第82話 危機
それは二時限目がはじまってすぐの事だった。
僕のポケットで震えるスマホ。担任ちゃんが担当する現国の授業中だが隠れてメールの内容を確認した。
うん、やばい事になってる・・・
「先生、早退させてください。それと今日のお弁当、わんこと小島海未さんへ。今日はきっとお昼食べる時間無いだろうから」
二人にお弁当を渡しアタッシュケースを持つと仁王立ちの担任ちゃん。
「兎月くん、どういう事かしらっ!」
「詳しくは言えませんがグループ傘下の会社が乗っ取られそうで、その救済措置のために早退させてください」ぺこりと頭を下げる。
顔をあげるとやや引きつった顔の担任ちゃん。そんな理由で早退する生徒いないものね。
「ここで僕が出て行かないと二千人ほど職を失いかねないんですよ。先生いいですか?」
「き、気を付けていってらっしゃい」
唖然としているクラスメイトを背に、僕は秘書ちゃんが待っている校門を目指した。
車中秘書ちゃんの報告と傘下の社長から話を伺った。
事の起こりは先週の水曜日の朝刊に掲載された、ある不祥事が原因で株価が下がった事。そして、その下がった株を買い漁る男が現れたのだ。
妙浄直文。別名を再生屋だの首切り屋だの世間では呼ばれている男。理由は簡単だ。株価の下がった会社の株を買い漁り、リストラして会社を建て直すのだ。末端職員などその辺の雑草としか思ってない経営。自分の意に介さない者も同様にカットしていく。完全ワンマン投資社長。
確かに立ち直った会社も多くあり経済評論家からも高い支持がある。再生屋が動いたのならこの先会社は大丈夫と太鼓判を押されるのだ。そして高くなった株を少しずつ売り自分の操り人形をその会社の社長に挿げ替えて運営し富を増やしていくのだ。
彼に睨まれた会社は一度死に生き返る。首を狩って再生させるのだ。
そして今回狩れる首はこれから行く東田建設工業株式会社の代表取締役社長の息子である東田学。
彼の飲酒運転での事故が新聞の記事になってしまった。世の中が飲酒運転に厳しくなった所に、この事故が発覚して株価は以前の半分以下にまで落ち込んだ。
救いだったのが人身事故ではなく自爆だったこと。ただ事故現場が交番に止めてある警察車両だったのが笑えない。その場で御用となったのだ。
ニュースでも面白事故として紹介され会社名も載り、本人は反省したみたいだが世間には最悪の宣伝となったのだ。
会社に着き案内された社長室には土下座する二名がいた。
一人はもちろん事故を起こした東田学。その横で土下座するのは父の東田修。ここの代表取締役である。
「このたびは申し訳ありませんでした」
そう言って土下座を続ける修さん。やや太った体格で白髪交じりの頭が絨毯に触れている。その腕でしっかりと息子の学さんの坊主頭を押さえつけていた。
「謝罪よりも、これからの事を話し合いませんか?」
僕の言葉に頭をあげる二人。息子さん、初めてお会いしますがキラキラした目で顔赤くするとかいらないです。
「ではこちらのソファーにおかけください」
そこから四人で話し合い、現段階での株の保有数を確認した。
まずは僕が所有するのは20%社長と息子と社員が25%そして他にこの会社の株を25%ほど有する人がいる。
海老渡金蔵。社長である修さんとは幼なじみでとある銀行のトップ。この会社を起業する時にも力を借り、25%ほどこの会社の株を買ってくれた人でもある。
「ですから金蔵がうちの株を売りに出さなければ問題ないのです。後はイメージ戦略をしていくぐらいしか」
苦い顔で説明してくれたが幼なじみなら売りに出す事もしないと思うが、そこはどうなのだろう。
「海老渡さんが売りに出そうとしていると?」
「はい、この不況で現金は手元に・・・それとこの馬鹿の事もあって・・・」
確かに不祥事を起こす輩が跡取りとなるなら、その会社の未来に不安を覚えるだろう。
ここで一度整理してみよう。
まずはこの会社の乗っ取りが問題なわけで再生屋が株を買わなければ一応解決する。そして海老渡さんが株を手放さなければ一番早い解決にある。
僕と会社と海老渡さんの持ち株を合わせれば70%だ。筆頭株主にでもならなければ発言権ぐらいしか持てない。株主総会で手を打ってくる可能性もあるが、それこそたかが知れている。対処も問題なくできるだろう。
そして一番の問題が今も僕の顔を見て頬を染めているこの馬鹿息子。コイツの意識改革が一番必要かもしれない。
現状で打てる手は海老渡さんの説得と馬鹿息子の意識改革かな。あとは残りの売りに出た株を買い集めるぐらいか。
「東田さん、海老渡さんをこれから昼食に招待する事出来ますか?」
「ええ、この時間なら恐らくは・・・」
「ではお願いします。場所は玄夢庵の離れを借りますので、それと息子さんはすぐに玄夢庵に向かってください。いいですね」
未だ頬を染める馬鹿息子にきつめの視線を向けるとコクコク縦に頭を振り走る様にこの部屋を出て行った。
「では僕も一度失礼します」社長室を出て秘書ちゃんに一つ指示を出し、僕は数件電話して解決策を思案した。




