第58話 伯父と祖父と祖母
飛行機を降りた僕たちはVIP専用ラウンジに通され、温かい紅茶と焼き菓子をいただいている。
そんなVIP対応にひとり苛立っているのが母である。理由もくだらないから始末が悪い。
僕は気にせず温かい紅茶の香りを楽しんでいると、一人の金髪ダンディーがこのラウンジに姿を現した。
「おぉユ~ウ! 久しぶりだねぇ~まえこっちに来た時はこんなに小さかったのに大きくなって!」
僕の手を握りブンブン握手してくるダンディーさん・・・誰? 以前あった事があるみたいだが・・・
「レ~~~オ~~~ン~~~~どういうことよ! あと2話だから最後まで見せてってお願いしても見せてくれないなんて! あと2話だけじゃない! fightは最後が感動するのに!」
これが母なのだ・・・
以前僕がUSAでコスプレをした(第29話参照)作品のアニメfightを見せたかったらしく、寝ている僕を起こしてまで見させられた。確かに衣装の完成度は高く本物と言っても差し支えないだろう。二千万以上の値段があるかはわからないが・・・
それよりも、空の通行を止めてまで残り2話を見せろは、はっきり言ってクレイジーとしか言いようがない。完全なクレーマーである。
「ピボワンヌ勘弁しておくれよ」レオンと呼ばれた男が僕から母の方へ歩く。
「その名で呼ぶな~~~~~~」レオンと呼ばれた男が母から前蹴りを食らい僕の横へ転がる。
ピボワンヌ? そっと秘書ちゃんに耳打ちして意味を聞くと、どうやらフランス語で牡丹の意味らしい。母をからかうワードを一つゲットした。
ついでにレオンさんの事を聞くとどうやら叔父であり、母の弟らしい。前に会った時はヒゲもなく超イケメンとしか認識していなかった。最後に会ったのも10年前だし覚えてないのは仕方ないよね。
「いい、私の事はお姉さんよ! それ以外で呼ばないで! そのポンコツ頭に刻み込みなさい!」母さん、倒れたレオンさんの頭を踏みながら言うのは可愛そうだよ・・・
「はい・・・」
「それより手続きはまだ終わらないの?」
「終わったことを言いに来ました・・・」
「そうじゃ行きましょ! それと・・・」
僕の肩に手を回し「優ちゃんでも言ったら怒るからね」笑顔だ・・・
「はい・・・」
NGワードが増えただけでした。
それから僕たちはVIP専用出口から用意されていたリムジンに乗り母の実家を目指した。
車中念願のラスト2話を見てご機嫌の母さん。僕は景色を楽しんだ。
郊外に向かうにつれ増えてくる葡萄畑や放牧している馬。日本ではあまり見ない光景にフランスにいる実感が湧いてくる。
映画版のfightが終わるころには大きな城が遠くに見えてきた。
通称プルサンス城。
母の実家である。別に貴族とか王族とかではないです。祖母の趣味で買い内装を完全リフォームした城である。部屋数も迷子になるぐらいあり幼少時の僕も実際迷子になった。
リムジンが門に横付けされ、僕たちが下車する門が開く。そこへ大量のメイドや執事にお出迎えされた。40人はいるのではないだろうか・・・
そして、そのメイド集団の真ん中から現れた白髪交じりのおじさん。僕の祖父である真二プルサンス。空の番人と呼ばれている人であり、先ほどの空港の最高経営者。他の国の空港や航空学校や飛行機製作などの会社を牛耳る人。飛行機に強い憧れを持ち自信でも飛行免許を数多く所有している。
そんなすごい人が今空を舞った。
「その名で呼ぶな~~~~~~~!!!」
ピボワンヌと叫び走って来た祖父は抱きしめる気満々だったのだろう。両手を広げていた。そこへ渾身のアッパーが決まり、空を仰向けのまま2メートルは舞ったのだ。
NGワードから禁忌へ昇格しました。
そしてもう一人この場へゆっくり歩いて来る青目の金髪美人。僕の祖母サフィア・プルサンスである。
見た目はどう高く見ても30代にしか見えない祖母。何か秘薬でも飲んで若さを保っているのだろうか・・・
フランス語で僕達へ挨拶し怒れる魔王(母さん)を抱きしめた。母さんも笑顔に戻り祖父の後頭部を踏むのを止めこちらへ歩いて来る。
「お婆様お久しぶりです」
そう僕が挨拶すると日本語が分からないのか小首をかしげ母さんから耳打ちされ僕を抱きしめた。
捲し立てる様にフランス語で話されるが意味が分からない。久しぶりに会った孫が大きく育ったことを喜んでいるのだろうか。
「サフィア様はここに居る間、優様はドレスで過ごしてくれると申されていますが優様本当ですか?」秘書ちゃんが通訳してくれた。犯人もわかった。
そしてその犯人は嬉しそうにこちらを見ている。
おのれピボワンヌめ!




