? 女神喫茶でメイドしている所を見てないな。あれだけ大きな身長だからすぐに見つかるだろうけど、どこだろう?
「お嬢、ゲレンデはどこにいるか知ってる? 今日まだ見てないけど」
「初日のゲレンデ君はクラスの方で物販係のはずですわ。二日目からは一般のお客様も来られるので女神様の安全も考え、普通くんとゲレンデ君にはソファー横に立たせますのよ」
「物販? 僕聞いてないけど」
「だって優様は女神役ですもの物販関係にまで手を煩わせたりしませんわ」
わんこをモフるのを止めたお嬢は扇子で口元を隠しオホホと笑っている。何かやましい事でもあるのだろうか。
まぁいいか。ゲレンデ誘いにクラスに寄るし。
「行ってきますね」と言葉を残し屋上入り口のドアへ歩みをはじめた。
そしてすぐに歩みを止めた。
僕の目の前には片膝をつき左手を胸の位置へ添える軍団。人数にしておよそ二十人ぐらいだろうか全員頭を下げている。何これ怖い。
一番先頭にいるのは元生徒会副会長。その横にはバスケ部主将。
あぁ~あれだ、親衛隊とか勝手に言ってた人達だ。(第43話参照)正直係り合いたくない先輩方ですね。
うん、見なかった事にしよう!
僕は大きくそれをよけながら歩みを進める。やや早歩きになるのは仕方ないですよね。
「お待ちください!」の言葉か聞こえるが無視! 無視! 開放してある屋上入り口へダッシュで突っ込み、二段飛ばしで階段を駆け下りる。
あんな連中に纏わり付かれて移動してたら文化祭など楽しめるわけない。逃げの一手です。
すれ違う生徒達から上がる黄色い悲鳴を受けながら階段を三階二階と降りて行き、最後の階段一階踊り場で足が滑った。
これアカン。死ぬ奴だ。
周りの景色がゆっくりと見え、逆さまに見えるすれ違った生徒は目も口も限界にまで開けて驚き顔。
僕を包む浮遊感。そして強い衝撃・・・あれ来ない?
「大丈夫か優くんよぅ。はぁ~焦った。女神が降って来た」
今の状況を説明します。
僕階段から落下。一階で受け止めるメイドゲレンデ。僕はお姫様抱っこ。周りにいた生徒がワーキャー盛り上がる。
「ゲレンデすまん。ありがと。それと降ろして」
「おぅ悪い」
首まで真っ赤になったゲレンデに笑いそうになるのを堪える。命の恩人だもの・・・
ゆっくりと廊下に降り立つ。
ヤバい。心臓が痛いぐらいドキドキが止まらない。恋心じゃないよ? 恐怖体験からだよ。そこの人、勘違いしないでよ!
「それよりゲレンデ逃げるぞ!」
ゲレンデの手を握り駆け出す僕はグランドへ。
上履きに履き替えようかと思ったが、どうせヒールを履いている。元々外で履くものだと自分の中で言い訳をした。
グランドには多くの屋台が並び歩きながら食べる生徒達。そして僕を見つけるとフリーズしてる。
おい、クレープ食べてるつもりだろうが、そこは頬だよ男子生徒。
焼きそば屋台の女子生徒さんもかき回さないと焦げちゃうぞ!
たこ焼き屋の男子生徒も鰹節入れすぎ!
綿飴屋台の女子もこっちを見ないで手を動かせ! 綿が雲になっちゃう!
誰しもが行動止めてこっちを見ている。これじゃ直ぐ親衛隊に見つかってしまうな・・・
「優くん、悪い、そろそろ手を放してくれ」
おぉ、ゲレンデの手を掴んだままだったか。
何てBL展開・・・いや、女装二人だからGL展開? 反省します。
ゆっくりと手を放す。手汗がやばいな、変な意識とかしてないよ。
「よし! 何か食べよう。ゲレンデ何がいい? お礼におごろう」
「いや、大丈夫。優くんの事を守れと師匠や美佐さんからも言われてるし、気にすんな」
師匠は椿さんで美佐さんはゲレンデの許嫁です。
「何で二人から言われてる? そもそも守れとかさ、何でだ?」
「師匠から「学校でもし優ちゃんが怪我でもしたら」と言いながら指鳴らして脅された。美佐さんも「あんたは友達も守れないのか」と言われてよ。優くんは俺の武術関係者に気に入られてるんだよ」
ゲレンデから小さな溜息が漏れる。
椿さんは分かるが田中美佐さんから気に入られるとか恐怖でしかない・・・
「でもさ、こういうのは気持ちの問題だから奢らせろ。クレープでいいか?他の客もいないしさ」
「おぅ、悪いな。そういや明日の文化祭には美佐さん来るぞ。前の事謝りたいって言ってたぞ」
マジかよ・・・
明日の事を憂鬱に感じながら、僕は固まるクレープ店主の男子生徒に注文をするのだった。
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