第452話 約束した桜姉さんへの誕生日プレゼント
クリスマスも終わり僕とメイドちゃんと母さんはヘリコプターに乗り込みます。
整備から帰ってきたばかりのヘリコプターはドピンクで、近くで見ると目がチカチカするほどです。
内装もこだわりがあるようでレザーシートをピンクに染め、天井はハートがいっぱいです。
居心地の悪さを感じます。
「お泊まり楽しみですね」
メイドちゃんこと桜姉さんはご機嫌です。
「家族だけで出かけるのなんていつ振りかしら」
母さんもご機嫌なのか前に座る僕の頭を撫でてきます。
ここで「やめて」とか言うと桜姉さんまで参加し撫でてくるのは過去の体験から学習しているので無抵抗です。
僕らはヘリコプターから雪に染まる山々を視界に入れながら、桜姉さんの誕生日プレゼントである家族旅行へと出発中です。
山奥にある宿泊場所へは本来車で行く予定でしたが、この時期にしては天候に恵まれ風も緩やかな事もありヘリコプターで直行と相成りました。
が、
「こちら命綱を確りと握り降りて下さい。現場に控えているメイドズが金具を外しますので、それまではこの金具を絶対に触らないで下さいね。絶対ですよ! って、奥さま!?」
着陸せずに紐一本で降りる事になるとは聞いていません!
確かに周りは真っ白で着地できる所などは見当たりませんが、紐一本で降りるなら車で来るよ!
「奥さまは飛び降りてしまいましたが……新雪も多く問題ないのでしょう……きっと……」
きっとと告げるメイドズの言葉が気になりますが、どうして母さんは紐なしで飛び降りたのでしょうか?
高さも十メートルを超えていると思うのですが……
「先に行きますね」
笑顔で手を振りながら桜姉さんも飛びおりましたが……
「………………」
無言で僕を見てくるメイドズに「僕は紐ありでお願いします」とリクエストをしました。
紐なしがダサいとか思いませんし、紐ありと紐なしを選べというなら大多数は紐ありを選ぶはずです。
僕は何を考えているのでしょうか?
ゆっくりと降ろされながら紐なしなら恐怖も一瞬なのかなとか、考えてるうちに地上へ到達しました。
何事もなく仁王立ちする母さんと、旅館の雪が積もった屋根に刺さり二本の足だけが見える桜姉さん。
早く誰か雪かきついでに桜姉さんを助けてやって下さい。
「いらっしゃいませ」
そう挨拶をしてくる旅館の女将さんと思われる人は苦笑いです。
「予約していた兎月です。夜剣さんの紹介で」
「ママ大変! 道場の屋根にメイドが刺さって……る……」
以前、桜姉さんの誕生日に戦っていた勇ましい女性ではなく、可愛らしいピンクのエプロン姿でママと呼ぶ夜剣千華さんが登場し、僕と目が合いました。
「お久しぶりです」
僕の言葉に反応し真っ赤に変わる顔色とわなわな震える体。
「よ、ようこそ……」
最低限の挨拶をして早足で去って行く夜剣さん。
以前戦った時のイメージでは剣豪といった感じでしたが、逃げ去った夜剣さんは新妻感が溢れ出ていたのですが……
もしかしたら姉妹の姉か妹かもしれませんね。
「足にロープ掛けろ!」
「どこから落ちてきたんだ!?」
「生きてるか! 大丈夫か!」
桜姉さんの救助も開始されたようで旅館からわらわら出てきた人たちが、足にロープを投げ縄の要領で引っかけ引っ張ります。
ズザザーと屋根に溜まった雪ごと庭に落ちてきた桜姉さんは雪まみれです。
「ぷはぁ~死んじゃうかと思いました」
その割には笑顔で雪から救出された桜姉さん。
協力して頂いた板前さんやら仲居さんやらに感謝です。
女将さんに案内され旅館の中へ。
老舗旅館の内装はとても落ち着いた雰囲気で、案内された部屋も広くゆったりとしながらも心休まる日本の田舎といった感じです。
障子を開ければ寒いですが、雪が降り積もった日本庭園と桜姉さんが原因で除雪された屋根の一部が見え、申し訳なくなります。
「こんな山の中では温泉ぐらいしか楽しみがないのに、本日はようこそいらっしゃいませ。千華から話は伺っておりますので、道場の方はいつでも使用可能です。怪我なく精進して下さい」
僕を見て道場使用の話をされていますが、僕は関係ないですよ。
「それと温泉は二十四時間入れますし、ネットの方も問題なく使用できますのでご活用下さい。夕食は五時ごろを予定しておりますが多少なら前後しても問題が御座いませんので、そちらの電話で御用命ください。それでは失礼いたします」
丁寧に頭を下げ退出して行く女将さんに会釈し足を崩します。
「落ち着いたいい旅館ね。桜ちゃんはお風呂が先かしら」
母さんの言葉に雪で濡れた桜姉さんはヘックチとくしゃみで肯定しました。
僕も真冬にロープで吊るされという極寒体験をして体が冷えきったので温泉に入りましょう。
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