第86話 イケメンとリアクション
昼休み恒例のお弁当を渡して拍手をされる奇異なイベントをこなし只今ランチ中。
自然な流れでお弁当を受け取った人は一緒に食事をするという暗黙の了解が出来ていた。
本日のゲストは笹塚翼くん。サッカー部期待の新人らしい。部活関係の情報は噂程度にしか知らないです。
イケメンの部類に入る彼だが女装した僕の前では緊張しているらしく箸を持つ手が震えています。リラックスして味わってもらいたいです。
「それにしても優の女装姿は別格だよな」
パンくずをこぼしながら食べるな女装。
「そ、それにお弁当も美味しいです」
笹塚くん、せめて食べてから言ってほしい。震えた箸がお弁当の上で何をつかむか迷っているだけじゃない。
「優ちゃんの料理は美味しいよね」
わんこよ、さり気なくチャン付けするな。
「誰だって毎日料理すればこの位できるようになるよ。使ってる材料だって普通のスーパーの物だし、多少は無農薬とかは気にするけど」
「以前食べたカボチャのポタージュは絶品でしたわ」
「あれは美味しかったね」
いつの間にか会話に参加してきたお嬢と委員長。委員長はゲレンデが丸齧りする梨を見るのに夢中だ。
「そう言えばわんこと女神の衣装はどうなった?」
「わんこちゃんの衣装は少々手こずってまして、脳波と機械の連動が中々うまくいきませんの。女神様の衣装はもう六着すべて完成してますわ。今朝ラビットテールからメールの報告が来ましたもの」
扇子片手にオホホと笑うお嬢よ、脳波と機械の連動って何?
「それと女神喫茶の女神の部屋も今週中には完成しますのよ。完成したら視察に着て下さいね」
女神の部屋ですか。確か屋上に建設される。建築基準法にギリギリ引っ掛からないとか言っていた。大丈夫なのだろうか。
「どんな衣装か聞いてなかったけど」
「あれ? そうでしたっけ? 確か報告書に記載したつもりだったのですが」
分かりやすく目を反らして言わなくてもいいだろうに。もうこっちは不信感でいっぱいですよ。
「着るのは僕ですからヤバい衣装なら拒否しますからね」
「も、もちろんですわ!」
扇子で青くなった顔を隠しながらブツブツ呟いているお嬢。衣装は母さんからの入れ知恵だろう。ため息が出る。
それと笹塚くん、早く食べないとお昼休み終わっちゃうよ。
授業も終わりモデルの仕事と女神喫茶の衣装の確認の為に、ラビットテール本社に来ています。
「優様、本日もお美しいです」と受付嬢に言われ、すれ違うOL達にもワーキャー叫ばれた。
胃が痛いです。一度帰ってスーツで来ればよかった。
さて、まずは女神喫茶での衣装を確認しましょうか。その辺にいるメイドズの一人を捕まえて衣装の場所を聞く。
「すぐにご案内いたします。それにしても今日は女子の制服なのですね」
白々しい対応に多少イラつくが案内されるまま普段入らない衣裳部屋へついた。
メイドズがドアを開き、暗闇の中で無駄にライトアップされた六着の衣装。
近くで見ようと歩みを進めると浮遊感があり、直ぐに柔らかい何かに包まれた。
テッテテーのBGM。
上を見上げると母さんがドッキリ大成功!? のプラカードを持ち悪い笑顔で僕を見下ろす。
これで生涯二度目の落とし穴。懐かしい思い出と湧き上がる怒り。ホントなんだろねこの母。
メイドズに助けられながらスポンジのプールから這い上がると、ゲラゲラ笑う母さんと秘書ちゃん。逆に青い顔をしたメイドズと重音ちゃん。
あれ? 重音雪ちゃんはいつからここに?
「兄様大丈夫ですか?」
そう心配してくれる重音ちゃんに少し癒されたが額の青筋は消えてないだろう。
「ほら、雪ちゃん。優ちゃんみたいに落とし穴に落とされて眼鏡も失くさず、青筋立てるリアクションじゃバラエティー番組だとお蔵入りにされちゃうわよ。覚えておきなさい」
リアクションって、僕は芸人じゃない!
「はい、牡丹様」
「もう、牡丹様なんて呼ばないで! 師匠と呼びなさい! リアクションの道は険しいんだから!」
重音ちゃんを芸人にしないで~ほら抱きしめられた重音ちゃんも困り顔だよ。
うん、もう怒りとか無いです。呆れました。衣装の確認だけして今日は帰ります。
抱きしめ合う二人を無視して明るくなった部屋に飾られた衣装へ近づき、
テッテテ~
いくつある落とし穴!!!
上から母が再度プラカードで大成功!? もうキレてもいい気がする。
またメイドズに助けられ這い上がると母さんは親指を立てて満面の笑み。
「見なさい、今度はちゃんと眼鏡を無くしてきたわ。それに右の靴まで無くして、あとは気の利いたコメントでも言えれば満点よ」
「勉強になります」
確かにアイドルになればバラエティー番組に出る事もあるだろうけどさ、僕で実験とかしないでよ。重音ちゃんも真剣に聞かなくていいから・・・
やっぱり母さんにアイドル育成を任せておけない気がした。
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