第402話 プレゼントを考えよう
十一月に入り風が冷たい日も増え始めた今日この頃、僕にはある悩みが浮上しています。
もう数日と迫ったメイドちゃんへの誕生日プレゼントが思い付きません。
去年は桜色の車を贈り喜ばれましたが、今年は何を送ったら喜ぶのでしょうか?
祖父からはヘリコプターを贈られ、何かと重宝した一年でしたが本人の為になったかは疑問です。
空の移動はヘリコプターがあり、陸の移動は車があり、やはり海の移動でしょうか?
しかし悲しいかな、僕の住んでいる所は海なし県です。それなのにクルーザーを贈ったとして喜ぶ人がどれだけいるのでしょうか。
近くの池にクルーザーを浮かべ観光する意味があるとは思えませんし、釣りが趣味という訳でもない人が船を貰っても喜ばないでしょう。
そうなると乗り物を贈っても喜ばないかもしれません。
メイドちゃんが喜びそうな物を贈りたいですし、メイドちゃんの趣味を考えてみましょう!
一番に思い出すのは筋肉です。
無難にプロテインを贈るべきなのでしょうか?
いっそジムを贈りそこで筋トレをしてもらうとか……いや、ジムなら僕らが住むこのビルの地下に立派なものが完備されています。
筋肉を美しく輝かせるオイルを贈るのはありかもしれませんが、二次被害で家の中がテカテカしツルツル滑るのは困りものです。
この前も三角ビキニを着たメイドちゃんがオイル塗れで部屋から出られないという二次被害もあったばかりです。
原因としては脂で滑りドアノブに付いた鍵を摘みひねる事ができないという阿呆な事でしたが、部屋から泣き喚く声を聞き付けたクリスさんが救助に向かい二人して油まみれになるという事故が起きたのです。
廊下の掃除も大変でしたしオイルは無しの方向で考えましょう。
他にメイドちゃんの趣味と言えば……食べる事でしょうか?
一年前までのメイドちゃんなら、お肉が好きでご飯が好きでお刺身が好きで、甘いものも大好きでした。
最近も大好きなのですが、それらのカロリーを帳消しにするだけの運動や鍛練をしているらしく太る傾向が全く見られません。
これは食べ物を贈るべきなのでしょうか?
手作りのケーキでお祝いするのも良いかもしれませんね。
しかし問題があります。
メイドちゃんの誕生日には最高の腕を持つシェフやパティシエを呼び、母さん主催でのパーティーが開かれるのです。
その場に素人ケーキを出したとして喜ばれるでしょうか?
何だか喜ぶ未来も見えますが、それはそれでケーキを用意してくれるパティシエさんに悪い気がします。
となると後は……
やはり思いつきません。
解らない時は本人に聞くのが一番ですね!
夕食も終わりダイニングでスクワットの姿勢で静止しているメイドちゃんに声を掛けます。
「メイドちゃんは誕生日に何か欲しいものがある?」
頭の後ろに組んでいた手を胸の前に組み直すメイドちゃん。
「う~ん、欲しい物ですか? う~ん」
何やら悩んでしまいました。
「ミカンが欲しいデース!」
「ほどよく溶けたチョコミントですね」
「僕は愛が欲しいかな」
外野の話は置いといて、メイドちゃんも欲しいものがない様です。
これは困りました。
今年で二十一才になるメイドちゃんへのプレゼントはどうしたら……
いっその事重量のあるドレスでも贈り筋トレしながらパーティーに参加できる様にするとか、重量を付加できるような補正下着を開発し贈りましょうか……
「そうだ!」
何やらメイドちゃんが思い付いた様ですが、スクワットは続けていたのですね。あまりにもゆっくりと動いていたので気が付きませんでしたが、五、六分かけて下がり今度は立ち上がってきます。
「家族旅行をしてみたいです! 観光名所を巡ったりしながら屋台に寄って歩きながらおまんじゅう食べたり、美味しいお料理を食べ温泉に入ってゆっくりしながら星を眺めて、お風呂上がりにはみんなで卓球したりとかです! 家族の触れ合いを大切にするべきだと思います!」
確かに家族旅行はあまりした事がありませんね……
つい先日、温泉旅館に一泊しましたがあれは家族旅行というよりは拉致られて強制参加でしたし、国王やSPが動き回るのは家族旅行ではないと思います。
しかし、そうなると僕とメイドちゃんと母さんだけの旅行になるのかな?
三人だけの旅行とかした事がないのでちょっと不安です。
もっと不安なのが、こちらをウルウルと見つめる炬燵に足を入れる三人で……
僕の足を登りやってきたミーアちゃんを抱っこしながら「ペットは家族だよねぇ」と思わず口から漏らしてしまいました。
しまったと思い三人へと視線を移すと、無言で炬燵を出る三人の後ろ姿が目に入りました。
僕の家に居候する人たちには悪い事を言ってしまった様です。
「私は姉弟水入らずでもいいですよ~」
今度は素早いスクワットに切り替えたメイドちゃん。気のせいかもしれませんが、あまりに早い動きでダブって見えています。胸とか大変な事になっていますが痛くないのでしょうか?
「僕は今日からペットとしてこの家に居候するよ!」
出て行ったのに、すぐ戻ってきたレオーラさんは頭にウサ耳を付けています。
「私も今日から猫兼秘書として優さまを支えますね」
メガネをクイクイしながら黒の猫耳を付け現れた秘書ちゃんです。もうすぐ三十路です。
「私もこの家のペットとして侍魂を見せるのデース!」
赤い甲冑姿に抜き身の日本刀を構えるクリスさん。侍をペットと言い張る発想には驚きを禁じ得ません。
スクワットをピタリと止めたメイドちゃんは、冷たい笑みを浮かべ僕の言葉を待っている様です。
「宿題が残っていたんだった」
回れ右して素早く部屋へと向かいます。
メイドちゃんのプレゼントを考えるのは、期限付きの宿題にしたいと思います。
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異世界転移系日常ファンタジーです。
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