第80話 文化祭のクラス案
二学期。それはイベントの宝庫である。文化祭から始まってハロウィンや生徒会選挙やマラソン大会などがある。そして最後のビックイベントであるクリスマス。
もちろん二年生には修学旅行があり、一年の中でも慌ただしく忙しい日々となる。
「そういえばさぁ、文化祭の準備とかしなくてもいいのか?」
二学期が始まって三日経ったのに、誰からも文化祭の話が出ていない現状を不思議に思い、お昼を一緒に食べてる女装(普通)に聞いてみた。
「文化祭役員は吉田くんと小野寺さんだぞ。それにこのクラスの出し物はもう決まってるじゃん、なぁゲレンデ」
ゲレンデは女装の話に大粒の葡萄を頬張りながら頷いた。
あれ、僕の知らない所で話が進んでるの? もしかしてハブられてる?
「出し物は何に決まったんだ?」
女装はやや苦笑いで頭を掻きながら、「本当に知らないみたいだな」そう言い終わり視線を近くでランチ中のお嬢の方へ向けた。あからさまに助けを求めているのが分かる。
「優YOU会が関与してるの?」
隣りのわんこに話題を振ると小さくコクンと頭を縦に振った。
何やら嫌な予感がする。前お嬢が束ねる優YOU会に母さんの手が入った事があるのだから疑いたくもなる。(第73話参照)
「お嬢! ちょっといい?」
僕が叫んだ為か一斉にこちらを向くクラスメイト。一糸乱れぬ動きはいつ見ても慣れないし怖いな。
軽く手招きしてお嬢を呼ぶと笑顔へ変わり、ベーグルサンドだかをその場に置き直ぐにこちらへ歩いてきた。
「優くん何ですの?」
やや火照った顔を扇子で隠しながら目は嬉しそうだ。
「文化祭の事なんだけど、クラスの展示物は何にするのか聞きたくて」
「それでしたらちゃんと先月の優YOU会の報告書に記載して提出しましたが、何か不備がございまして?」
報告書・・・八月最後に行った優YOU会の会合は挨拶だけして帰った。その後いつものように提出されるお嬢からの報告書は見てないが受け取った記憶がある。わざわざバイク便を使って届けてもらったのだ。
確か後で読もうと思って机の上に置き・・・そうだ! 大口契約の相談を受けてその資料も机の上に置いたはず。そして一応機密資料だからシュレッターにかけて・・・
「お嬢ごめん。八月の報告書また貰える? たぶんだけど見る前にシュレッターに間違えてかけたかも・・・ごめん。それとクラスの出し物も教えてくれると助かる」
「報告書の方は帰りまでに届けさせますわ。それとクラスの出し物ですが『女神喫茶』ですわ!」何その嫌な予感しかしない出し物。
「一応聞くけど女神喫茶って何?」
「うふふっ、女神喫茶は女神喫茶ですわ! この学校の女神である優様の憩いのひと時を拝見させてもらいながら、客はそれを見てテータイムを過ごすのですわ。他にも優様のペットであるわんこちゃんに犬のコスプレをしてもらって、優様が優雅に撫でますの! はぁ~とても素敵な空間が・・・」
僕が寛いでわんこを撫でている所を見てお茶を飲む喫茶店? なんだそれ! 僕がただの客寄せパンダじゃないか。
「スタッフの衣装もメイド服に統一しますのよ。採寸も全て終わり、衣装の方も今月の中旬には出来上がると報告が来ていますわ。それと報告書にも記載しましたがこの案は優YOU会で採決を取って決めましたの、ですから今更変更が出来ないのは申し訳ありません・・・」
僕の引きつった顔に気が付いたようだ。
「優様には女神として優雅に紅茶を飲んで頂ければ・・・あと、あと、女神の降臨時間が決まっていまして、九時から十一時、十三時から十五時ですわ。それ以外の時間優様は自由に文化祭を楽しんでください。出来たらでよろしいのですが、できるだけ多くのクラス展示に回って頂くと一組独占の意見も薄まると・・・」
最後の方はもう怯えて声も震え話す感じになっているお嬢。もうどうでもいいか・・・
「わかった、ありがとう。僕が見世物になればいいのですね」
「申し訳ありません。決める時はすごくテンションが高くて、きっと喜ばれると思ってしまい・・・」
青い顔して頭を下げてくるお嬢にこれ以上文句も言えない。空気を読んで話す相手を変えるわけだが。
「わんこは犬のコスプレなんかでいいの?」
急に話を振られたわんこは食べようとしたプチトマトを落としそうになった。が、僕がしっかりキャッチして、ヘタを摘まんでわんこに食べさせる。
黄色い悲鳴が上がり失敗したと思ったけど、わんこが真っ赤な笑顔でプチトマトを食べてくれるのでこっちも少し嬉しい。
ゆっくり飲み込んだわんこは「コスプレは少し恥ずかしいけど優くんが撫でてくれるんでしょ? なら頑張る!」だそうだ。撫でられるのを頑張るというのはどうなのだろう?
「そっか、じゃあいいや。学園祭は三日あるんだよね? 金土日で、ずっと女神するのかな?」
「申し訳ありません」お嬢はもう謝って頭を下げてくる人形だな。
「暇だったら僕も給仕の手伝いとかしてもいいのかな?」
「えっ!? 優様がその様な事をされては・・・いや、そうですわね。そっちの方が印象も・・・それに・・・ふふふっ。あぁ何て素敵なっ。これはこれで素晴らしい! 崇拝する女神が民の為に降りてきて至高の紅茶を入れて下さる・・・ふふふっ・・・」
僕らには見えてないビジョンが頭の中で流れているのだろう。ぶつぶつ言いながら天井を見つめ笑っている。
「兎月くん、お弁当ありがとう!」
そう言って現れた目を真っ赤にした担任ちゃん。手には空になったお弁当箱があり、それを受け取ると中身が入ってないのが軽さでわかる。
「どうでした?」この一言が余計だった。僕はただお弁当の感想が聞きたかっただけなのだ。
「もっちろん美味しかったわ! 特に肉じゃが! ジャガイモに染みた甘さに丁度いい色艶。煮崩れもなくておふくろの味だったわ!」俺はあんたのおふくろじゃない!
「それにご飯の上の鳥そぼろと卵そぼろと桜でんぶが綺麗で美しくて食べるのがもったいない位だった。あと海老のひと口フライ何てプリプリふわふわで最高だったわ! 舞茸とほうれん草の炒め物も美味しかったし、その横にあった牛肉の細切りが入ったキンピラも山椒の香りがよく合って、本当にほんどぼにぃ」
泣き始めたよこの担任。
「育がね~だまぼ焼ぎどっだの~ぞれだげが~ぐやしぐて、ぐやじぐで」
育がね、卵焼きを取ったの、それだけが悔しくて悔しくて。だろうか?
目の前には号泣する担任と、天井を見つめ笑うクラスメイト女子。
僕はお弁当を片付け、スマホで株価のチェックを現実逃避気味に始めた。
読んで頂きありがとうございます。
若干、他の作品書きたい病です。




