第41話 元メイド長
シリアスです
side 元メイド長
私の名前は・・・呼ばれない名前など紹介しても意味はありませんね。
私は兎月家に最初に仕えさせてもらった家政婦です。
牡丹様の妊娠に伴い私を雇ってもらいました。その頃の私の心は少し壊れていましたが旦那様の優也様に優しく迎えていただきました。
半年後待望の赤ちゃんが産まれ、名を優也様の一文字を貰い優と名付けられました。青い目をした優様はとても神々しくまるで天使のようだった。
この人に仕えたい。ずっとこの笑顔を見ていたい。そう思えました。
日々成長する優様。そして私も。初めての子育てをさせていただき感無量です。牡丹様は体力が回復するとすぐに仕事へ復帰されました。本当に仕事人間のようです。
そして転機が訪れたのは優様が二歳になられた時でした。
窓際で洗濯物をたたんでいた私はいつの間にか寝てしまい、気が付くと肩に毛布を掛けられていました。不思議に思いあたりを見渡すとテーブルにはおにぎりとメモが。
しっかりした文字で「つかれていたら、むりしないように」と、平仮名だけで書かれた字を見ると優様かと思いましたがとても達筆。牡丹様からのイタズラなのかと疑いました。
そこから優様は変わった。箸の持ち方も洗練されたものに変わり、言葉遣いも大人顔負けに。別人に変わったのでは?とさえ思えた。が、私に向ける優しさは変わらなかった。いやより一層感謝された。
そして言ってくださったのだ「お母さん」と。
はじめは恥ずかしそうに頬を染めて・・・この時流した涙。私も母になれた。幸せになれる。
そこからの人生は輝きに満ちたものだった。
小学校の授業で書かれた母の似顔絵。そこには二人の姿が描かれていた。一人は金髪がまぶしい牡丹様。もう一人は黒髪に泣き黒子のある私の顔だ。直ぐにプリンターでコピーしました。
運動会では駆けっこの途中で転ぶもすぐ起き上がり泣くこともなくゴールなされました。強く成長してくれている事を実感させられました。
借り物競争ではお母さんと書かれた紙を見せ、私を引っ張る優様。走りながら涙してしまいました。
そんな幸せの中亡くなった優也様。
その葬儀の最中でも優様は涙を見せず拳を固めていたのが印象的でした。後で話しを聞きましたが「僕が泣いたら母さん心配するでしょ? それに僕は父さんの言いつけを守れる男になりたい。助けることができる人が泣いてちゃダメじゃない?」との事だった。
優様は小学二年生なのにとても強い意志をお持ちのようです。こっちが見習わなくてはと思わされました。
初めて誘拐された時の事は今でも心臓が痛くなります。優様の居場所がわかってからは覚えていません。気が付くとプラカードを持つ二人の引きつった笑顔の前にいました。
泣きながら説教した事が懐かしいです。
モデルとしても成功なされUSA様の名は世界へ羽ばたいているようです。
駆け足のように成長する優様の隣にいれる私は本当に幸せでした。
優様に会うまでの私は一度結婚をしていましたが、子供が産めない体と分かるとすぐに捨てられました。
もう幸せなんかない。孤独な生涯。生きる意味なんてない。そんな事しか考えられませんでした。この頃の私は本当にどん底の生活をしていたと思います。
もし兎月家に拾ってもらわなかったら・・・
そして今の私ですが、ベッドの上に多くのチューブに繋がれて何とか生きています。本当はもう死んだって良いのですが・・・逢いに来て下さる優様を思うと一日でも長く生きたいとも思ってしまいます。
これは予感なのですが、わかる事があります。
私はたぶん今日死ぬのだと・・・自分の事ですからね。視界もぼんやりしてきた。ナースコールを押すための指すら動かない。
思い残す事があるとしたら・・・優様はちゃんと食事をされているでしょうか? 睡眠時間はとれていますか? 牡丹様とは仲良くされていますか? またテストの点で遊んではいませんか? 友達はできましたか?
数えるときりがないですね。
薄れゆく意識の中で温かい感覚が手を包み込んだ。聞こえないけどわかる。
優様だ。優様の手だ。最後に来て下さったのだ。
やはり私の人生は幸せだ。あの時から変わったのだ。
子供が産めなくても子供ができた。
最後の時まで一緒にいてくれる息子が・・・
ありがとう・・
優様・
side 優
元メイド長が亡くなってからしばらく経った。
亡くなる直前に間に合ったのが救いだが、メイド長の遺骨は僕が無理を言ってうちの墓に入れてもらった。だって育ての母だもの。夫婦ではないけれど天国で父さんと仲良くしてね。
「優様そろそろ」
「秘書ちゃん先に行ってて。最後のお別れ言ったら行くから」
遠くなる足音を聞きながら僕は墓の前にしゃがみ込み最後の線香をあげた。
手を合わせ、
「母さん、転生したらまた会いましょうね」
その言葉を届け最後に一礼。
濡れたハンカチを握りしめ車へと足を向けた。
そんな6月の暑い日であった。
自分の作った話に泣いてしまいました・・・僕チョロイ




