第78話 アイドル
感情が爆発した様に叫んだ重音さんは、真っ赤な顔で涙目になり口元を押さえ僕の顔を見て涙を流した。
孤児院の皆は、
「雪ねぇちゃんがんばれー」
「雪ねぇーファイト!」
「おうえんしゅるぅ」
「雪ならなれる!」
声援と拍手を送り勉強会という雰囲気ではなくなってしまった。
「あらあら、雪ちゃん。会長を困らせてはダメよ。別の部屋で話しましょ」
ハンカチを渡し優しく頭を撫でる院長。
僕も立ち上がり重音さんの頭を優しく撫でながら「場所代えて話をしましょうね」と言い、震える肩を抱き寄せて大食堂を後にした。
相談室、そう書かれたこの部屋は完全防音で子供達との面接に使っている。ソファーとテーブルがあるだけの部屋。小さい子もいるので壁紙がゆるい動物だったりして真剣な話には少し向かないが心は落ち着けるだろう。
その部屋に三人が対面になる様に座ると院長から話が始まった。
「本当にアイドルになりたいのね」
眉毛をハの字にして困り顔の院長さん。
「はい、ずっと夢でしたから・・・」
今にも消えてしまいそうな声量の重音さん。
「夢ねぇ・・・」
僕のつぶやきに肩をビックと震わせる。いや、別に飽きれたり怒ったりしてないよ。
「夢になったきっかけとか、あるのかな?」
僕の言葉に重音さんはゆっくりと小さな声で話し始めた。
「私は捨てられたじゃないですか・・・だから、見返したい。今はこんなにも立派になったんだって・・・ばかみたいですよね。顔も知らない両親を見返したいって・・・」
「ばかじゃないわよ! 雪ちゃんがどれだけ手にマメを作ってギターの練習してたか知ってるもの。朝の発声練習が皆の目覚まし代わりになってるのだって。勉強だってそうでしょ、いつも夜遅くまで頑張って・・・もし両親が迎えに着たら絶対雪ちゃんのこと自慢するんだから」
いつの間にか優しく重音さんを抱きしめる院長は本当の親子の様だった。
「重音さん、アイドルは甘い世界じゃないよ。それはわかっているよね? 芸能界自体が魔窟って呼ばれるような所だし、それこそトップになれる人はごく少数だよ。それでもアイドルになりたいのかな?」
「なりだいでず!」なりたいのは分かったから鼻水を飛ばさないでほしい。
「わかった。ちょっと電話かけさせて」
スマホから秘書ちゃんを呼び出しこっちへ呼び出した。
「優様、お呼びですか?」
「最高のアイドルをひとり誕生させるから、その準備手伝って」
「畏まりました。では傘下のグループにも伝えておきます。それと優様。もしかしたら牡丹様のボイスコーチに頼られてはいかがですか? バンドの方のラビットテールの振り付けをした方にもご助力得られるかと」
「うん、その辺は任せるよ。重音雪さん。本気で頑張ろうね」
泣きながら立ち上がった重音さんは大きな声で「はい!」と答えてくれた。
どうせアイドルになるのなら最強最高のアイドルを育てて見せる。僕の新しい趣味が見つかった瞬間だった。
後日談
「なぁ優よ~」
始業式も終わり呼び方を変えた女装の一言にクラス全員が固まった。
「なんだ?夏休み明けのテスト勉強なら用事があるから無理だぞ」
「いや、それじゃなくて、この秋の新作のモデルってあの叫んだ子だろ?」
雑誌を開き指さす先には秋らしい服装の重音雪がはにかんだ笑顔で、イチョウ並木のセットを歩いている。
「あぁ、それなあの子を最高のアイドルにするための布石だ。応援してやってくれよ」
「まさか優がプロデュースするのか?」
「もちろん! やると決めたからな」
「優くんがプロデューサーかぁ凄いアイドルになりそうだね」とわんこ。
「わたくしも優くんのためならいつでも協力しますわ! 芸能関係のコネならいくつかありましてよ」とお嬢。芸能系のコネはあまりないので頼りになりそうだ。
「あの~みんなは何で兎月くんを下の名で呼んでるの?」そう聞いてきたのは吹奏楽部で同じ美化委員の水樹琴音さん。
「琴音さんもみんなも良かったら優って呼んで、友達だしさ」
返事の代わりに貰ったのは真っ赤にした顔とゆっくり流れる鼻血だった。
名前を呼んだだけで鼻血を出すとか、どれだけ男子に免疫ないんだよ。
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