第321話 カレンダー撮影 その1
真っ白な毛皮の帽子に毛皮のコートを羽織り、レンズに笑顔を向けています。
部屋の温度は二十五度ほどだろうか。
体感気温は四十度近いかもしれません。
薄ら汗が滲んでいますが素早くシャッターが押され、二月分のカレンダー撮影です。
手を後ろに回しプレゼントであるチョコを隠して持ちながら、笑顔で振り返りシャッターの嵐。
コンセプトは渡すタイミングが掴めないバレンタインデーです。
真夏に撮影する物じゃないと思います。
三月は卒業シーズンという事もあり、セーラー服を着て右手に機関銃と左手に花束です。
意味が解りませんが、コンセプトは最近流行りのゾンビ物に乗っかっただけで意味はないと思います。
花束を上に投げ機関銃を構えます。
周りからキャーキャー聞こえますが、ダダダダダダダッです。
四月に入り、入学シーズン到来です。
「とっても可愛いわね! 優也さんと一緒にお祝した時を思い出すわ~」
「本当に可愛いわ~黄色い帽子も似合っているし、うふふ、写真でしか見たことがなかったけど、本物はもっと可愛いわね~」
母さんと祖母の受けは良いようですが、僕としては恥を晒している気分です。
「この頃のUSAと許嫁になりたかった! なりたかったよ! レオネーネもそう思うだろ!!!」
「えっと、メイド服の格好なのでお兄さまと呼びづらいのですが、何と申しましょうか……可愛いのは理解できます。いえ、もの凄く可愛いです!」
「手を繋いで一緒にピクニックにでも連れて行ってあげたいわね。お買い物に行ったら、何でも買ってしまいそう」
レオラさんにレオネーネさんにレーネさんの王女姉妹からも、絶賛されている様ですが勘弁して下さい……
「ほぉ、これが幼稚園児というものなかのぅ。黄色い帽子に黄色い肩掛けバックが可愛らしさを増幅しておるのかのぅ」
「グレーの園服といった服も可愛いですわね。娘たちは城で育てましたが、こういった制服を着せるのも良いかもしれませんね」
国王さまと王妃さまも優しい笑顔を向けてくれます。
いっそ罵って貰った方が、心が楽になると思えるのは僕だけでしょうか?
黄色の帽子に黄色の肩掛けカバンを装備して服は幼稚園児です。
胸にはチューリップのネームプレートがありUSAと記入されています。
十七才にして園児です。
どうせならペルちゃんとアシュレちゃんにワンコの三人に着て欲しかったです。
向日葵ちゃんは現役なのでたまに見かけますが、完璧な天使でした。
コンセプトは入園式終わりにお母さんへ駆け寄るUSAですが、ダメだろこれ……
続いて五月です。
五月と言って思い浮かべるのはGWでしょうか?
それとも田植えなど緑あふれる風景でしょうか?
僕は今、青と白のゴスロリ服でミニチュアの町並みに立ち、巨大怪獣の様な存在です。
コンセプトは可愛い破壊だそうですが、完全に理解できずついて行くことが出来ない現状です。
「それでは東京にあるタワーで新しく作られた電波塔を殴って下さい! パンチラとかは気にせずダイナミックな演技を期待しています! よーい、アクション!」
意味が解りません……
指示通りに動き、大きく振り被り電波塔へ叩きつけますが、これって危険思想とか思われませんか?
幼稚園児だった四月と巨大怪獣の五月では、落差が酷すぎます。
「素晴らしい一枚が出来ました! OKで~す!」
OKなので次へ行きましょう。
六月と言えばお約束のウェディングドレスです。
純白のドレスにブルーのヒラヒラが舞い、胸には青いバラ。
青いバラの花言葉は『不可能』や『存在しないも』や『奇跡』といった物でしたが、バイオテクノロジーの進化に伴い生み出す事に成功した青いバラの花言葉は『夢かなう』です。
花嫁姿の僕の前にはツンツン頭の親戚がガチガチに緊張しています。
「うぅぅ、USAさん、お久しぶりですが、あの、そこにいる偉そうな人は偉そうではなく偉い人ですよね? 今朝方、生放送されて訪日された人ですよね? 現役の国王さまですよね!? 違うと言って下さい! 違いますよね? お願いします!!!」
白のタキシード姿の青葉一華さんは狼狽しながら僕に縋りつきます。
「一華ちゃん、気持ちは解るけど現実を見よう。今はモデルのお仕事中だしポーズを取って、ちゃっちゃと終わらせちゃおう」
「ですが、国王さまに王妃さまですよ! あそこには王女様に……王女様がメイド服? それにレオラさんもメイド服……あれ? あの人は王子様で……おおっ! わかった! ふふふっわかりました! わかりましたよ~~~~! これは夢です! なぁ~んだ。夢か! それなら色々納得です! さぁ~て、モデルのアルバイト頑張るぞ~」
自分に言い聞かせる形での現実逃避で意識を保つ一華ちゃんは、ある意味大物なのかもしれません。
二人でケーキ入刀をするシーンを撮影します。
「次は僕もこのシーンに参加できないかな?」
「お兄さまでは何故かリアリティーが出そうで少し嫌です」
「私とUSAさまがウェディングドレスでケーキをカットすれば良いのですわ!」
メイド三姉妹の声が耳に入りますが、それよりも一華ちゃんが心配です。
震える手でケーキへ入刀しているのでギザギザな断面になるのを、一生懸命僕の力で押さえ付けているのです。
「一華ちゃんリラックス~、一華ちゃんリラックス~、は~い力を抜いて~、怖くないよ~、みんな優しいよ~、多分だけど優しいよ~」
小声で一華ちゃんを慰めつつ、六月までの半年間の撮影を終えました。
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