第488話 ライブ中継の終わり
生中継も終わり僕らはエントランスからホテルの中へと入るとワーキャーの声が下から響き、誰もが上を見上げ僕らと視線が合いますが、メイド長の咳払いでピタリと静まり蜘蛛の子を散らす様に退散するラビットテールの社員たち。
ある意味正しい社員の姿なのかもしれません。
メイド長はそれなりに権限が与えられているらしいので、恐れられているのでしょう。
「まったく嘆かわしいです。社員旅行でもここまでハシャグ事はないのですが……」
メイド長の言葉に大晦日という特別な日がそうさせたのか、重音ちゃんのライブがそうさせたのか、僕が原因なのか……深く考えるのはやめましょう。
階段を下りて受付まで戻り、MINIUSAとKUROUSAを発見し合流します。
「重音ちゃんのライブは凄かったよ!」
「ホテルに巻き付いているドラゴンも炎を吐いてたね!」
興奮気味に話す二人ですが、炎を吐くドラゴンには僕も驚きました。
十メートルほど離れた場所にあるドラゴンが首を上げ、炎を急に吹き始めた時は三人で驚きました。
「あれはビックリしました」
「一度倒したドラゴンですが、急に動き出したから怖かったです」
ペルちゃんとアシュレちゃんは僕を救う為に、あのドラゴンと戦っていましたね。
その節は救出して頂き、ありがとうございました。
「マジックプリンセス!」
「プリンセス!」
外から聞こえた叫び声に僕らも外へと視線を向けると、ウィレオくんとアニーちゃんが重音ちゃんに抱き付きアワアワしているのが見て取れます。
中継自体は終わっていそうなので外へ向かうと、先ほど歌って踊っていた重音ちゃんが魔法少女の衣装を着て、両手を上げて幼児二人に抱きつかれています。
「あわわわわわ、スタッフ~スタッフ~助けて~」
ちょっと面白い事になっていますが、助けて方が良さそうですね。
「アニー! 重音ちゃんに迷惑を掛けちゃダメですよ~」
「ウィーくんもダメだよ~」
アシュレちゃんとペルちゃんが叫びながら二人へと走り寄り注意してくれ、幼児たちは重音ちゃんから離れました。
「うううう、ビックリしたよ~急に抱き付かれ時は子供のお化けかと思ったよ~」
照明があったとしても薄暗い所で、急に足に抱き付かれたら怖いですよね。
「ライブ中継お疲れ様です」
僕が声を掛けるとブルブル震えていた重音ちゃんはパッと表情を変え、両手を広げタッタッタと僕に近づきメイド長に頭を鷲掴みです。
「痛っ! いたたたたたたたたたったった」
頭を持ち上げられた世界の歌姫は手足をバタバタさせています。
「アイドルといえどUSA姫さまに抱きつく事は私が許しません!」
メイド長はとても頼もしいですが、痛そうなのでそろそろ降ろして下さい。
それにこの光景は数時間前に見た気がしますが、あの時は逆海老固めだったので違うといえば違うのですが、僕に近づく不審者を取り合えず拘束するのはどうなのでしょう。
安全を考えれば仕方のない事かもしれませんね。
「雪のライブはどうでしたか?」
メイド長の拘束から解放された重音ちゃんはキラキラして目でライブの感想を聞いてきます。
それに後ろには撮影スタッフさんたちが驚きの表情のまま固まっているのですが、真冬の外という事もありますので、そちらを先に処理した方が良さそうですね。
「ライブはとても良かったよ。寒空の下の撮影は大変だったでしょ。良かったら中で温かい物でも食べませんか? 皆さんに年越し蕎麦とか用意できないかな?」
重音ちゃんを褒め、スタッフさんたちを労い、メイド長にお願いします。
「すぐに用意して頂きます。ここは寒いのでエントランスへどうぞ」
メイド長は固まるスタッフさんたちに話し掛けますが固まったままです。
「二位と四位は皆さまをご案内しなさい。私は先ほどの和食屋さんに温かい蕎麦を用意して貰える様お願いしてきます」
メイド長はさっさとこの場を離れエントランスへと向かいましたが、残された序列二位と四位のメイドズはお互い頷き合い固まったスタッフさんたちを平手打ちです。
パンパンパンと軽めなビンタが連発し、正気に戻るスタッフさんたち。
「寒空の下の撮影御苦労様です。中で温かい年越しそばを用意してもらっているので少し休憩して下さい」
僕の言葉に正気になったスタッフたちが改めて固まりました。
「USA姫さま、この調子ですとスタッフの皆さまの顔が大変な事になってしまいますので、先に中にお入り下さい」
「USA姫さまが話し掛ける度固まり、その都度ビンタをしていては体に支障をきたす者も現れる可能性が……」
メイドズの言葉に少し傷付きましたが、子供たちを連れホテルの中へ退避します。
「超絶人気のUSA姫さまにMINIUSAとKUROUSAが揃っていたら、誰だって驚くと思いますよ」
アシュレちゃんから優しい言葉を貰い、横でうんうん頷く重音ちゃん。
「少しずつ馴らしていくのが良いのデース!」
「デース!」
「デース!」
幼児たちを使って傷口をえぐるは、やめて下さい!
お読み頂きありがとうございます。




