第60話 団欒
あれから給仕のまねごとを少しさせられ満足したのか、祖母と母とメイドズはこの部屋から引き上げて行った。
「夕食の準備が整いました」とメイドさん。僕を見るなり目を見開き数秒で「こちらへ」と通常の表情へ戻り城案内をしてくれた。とても良い教育を受けているようだ。
今は完全USA装備であるにもかかわらず、握手を求めたりジロジロ見てきたりもしない。メイドの鏡のような人である。うちのメイドズにも同じ教育を施したいものだ。
長い廊下を僕とペロちゃんと秘書ちゃんメイドちゃんで進む。
すれ違うメイドさんに驚いた表情をされるがすぐに会釈に切り替わる。そうやって歩くこと数分大きな離れのドーム状のホールに着いた。ここが食堂らしい。
「USAちゃん遅いわよ。早くこっちへ来なさい」
母さんに促されるように席に着く。隣は秘書ちゃんとペロちゃんだ。通訳がないと流石に不安になる。メイドちゃんとメイドズは別のテーブルに着いたようだ。
「ピボ・・・牡丹よ、よく帰って来てくれた」おそらく祖父だろう。首から上がミイラ男のように包帯でグルグル巻きである。
「ふんっ! サフィ母さんのお願いだからよ! 私もUSAも日本で忙しいのは知ってるでしょ! わざわざこんな田舎に来る意味なんてないんだから! どうせまた再婚しろとか言う気でしょ? 絶対しないからね! 私が生涯愛したのは優也さんだけだわ! 大体・・・」
母さんの長い話は無視して運ばれてきた前菜をいただこう。
アスパラと甘エビのサラダ。甘エビの甘味に黒コショウと食感のあるアスパラがよく合う。
ペルちゃんの前菜は黒コショウが乗ってない。ここのシェフは相手を見て料理を提供してくれる人の様だ。甘エビを食べて笑顔になるペルちゃん可愛い。
「それより牡丹ちゃん、優ちゃんがいないけど・・・USAさんが優ちゃんなの?」秘書ちゃんが祖母のリアルタイムで通訳をしてくれる。
「そうよ! さっきも言ったでしょ。レオンも父さんも覚えておきなさい。絶対秘密だからね!」ギロリと睨む母さん。
「「はい」」この二人完全に怯えてないか?
「あとメイド達もよ!」立ち上がり仁王立ちでメイドさんを見渡す母さん。
配膳をするメイドさんの動きが止まり静まり返った食堂。ワインを注いでいたメイドさんが怖がって、グラスとワインがぶつかり合いカチカチと雑音が流れた。
「ほら母さん。せっかくのスープが冷めちゃうよ。そのぐらいでいいでしょ」僕の助け舟にメイドさん達が動き出す。
「USAお姉様サスガデス」キラキラしたペルちゃんの視線におもわず頭を撫でしまった。
そこからはゆったりとした時間が流れた。
母さんがキレる事もなく、フランスの夏は過ごしやすいだろうと言う話から始まり、レオンさんの浮気がばれて奥さんのマリアンヌさんが実家に帰省していたり、祖父さんの武勇伝を聞いたり、祖母は昔フランスのサファイヤと呼ばれていたりと、いかにも親戚の集まりの話を聞いた。
話の途中で運ばれてきた子羊のソテーは涙が出るほど美味しかった。今は木苺が添えられたアイスをペルちゃんにア~ンしている。
「と、言うわけで明日のパーティーには是非ともUSAで出席してくれたまえ」
何やら聞き流せない内容の言葉が・・・
「嫌よ! こっちのパーティーは堅苦しいし面倒くさいもの。それにUSAで出席させるなんて・・・うふぅ。それ面白いかも・・・」母さん、悪代官よりも悪い笑みで口押さえているよ。
「USAどうだろう?」レオンさんの額の大きな絆創膏が痛々しい。祖父よりましだが。
「でも、僕は・・・ほら、声とか男のものじゃないですか」
「全然気にならないよ? ねぇ父さん」レオンさんの発言にコクコクうなずく祖父。
「それにCMでUSAの声知っている人がいるかもしれないし」
「それなら大丈夫よ! 話さなければいいだけだし。どうせフランス語聞き取れないでしょ? 秘書ちゃんに耳打ちさせて秘書ちゃん通して話をすればいいだけよ。バレやしないわ」
何で母さんが僕を追い込む!昔からだけども・・・
「優様、私が絶対守って見せます!」秘書ちゃんも変にやる気を出さないでほしい。
「でもさ、何でUSAで出てほしいの?」
「自慢したいからね」レオンさんが胸を張って発言してきた。自慢より先にマリアンヌさんへ謝罪したほうがいいと思います。
「儂からも頼む。いけ好かないイギリス貴族の奴を凹ませたいんじゃ!」こういうのを老害と言うのだろうか。
「決まりね! USAの社交界デビューね! 飛びきりの衣装を用意しなくっちゃ! メイドズ来なさい!」
まだ食事会途中だろうに・・・母さんはメイドズを連れてこの場を去っていった。
「優、無理言ってごめんね」秘書ちゃんナイス翻訳。
優しい謝罪を受け、頭を祖母に撫でられる。滅多に頭を撫でられる事が無い僕は正直照れてしまう。
この優しい手つきは本当に気持ちがいい。僕もペルちゃんをここまで優しく気持ちよく撫でられているのだろうか・・・
ペルちゃんが人差し指をくわえ、羨ましそうにこっちを見る姿が何とも可愛かった。




