第77話 夏休みの課題と優くん
八月も中旬に入り夏真っ盛りの孤児院では今年も大宿題大会が開催されている。
参加者は僕とメイドちゃん秘書ちゃん。それとよくつるむゲレンデ、普通、わんこ、お嬢、委員長。それに加え先生係のメイドズ20名。随分と大所帯になったものだ。
「どうだ兎月、似合うか?」
そう言いながら白のTシャツにデニムのロングスカートで金髪長髪を靡かせターンする普通。完全に普通じゃなくなってきている。顔もすっぴんではなく以前していたギャルメイクよりもナチュラルに薄くなっていた。メイドズの誰かにメイクしてもらったのだろう。
「あぁ、似合ってるよ。でも、それでいいのか?」
「何がだ?」
「彼女欲しいとか夏休み前から言ってたのに、女装してたら出来るものも出来ないだろ?」
手を突き出し片手で僕を制しながら「それはそれ、これはこれだ! これはあくまで趣味だからな! 別に男が好きじゃないんだよ。可愛くなる自分が好きなんだ」
なるほど、新しいあだ名を考えないといけないな・・・
「ゲレンデは夏休みの課題後どれぐらい残ってる?」
「英語のレポートが丸々、それ以外は終わらせた」やっぱり英語が苦手か。
「わんこは?」
「私は物理と現国のプリント数枚」
「お嬢は?」
「終わってますわ!」なぜ来た!
「委員長は?」
「私もほぼ終わってる。英語が少しかな? ゲレンデ君と一緒にやるわ」ちょっと頬が赤いけど委員長はゲレンデが好きなのか? でも許嫁いるの知ってるよな?
「優様はどうなのですか?」と聞いて来る秘書ちゃん。今日はビシッとスーツではなくラフなアロハなワンピース。夏休み感が出てとても開放的である。
「僕も物理だけ少しね」
夏休みもモデルや会長職と忙しかったが、移動時間やモデルの休憩時間にしっかりと宿題を進めていたのだ。ただ油断するとメイドズが勝手に宿題をしようと僕のアタッシュケースを狙ってくるので、最近鍵付きの新しいものに買い替えた。
僕の事が好き過ぎるのにも困ったものである。筆跡ですら似せて書くのだから始末が悪い。
午前中から午後に代わると孤児院の庭が騒がしくなる。
今日の孤児院の昼食のためであるのだが、元から六十人規模要るのに今日は百人規模になる昼食。その為作るのが大変だと感じ、僕の傘下にある飲食店に依頼して複数の屋台を出してもらった。
ひとつ目は学食の事でお世話になった老舗そばの玄夢庵。(第36話参照)
ふたつ目はラーメンチェーンの楠屋。正統派醤油ラーメンと冷やし中華が看板メニュー。
みっつ目は鉄板焼きの老舗サーロインMASA。地元の牛肉にこだわりを持つ鉄板焼きが有名であり、弱火でじっくり仕上げたローストビーフ風MASAスペシャルは行く人すべてが注文する一品だ。
よっつ目は牡丹さんの所のかき氷の屋台。夏はやっぱりかき氷食べたくなるもの。
最後に普通の家であるパン屋が出してくれるアメリカンドックとホットドックの屋台。これは普通に内緒で普通父にお願いした。七夕祭りで食べたアメリカンドックのサクサクモチモチ食感は最高だった。さらに言えば最後に残る棒についたサクサク。あれこそまさにはじっこグルメの最高峰ではないだろうか。
「皆さんきりの良い所で昼食に致しましょう」
院長の声に歓声が上がり外へ駆けていく子供達。どの子も笑顔でこっちの口角まで緩んでしまう。
「兎月くん嬉しそうだね」そう言って笑顔を向けるわんこ。
「まぁね。やっぱりみんな笑顔だと、こっちも笑顔になるのがね」
「本当に素敵ですわ。優くんが笑顔だとみんな笑顔になりますものね」そう言ってくるお嬢も笑顔だ。
「「「「優くん!?」」」」
普通とわんことゲレンデと委員長が一斉に僕を見る。
「いつの間にそんな仲になったんだよ」ジト目でこっち見んな!
「私も優くんって呼びたい!」ライバル心出すなよ。
「へぇ~」何を悟っている!
「ンデ、ンデ・・・くん」小声で言ってるがゲレンデの下の名前はンデじゃないぞ委員長。
「この前フランスで呼び名を決めたんですの。ねぇ優くん!」扇子で口元を隠しながら周りをけん制するなよ。
「まぁね」と仕方なく肯定すると、
「じゃさ、みんな友達なんだから、あだ名とか統一しないか?」ナイス案の女装。
「私もそれがいい~」ぴょんぴょん跳ねて喜ぶわんこ。
「俺も優って呼ぶな」とゲレンデ。
「・・・」委員長だけ顔が真っ赤になっている。ゲレンデと呼ぶことを想像でもしたのかな?
「そ、そうですわね! 友達! 友達ですものね!」あからさまな動揺に笑いを堪える僕。
「優様方、早くいらしてください。皆さん挨拶したいと仰ってます」
そうメイドちゃんに怒られながら速足で露店へと急いだ。
「兄様、よろしいですか?」
そう声をかけられたのは食事休憩も終わり胃も落ち着いた頃だった。声をかけてきたのは以前からアイドルになりたいと言っていた子。
重音雪。セミロングの似合う可愛らしい高校二年生で部活では軽音部として頑張っている。
「何かな?」
出来るだけ優しく声を発した僕に頭を下げながら重音ちゃんは「やっぱりアイドルになりたいです!!」と勉強会会場でもある大食堂を揺らさんが声量で叫んだのだった。




