第65話 使用人
絶賛ダッシュ中こと僕USAです。
パーティーの準備も完全に終わり、わりと暇して紅茶を楽しんでいました。それが良くなかった。
ここのメイドさんがおかわりのたびに違う味の紅茶を進めてくれた。そしていざ外部ユニットと接続しようとハーネスで吊るされた時に猛烈な尿意。急いで待ったをかけて従業員通路からダッシュしてトイレに向かっています。
もちろん通常の僕なら男性マークのトイレに駆け込むが、今は完全USA装備の女装なわけで・・・
特にラッキースケベ的な展開もなく女子トイレから出た僕は帰り道を確認。うん、ここどこ?迷子になりました。
曲がり道もなかった気がするので二択になるだろう来た道を戻る。途中でメイドさんに会えば道も教えてもらえるはずである。
そして一つのドアの前に。ドアに耳を当て聞こえてくる複数のフランス語と英語を耳にした。何やら聞いたことある英語を発する声も聞こえる気がするしここだろうか?
僕は音をたてない様にゆっくり開き中を確認しようとドアの隙間に目を細めた。
不思議だね。ドアが勝手に全開に開いた。犯人はここのメイドさん。おそらく少しでもドアが開けば対応する様になっているのだろう。
ややつんのめる形で入室したパーティーホールは先ほどの会場とは違い、執事さんとメイドさんの群れが・・・
ここはあれだ、パーティーに出席中の主から離れた使用人たちの休憩ホールだ。
テーブルには豪華な料理とケーキ類や紅茶などが並んでいる。
それを主達同様に歓談しながら楽しんでいたのだろう。
しかしその空間はUSAの急な登場により静寂に包まれている。それはそうだろう。本来ここに姿を見せないパーティーの主役が急に現れたのだから・・・
さて、どうしましょう。
僕は背筋を正し優雅に一礼した。
「このたびは私のためにお越しいただきありがとうございます。本来ならここに姿を現すのはマナー違反となりますが、無理を言って挨拶させていただきました。皆様もささやかではありますが楽しんでいってください」と、英語で挨拶をしてドレスの裾を掴み一礼。
英語が通じる使用人さんは涙を見せ、頭を下げてくる。英語が通じない人は小首をかしげているが、ドアを開けたメイドさんが大声でフランス語に通訳し、僕の挨拶を伝えてくれた。
そこからは拍手の台風。会場中の使用人たちから頭を下げられた。
そして中でも群を抜いて風格のありそうな白髪混じりの老人が前に出て片膝をついた。すると他の使用人たちも同じように片膝をつき場が静まり返った。
僕の頭の中に一瞬1年5組の優神教の事がよぎったが・・・
はじめに片膝をついた老人執事さんがフランス語で何やら言っている。
先ほど僕の挨拶を通訳してくれたメイドさんが僕の横に来て、そのフランス語を英語に変えて耳打ちしてくれた。
「私共のような使用人にこの様なおもてなしを受けたのは初めてです。確かにパーティーマナーには違反しますがここに居る家も格式も違う使用人全てに代えまして、お礼を言わせてください」
使用人は使用人として扱う。人ではなく使用人として。使用人とは金持ちからしたら家具であるのだ。それが一般的な使用人に対する対応である。
まして今日のようなパーティーで主賓が主より先にその使用人に挨拶する馬鹿などいない。が、今目の前にいるそれは、わざわざ出向いてまで使用人たちに挨拶をして頭を下げたのだ。彼らの心を打つには十分だったのかもしれない。
場所を間違えて入ったとはもう言い訳できないだろう・・・
ゆっくりと優雅に立ち上がる使用人代表。それに伴い立ち上がる他の使用人たち。中には嗚咽し涙を流している人もいた。
こっちは罪悪感しか・・・
そんな中、城中に日本語でアナウンスが響いた。
「迷子のお知らせをします。本日のパーティーの主賓であらせられますUSA様。至急第一パーティー会場裏ステージまでお越し下さい。繰り返します。USA様! いい加減にしないと怒りますよ! 早く戻ってらっしゃい!」秘書ちゃんキレテーら・・・
僕は通訳してくれたメイドさんにエスコートされ、逃げる様にパーティー会場裏ステージを目指した。




