第89話 営業開始
女装が入れてくれた紅茶は香り高く渋み少なく美味しい・・・まるでメイドズが普段入れてくれる紅茶のよう。
女装の女子力? いやメイド力が上がっている・・・お前はいや、お前達はどこへ向かっているんだよ・・・僕のクラスメイトの男子達よ・・・
あらためて周りを見渡す。女装メイド達が各テーブルを回り紅茶を入れクッキーを置いていく。下がる時もキチンと一礼し、本物のメイドさんの様だ。
その中に混じるうちのメイドズ。指導係としてきた十名ほど、一緒に接客をしても違和感がない。女装男子達のメイクが上手過ぎるのだ。ほぼ女装に見えない。お客さんも女性だと勘違いしている人も多そうだ。声を聞いてビックリしているお客が何名か見えるもの。
お客の中には女装男子達を羨ましく見る者やうっとりと眺める男子生徒やニタニタ頬を綻ばせグヒヒと笑う女子生徒なんかも。
そんな中、開始五分で居眠りする生徒が一人。僕の足元で顔を擦りつけていたわんこである。
足元で丸まるわんこは気持ちよさそうに寝息を立て、時折振れる尻尾。可愛い寝顔に癒されますなぁ。でも、カーペットが敷いてあるにしても床に同級生女子を寝かせたままなのは気が引けるので、ゆっくりと立ち上がりお姫様抱っこでソファーに寝転がす。
僕の膝の上でクゥクゥ小さな寝息を立てるわんこの頭をゆっくり撫でる。そのたびに尻尾が小さくチョコリと振れる。寝顔も少し微笑んでる気がする。何この可愛い愛玩動物。
女神喫茶唯一の長所を発見しました。
今日から三日間わんこを愛でよう。
そんな小さな決意を秘めて聞こえてくる会話に耳を傾ける。
「優様の膝枕とか羨ましすぎる」
「私もペットになりたい」
「ファンクラブ公式の優様のペットに任命されたあの子いいなぁ」
「でも任命されるだけあるねぇ」
「すごく微笑ましい」
「あの子本気で寝てると思う?」
「あれが演技なら凄すぎるわね。私なら絶対顔染めて鼻血の噴水になるわよ」
「あぁ~わかる~私もドキドキし過ぎて不整脈になりそう」
「私達一般生徒はこうやって見つめるだけで幸せを実感しないとね」
「優様のご尊顔を拝めるだけで幸せなんだから」
女子達の会話がおかしい・・・
それに優様のペットに任命って。わんこよ、あだ名じゃなく本当にわんこなのだな・・・
僕の太ももに顎を乗せ、幸せそうに眠るわんこ。犬役がんばってるね。僕も女神役がんばるよ。
では、少しぐらいサービスしますか。
僕はサービスになるかわからないけど一人一人のお客さんと笑顔で目を合わせる。まずは一番近くのテーブルから。
三年生の男子達一人一人を見つめる。目が合うと顔を真っ赤に染める。
では次の人。はい、赤くなった。
次の人。はい、真っ赤。を繰り返し、ひとテーブルの顔を真っ赤に染め上げた。次のテーブルも目が合った瞬間に顔を染めていく男子生徒。平均すると一人二秒ぐらいだろうか。
まるでスマホのアプリみたいなゲームだな。
次は女子生徒達を笑顔で一人一人見つめていく。顔を赤くする子に、うっとり見つめ返す子。中には手で顔を隠す子とリアクションが面白い。
次に教師陣のテーブル。
校長と目が合い笑顔で会釈。流石に校長は顔を赤く染めることはなく同じく笑顔で会釈を返してくれた。
教頭はうん、すでに真っ赤だった。他にも見た事のないおっさん教師? もしかしてPTAさんかな? 達も真っ赤に染め上げた。
そんな中女神喫茶に響くベルの音。お嬢がハンドベルを鳴らしている。
「みなさんお時間となりましたわ。退室の時間です。速やかにお引き取り下さいまし」
マイクでそう言うとこちらへゆっくりと歩み寄り笑顔で一礼した。
「優様、いかがでしたか? 何か問題点等がありましたら仰って下さい」
「問題点とかじゃないけど、わんこ寝ちゃったけどいいのかな?」
笑顔でゆっくり寝息を立てるわんこを撫でながらお嬢へ聞くと満面の笑みで、
「とても素晴らしいですわ!」
素晴らしいらしい。
「優様、私もそろそろ皆さんを手伝ってきますので、女神役よろしくお願いいたしますわ」
優雅に一礼し走ってメイド軍団の方へ去っていくお嬢を見送った。
これからまた新しいお客さん達がテーブルについた。どの席も満員御礼。五脚ある椅子もすべて埋まっている。
さて、客寄せパンダをがんばろう。
女神降臨タイムが終わるまで僕は笑顔でお客さん達の顔を真っ赤に染め上げた。
わんこが起きることが無かったのだけは言っておこう。
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