第74話 銀星 桜
Side メイドちゃん
特大のスクリーンには前大統領がスピーチをしておられます。内容は優様の誕生日を祝う話から始まり原油価格の安定化や国際情勢に至り・・・
「つまんない。次!」
奥様の一言で次のビデオメッセージヘ切り替わりました。元大統領がこの扱いでいいのでしょうか?
次々切り替わる優様の誕生日を祝う上流階級の方々からのビデオメッセージ。20人ほどでしょうか未だ完走したメッセージはありません。
来賓客も苦笑いのようです。
そして優様のお爺様あらせられる清二様と奥様のサフィア様の番。
「優、誕生日おめでとう。今年は凄いプレゼントを用意したんじゃ!」
興奮気味に話す清二様とその横で微笑むサフィア様。
「まずはこれを見てほしい」
画面が二人の姿から飛行機の写真へと切り替わりました。
ジャンボジェットとは違う角ばった先端の飛行機は全体を優様の目と同じ青で塗られ、両羽と尾翼には大きく優の文字が描かれています。
「これが今年のプレゼントの超音速旅客機優じゃ! 最大速度はマッハ2.5乗客数も60人まで乗れる。今度フランスに来るときはこれに乗ってくるのじゃ。なぁに整備や管理も長野にいる知り合いの空港に任せてある。だから今年中に「次!」」
奥様の無慈悲な言葉により次のビデオメッセージへ切り替わりました。
横に座って紅茶を飲んでいる優様も苦笑いが止まらない様子。
「贈与税だけでもいくらになるんだか・・・」
そう呟かれた優様はスクリーンとその横にある大量のプレゼントを見て頭を抱えてた。
しばらくしてビデオメッセージも終わり明るくなる大ホールには様々な料理やアルコールが並び、本格的な優様の誕生日パーティーがはじまった。
会場のどこを見てもVIPなお客様。政治家や企業家やアーティストまで様々な成功者と呼べる人達が優様の誕生日を祝いにやってくるのだ。
私なんかが横に立ちその挨拶を聞いていてもいいのだろうかと思ってしまいます。
私が優様の横に立てるのはある不幸が原因でした。
今から4年前、私は両親を失った。
高校2年生だった私は家族と海へ出かけ、その帰りに居眠り運転する車と正面衝突したのだ。両親は亡くなりましたが奇跡的に私は無傷。
そこからは酷い日々がはじまった。
身寄りの少ない私は叔父に引き取られた。居候するならばと料理、洗濯、掃除と家事を頑張る日々。初めてやる家事に手こずりながらも頑張った。
そんな私を叔父はヘビのような目でジロジロと見てくる。食事を作れば「美味しい」とは言ってもらえたが、絶対に私の目は見ずに胸を見るのだ。
そして同居がはじまって3日目。私は襲われた。
後ろから胸を鷲掴みにされ力強く・・・無我夢中で両手を振り回し肘に大きな衝撃があり、後ろを振り返ると顔面を押さえ鼻血を垂らす叔父の姿がありました。
「住まわしてやってるのに、このアマ! ぶっ殺してやる!」
気が付いたら知らない公園のブランコで泣いていた。
私は不幸だ。両親を失い、叔父に犯されかけ、ボタンの取れた乱れたワイシャツ、靴さえ履かずにブランコに乗って泣いている。何でこんなことになったのか・・・
「大丈夫ですか?」
そう声を掛けられ身を守る様に私は胸を隠した。こんな胸に生まれなければ・・・
「よかったらこれ」
よく見ると背丈は小学生だろうか?スーツ姿の女の子がブラウンのカーディガンを私に寄越してきたではないか。
「僕でよかったら相談に乗りますよ?」
カーディガンを渡しながら女の子は優しい笑みで私の瞳を見つめてくる。こうやって初めに目を見られるのはいつぶりだろうか。
私は無駄に大きくなっていく胸が嫌いだ。
「あり、がとう」
小さなカーディガンを受け取った私はまた涙が止まらなかった。
女の子にこれまであった事を話していると、秘書と名乗る女性が現れ持っていた水筒から冷たい緑茶を出された。この時の味は今でも忘れない。冷たいのにとても暖かく感じた。
そこからはあっという間に私の人生が変わった。
叔父はその日に逮捕され出てくる余罪の数々。近隣で有名なレイプ魔だったらしい。身寄りのなくなった私を引き取りたいと申してきた人まで現れた。
名を兎月牡丹。ラビットテールの創始者にして私を保護してくれた女の子の母親だ。
「今日からここがあなたの部屋よ」
そう案内された部屋に愕然とした。
広さは教室ほどあり黒板サイズのTVに天井のあるベッド。ピンクのソファーにはぬいぐるみが並び、横の本棚には多くの辞書や教科書。クローゼットにはドラマで見たようなドレスに、新しい私の制服まである。
「広すぎませんか?」
自然と出た私の言葉に「ぷっ」と笑う私を助けた女の子。
「僕もそう思うよ。母さんは手加減知らないものね」
「何よ! いいじゃない! 大は小を兼ねるんだから! それとね」
そう言ってゆっくり私を抱きしめる新しいお母さん。
「これからよろしくね桜ちゃん」
「はい・・・」
「僕もよろしくお願いします。お姉ちゃん」
少し顔を赤くした新しい妹が可愛らしくて思いっきり抱きしめた。
「ちょっちょっちょっ! お姉ちゃん」
狼狽する妹が可愛すぎる件。
「新しい妹の優ちゃん」
私から逃げる様に離れた優ちゃんは真っ赤な顔で本当に可愛い! 一人っ子だった私はこの妹をどうやって育てていくのかな。
「僕は男です! こんな髪の毛ですが男です!」
「え?」
優ちゃんは男の子? あんなに可愛いのに? あんなに柔らかいのに? いい匂いなのに?
「それだけが残念なのよねぇ」とお母様。
横でコクコクうなずく秘書さん。
「どうせ残念な男ですよ!」
そう言って少し不機嫌な顔は不思議と男の子の顔をしていた。
それから私は幸せだった。いや、幸せすぎた。
メイドズが身の回りの事を全てやってくれ、手伝おうとすると「桜お嬢様にさせるわけにはいきません」そう遮られる。
私ができる事は出された食事を食べる事と学校へ行くことだけ。
このままじゃダメだ。ダメ人間になってしまう。私は生まれながらのお嬢様じゃない。
「お母様、お願いがあります」そう切り出したのは私がここにきて一か月後の事だった。
「桜ちゃんからお願いされるのは初めてね。何? 欲しいものがあったら遠慮なく言って」
「私をメイドに、優ちゃんの専属メイドにして下さい」
私は土下座する勢いで頭を下げた。
「う~ん、巨乳で義理の姉にしてメイド・・・面白い! いいわよ。メイド長を呼んで」
それから私はメイドとしての立ち振る舞いをメイド長直々に仕込まれた。歩き方から始まり護身術に英語やフランス語などの習得。学校と睡眠時間以外すべてこれに当てられた。
2年後、私は優様の専属メイドとしてメイド長に合格の二文字を与えられた。
「何でお姉ちゃんが専属メイド?」
そう可愛らしく聞いて来る弟。いえ、優様。
「これからはお姉ちゃんではなくメイドとお呼びください」
頭の下げ方も堂に行っているでしょ優ちゃん。じゃなかった優様。
「わかった。じゃあメイドちゃん! これからよろしくね」
微笑みながら答えてくれた優様はとても可愛らしく成長され今年で中学二年生。これから本当の私のメイドライフがはじまるのだ。
「メイドちゃんどうしたの?」
パーティーも終わりリビングで寛ぐ優様。もしかして優様を見つめていた事がばれたのか?
「何でもありません」
それだけ言って立ち去ろうとすると優様が言ってくださった。
「あれさ、僕の誕生日ぐらいお姉ちゃんして欲しいかな」
何この弟、超超超かわいい~~~~♪ やっべ! やっべ! マジやべーーーーー♪
無意識のうちに私は優ちゃんをハグして・・・
意識を取り戻された優様からちょっと距離を置かれました。
そんな16歳になる弟の誕生日。
読んで頂きありがとうございます。




