第61話 お風呂
それにしても群を抜いたお金持ちは凄い。何が凄いかって?
僕の目の前には4階建てほどの塔が立っている。以前は見張り台などに利用されていたのだろうか?その塔すべてがお風呂だと言う事。
入口にある案内板にはフランス語、英語、ロシア語、日本語など世界各国の言語で表記されている。
風呂の数も男女合わせて40室。大浴場や電気風呂やサウナやジャングル風呂。屋上には露天風呂まで。地下には混浴や温水プールなどもある。
空の番人こと祖父の趣味で作ったと4歳の僕に自慢してきたのを思い出す。やり過ぎだろ・・・
受付でペルちゃんと秘書ちゃんとメイドちゃんと別れ、三階の個室風呂に着いた。そう着いたのだ。男湯の個室風呂に。そして後ろを振り返るとこの城のメイドさんが三名ほど・・・
何やらフランス語で話してくるメイドさん方にスマホで翻訳サイトの力を借りる。
「僕はひとりで洗えますので帰ってください」スマホから流れるフランス語。
首を横に振るメイドさん方。仕方が無く僕は新しく文章を打ち込む。
「怒る前に立ち去ってください。そうしないと今後この家には一切来ません!」少しきつめに言い過ぎたかな?
顔を青くして頭を下げ立ち去るメイドさん方。
後で何かフォローしておこう。そう思いながら個室風呂へ。
個室風呂と言っても中は広く10畳ぐらいだろうか。ヒノキのバスタブは4人では入れそうなほど大きくいい香りがしている。が、お湯が張ってない。なるほど、それをメイドさん方は言っていたのか。なんて一人で納得し、もうシャワーだけ浴びよう。
服を脱ぎシャワーをひねる。
「ひょっひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
冷水でした。と言うか冷水しか出ない・・・故障中かよ!
冷えた体を拭き、案内板で他に個室風呂が無いか確認し・・・無い! 一人だけで入れる風呂が無い!
仕方なく一階の大浴場を目指した。途中先ほどのメイドさん方に遭遇し、翻訳した「先ほどはすいませんでした」と謝罪したらフランス語を捲し立てて頭を下げてきた。ここに居たら永遠に続きそうなので頭を下げその場を立ち去る。
言葉の壁を超えるのは大変だと実感した。もう日本に帰りたい・・・
大浴場と言う名は間違っていると思う。ここはテーマパークだ。
吹き抜けを思わせるほど天井は高く、壁には大きく富士山が描かれている。メインの風呂なのだがプールを思わせるほど広い。多分うちのプールより広い。そして驚くのが壁際に階段が多数、その階段の先にも小さな風呂がいくつもあり、そこから打たせ湯なのかお湯が下へと落ちている。
さながら石造りの都市に水が流れているようで・・・4歳の時に入った大浴場はもっと普通だったのに。
考えるのを止めて体を洗い湯につかる。他に人がいないのは助かった。以前学校であった幸せ流血事件(第34話参照)を思い出しながら軽く伸びをする。
同性であっても魅力的に見せてしまうこの顔に生まれなければ、どんな人生だっただろうか。ただ普通の高校生をしたのだろうか・・・無理だな。母がいる・・・あの母の子供に生まれれば誰だって数奇な人生を歩むはずだ。
「おや、優もいたのか・・・ぐふっ」レオンさんが鼻血を出した。
もう少しお風呂を楽しみたかったがもう出よう。
「僕は先に出ますね。ゆっくりしてください」
アニメならここで湯気や光が入ってモザイク的なものになっただろう。しかしここは現実である。湯から上がると同時にタオルで股間を隠したがレオンさんの鼻血が湯水のごとく溢れた。
これ死ぬんじゃね?
急いでメイドさん方を呼ぶ。入る前に確認したのが良かった。御用の際にはこのボタンを押してください。と便利な物があり連打したのだ。
駆けつけてきたメイドさんに英語で「レオンさんが出血している」と伝えた。すると英語で「わかりました」と・・・英語で伝わるのかよ!
メイドさんの顔が赤かったのは見なかった事にしたし、僕の記憶からすぐに消した。だって僕全裸だもの・・・
ガウンに着替え、受付近くのラウンジへ足を向けた。
革のソファーに座ると同時にメイドさんがやってきてフランス語で何か言ってくる。うん、わからない。
「英語できますか?」英語で尋ねると笑顔でうなずいてくれた。
どうやら飲み物を持ってきてくれるらしい。アイスティーをお願いし、スマホで株価のチェック。茶川さんの会社の株がご褒美コーヒー発売前と比べると14倍程に上がっている。順調なようで何よりだ。
それから1時間ほど観光ガイドやら英字新聞を読み時間を潰すと背中に衝撃が。ペルちゃんの登場である。
背中に抱き着くペルちゃんはとても暖かく、少し冷えた僕の体にはとても心地よかった。
「優お姉チャンにオ願いがありモス」
背中から声が聞こえた。せめてお兄ちゃんにしてほしい。
「ペルちゃん何かな?」優しく問いかける。
「今日一緒にネテもいいデス?」何この子可愛い!?
背中に抱き着く力が強くなった。秘書ちゃんとメイドちゃんは笑顔だ。そう笑顔なのだ。それが少し怖い・・・
「一つ約束してくれたらいいよ。約束できる?」
「しモス! 約束しモス!!」
抱き着いてきたペルちゃんを引きはがし、僕の前に移動させた。
「僕の事は優お兄ちゃんと呼んで。約束できる?」
「ハイ!!!」
最高の返事と笑顔を貰った。そしてペルちゃんの後ろの二人からも、目が座った笑顔を貰った。




