第582話 宴会が始まりました
夕焼けに染まり始め気温もぐっと下がり始め、子供たちをホテルに戻し夕食です。
子供たちと別れメイド長の案内で移動しますが、足が疲れました。いま思えばホテルを上から下り続け結構な距離を歩き、雪の上でカマクラ作りや雪うさぎなどを作り運動量は普段よりも多かったかもしれません。
ゲレンデやメイドズの様な力作業はしませんでしたが、足はハーフマラソンを走ったぐらいの疲れ方をしており痛む事はありませんが少し震えます。
「今日はいっぱい歩いたからね。疲労が溜まったのだろう」
「おや、それでしたら失礼します」
レオーラさんに指摘され、あっという間にメイド長からお姫様だっこされ移動再開です。
お姫様だっこ慣れしている自分が情けなくなりますが、とっても楽ちんでメイド長には感謝です。
案内された部屋は洋室ではなく和室の大宴会場。中に入るとラビットテールの重役やシングルメイドズなどが座り乾杯待ちの様です。
上座には祖母と母さんが居り、MINIUSAとKUROUSAにそのご家族。その次にはゲレンデや美佐さんにレオネーネさんにウィレオくんが座ります。
関係者ばかりなので問題ないと思いますが情報漏えいには注意して下さいね。MINIUSAとKUROUSAの正体がばればれになってしまいますからね。
「見て見て、髪の毛を結ってもらったよ!」
「僕も可愛い感じにして貰えたんだ!」
赤のコンタクトを入れていないのでMINIUSAとKUROUSAではなくワンコと一華ちゃんですね。
犯人は母さんだと思いますが、ワンコの髪の毛を多くの三つ編みに結ってメデューサの様に蛇がいっぱいの髪型にするのはやめて下さい。器用にヘヤピンで蛇の目を作り芸術的ではありますが少し恐怖を感じます。
一華ちゃんはメデューサとは違い可愛い編み込みでお姫さまといった感じです。髪留めが数種の宝石を使いキラキラですので、失くさない様にしましょうね。
僕が空いている上座の席に座ると御膳に料理は数種類しかなく、これから持って来るようです。
「それでは揃いましたので、奥さまからのご挨拶のほど、宜しくお願いします」
何やら司会進行する社員さん。母さんが立ち上がり胸を張りマイクを持ちます。
「みなさんお疲れ様です。私とみなさんの努力で世界的な企業へ上り詰める事ができました。初めは小さなミシンを使い一点物の子供服から始め、今では美の追求をするまでになったラビットテールです。
思えば近所の奥さまたちを集めた頃は本当に大変だったわね。資金集めから始まり、はじめて雑誌に載った時はみんなで抱き合って喜んだ事を覚えているわ。あれから十数年……本当に感謝しかありません。
まぁ、私が感謝した所で喜ぶ社員は少ないだろうけど、それはUSAも感謝している事にして頂戴ね。それに今日はUSAがみんなの御酌をしてまわるから楽しみにしていなさい」
一斉にキャーという歓声が上がり母さんの声が聞こえなくなり耳を塞ぐMINIUSAとKUROUSAにウィレオくん。
「うっさい! あまりに煩いと中止にするわよ!」
ぴたりと声が止み、少し耳鳴りを感じるほどです。
「もしセクハラまがいの事をすれば生きている事を後悔する事になるわ。メイド長もそこの所はよく監視してTPOを守った行動を取る様に! それでは私にビールを頂戴!」
どうやら僕はビールを注ぐ係になりそうです。
「それなら私のもお願いね」
祖母のソフィアさんからも笑顔で注文が入り、立ち上がり用意されているビールサーバーへと向かいます。
もう何度か使った事もあるので冷えたジョッキにビールを注ぎますが一杯目は失敗です。
泡が九に液体が一のお店で出したら間違いなくクレームが来る一品です。
「失敗ですね。こちらのジョッキを御使い下さい」
傍にいたメイドズが新しいジョッキと交換してくれ、お礼を言うと一気に飲み干します。
「勿体無いので飲み干しました。私が正気を保てているうちに成功回数を増やして下さいね」
どうやら失敗したビールを飲み続けてくれるようです。
そう何度も失敗しないと思いますが、真剣に集中して頑張りましょう。
二回目三回目と成功させ母さんと祖母に届けると笑顔で受け取り、他の皆さんにもビールやら焼酎やらワインなどが並び乾杯の声が重なります。
「失礼します。お料理の方が少し遅れており、申し訳ありません。もう少々お時間が掛かり……申し訳ありません」
「料理は出せる時に出してくれればいいわ。子供たちを優先してくれればそれだけで十分よ」
母さんが珍しくフォローの声を掛け安堵するおかみさんですが、一瞬僕と目が合い固まりましたが直ぐに復活し、丁寧に頭を下げ退出して行きました。
母さんも何だかんだと言いながら子供が好きで、子供服を今でも作り続けています。
優しい心もきっと心の何処かにあるのでしょう。
「私も手伝う~」
「僕も手伝います!」
MINIUSAとKUROUSAもお酌係を手伝ってくれるのか、それとも料理が来るまでの暇潰しか僕の横に並びビールを届けてくれるようです。
それでは僕はビールを量産していきましょう。
お読み頂きありがとうございます。




