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第79話 お弁当

 夏休み明けのテスト結果は張り出されないと知り、オール百点でテストを終わらせた。相変わらずテスト後に真っ白くなる女装(普通)【木村太郎】を視界に捕らえている。

 先日のテスト結果を朝のHRで全教科渡されたのだ。

 隣のわんこは出来が良かったらしく、いつもの尻尾をフリフリしている。

 ゲレンデもご機嫌が良いようで背筋がいつもより逞しく見える。

 お嬢はいつものようにオホホしているし、委員長はテスト結果よりもゲレンデの顔を両手で覆った指の先から覗いていた。


 まぁそんなわけで夏休みも終わり、いつもの日常になった始業式後の二日目なのだが、問題が一つあるのだ。


 僕のアタッシュケースには二つのお弁当がある。

 理由は簡単だ。今日のお昼メイドちゃんの分が要らなくなったのだ。友達の郷土料理サークルからお誘いがあり、それに出席すると前の日に言われていた。すっかり忘れていた僕はしっかりとお弁当を二つ分用意してメイドちゃんから苦い顔をされて思い出したのだ。


 「すっかり忘れてたよ。これはクラスの誰かにでもあげるからさ」

 「いえ、このお弁当は私の分です!」と言いながら包んだお弁当をテーブルから取り上げた。

 そう言ってきかないメイドちゃんへ「最近アゴがまた・・・」と魔法ダイエットの言葉を言うと「はい」とうつむきながらお弁当を返してきた。


 そんな理由でお弁当が二つある。

 仕方がないので元気が無い女装へ話しかけつつ弁当箱を席に置く。

 「今日もパンだろ? 弁当いるか?」


 その言葉にクラスの時間が静止した。テスト結果に一憂していたのに物音ひとつ無くなるとか怖いよ皆。


 「まじでか!」一瞬で白黒からカラーになるお前もまじでか!


 「今日はメイドちゃんお弁当要らなくなってな、量的に少ないけどいいか?」


 「まじでか! 優サンクス! 持ってきたパンもあるし全然いい!」おい女装、嬉しいのは分かるが弁当箱を掲げ見つめて楽しいか?


 クラスに響く女装の歓喜に待ったをかける声が上がる。

 「優YOU会として見過ごせません!」

 お嬢が開いてない扇子をビシッと女装へ向け、そこからゆっくりと弁当箱へと扇子がロックオンされた。

 「今からかん口令を敷きます! ゲレンデくん、小野寺さんすぐにドアを閉めて!」

 言われた通りに二人はドアを閉めた。


 「皆さん一度席について冷静に静かに話し合いましょう」

 いつの間にか教壇を占拠する委員長。その横には吉田君の姿も。

 「これは由々しき事態です。私達の友達である優くんが普通くんへお弁当を差し上げたのですから。聞けば本日昼食が要らなくなったメイドさんの分だとか・・・それをただの友達である普通くんだけが貰う権利があるかという」

 「待てよ! 貰ったのは俺だ! 俺の物だろ!」確かに女装のだと僕も思う。


 「普通くん落ち着いて、何もすべて取り上げるような事はしませんわ。ただ言いたいのは一人だけ優くんのお弁当を食べるのに罪悪感を覚えませんの! まぁ私や普通くんも優くんの家で手料理をご馳走になった事が数回ありますが、食べた事のないクラスメイトがこれを知ったらどう思うか・・・はっ!? わたくしったら!?」

 どう考えてもわざとだろ・・・



 「優くんの手料理だと!」

 「何そのご馳走!」

 「前にテスト勉強の時かぁ! 時かぁ!」

 「そうだよ~美味しかったなぁ~」わんこ黙れ!

 「優くんの周りだけずるいよな」

 「あとお嬢も!」

 「わたくしは友達ですもの!」

 「俺らだって友達だろ!」

 「ハイハイみんな静かに! 落ち着いて!」

 登場した現国担当で、このクラスの担任こと臼井うすい先生。


 「まずこの事は皆秘密よ! いいわね! もし他のクラスにバレたら絶対面倒な事になるんだからいいですね!」

 「はーい」と重なるクラスメイトの声。


 「兎月くん、まずあなたに聞きたいんだけど、何で木村君にお弁当をあげたのかしら?」

 先生の問いに僕は「テストで落ち込む木村が不憫で」と正直に話した。


 「確かに平均点以下だったものねぇ。木村君はもっと真剣にテスト勉強してほしいわね」

 「そうですわね。今日の昼休み普通くんには勉強してもらいましょう」

 「だな」

 「そうだねぇ」

 「先生もそれがいいと思うわ」

 「ちょっと待てよ! 何自然に話題そらして優の弁当盗むな!」


 「「「「チッ」」」」


 「皆聞いて、いじめがないクラスを目指している1組で争い事はよくないと思うの」

 担任ちゃんが何やら語り始めた。

 「争いは何も生まない。たとえ生まれてくるとしても、それは復讐という悲劇だけよ。だから私は思うの・・・このお弁当は私がしっかり処分しておくので、この事は無かった事にしましょう」


 「先生横暴ですわ!」

 「教育者がやる事ではないな」

 「美人で尊敬してたのに・・・」

 「先生と言っても所詮は人の子か」

 「一人暮らしだと手料理に憧れるのよ! そうでなくても疲れてマンション帰って「おかえり」を言ってくれる人もいないし、彼氏だってここ数年いないのよ! 少しぐらい妄想したっていいじゃない! 大好きな彼が私のために作ってくれたお弁当を職員室で尊敬の眼差しを受けながら食べたって・・・昨日のお昼だってコンビニのサンドイッチだったのよ! 夕飯だって別のコンビニの牛丼よ! そうよ、淋しい先生ですよ。朝と夜同じコンビニに行く勇気がないぐらい・・・淋しい・・・先生・・・ですよ・・・」

 言い終わった先生は教壇に突っ伏した。なんだろう、心が痛い。


 「あのさ、提案があるんだけどいいかな?」

 「なんですの優くん?」

 「明日からもう一つお弁当作って来るから、順番に食べるのはダメなのかな?」


 飛び切りの歓声が上がり、

 「まじでか!」

 「まじでか!」

 「まじでか!」

 「まじでか!」

 の嵐だった。


 このクラスはイジメがない代わりに、おかしな方に進んでいる気がする。


 「ハイハイハイハイ!」

 「はい先生、何ですの?」

 「私も参加していいのよね! もちろんいいのよね!」


 「はい」と優しく答えたら担任ちゃんはその場でジャンプして、

 「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁ!!!」の雄たけび。


 「さちうっさい! 授業中は静かにしなさい!」と隣の担任が入ってきたのは五秒後だった。



 やっと夏休み明けました。

お読み頂きありがとうございます。 

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