第32話 離婚と借り
そして約束の日がきた。
おじさん数人を引き連れ吉田君の家に向う。
チャイムが鳴り吉田君が出てくるのと入れ替わるように、ヘルメットをかぶったおじさんは吉田君の家へ入って行った。
「兎月くんこれは・・・」
驚く吉田君に事を説明。
「建築家の人連れてきただけ、あとはほら契約の事とかさそれ関係のおじさん達。お父さんはいる?」
「今工場の方だと思うけど」
「じゃあすぐ行こう」
「それよりも今入った人は?」
「あの人は耐震のスペシャリスト。この家の事が心配でさ、あんまり気にしないで。そう言えば吉田君のお母さんは?」
「母はバイト。駅前のファミレスあるだろ、そこでバイトしてる」
秘書ちゃんからの話を思い出しながら「出来たら一緒に話しを聞いてほしかったんだが・・・」
「話し?」
「ううん、いいや。お父さんの所案内してよ」
「親父~前話した兎月くんがきたよ~」
工場のドアを開け大きな声で父を呼ぶ吉田君。現れたのは作業着姿で白髪混じりの男。無精ひげが印象的でひどいクマが目の下を覆っていた。
「初めまして兎月優です。少しお節介かもしれませんが話を聞いてもらえませんか?」
頭を下げ挨拶と名刺を渡す。名刺をもらった吉田父は慌てながら名刺を差し出してきた。
「吉田拓馬です。金属加工を主にして・・・会長?!」
渡した名刺の役職が目に入ったようである。
「えぇ~といいですか? 今日連れてきた後ろの二人なのですが腕時計の会社と旅行鞄のメーカーの人です。詳しい話は後にするとして、今契約している会社はいくつありますか?」
「先月からゼロになりました・・・」うつむきながら答えてくれた。そりゃ悔しいものね。分かるよその気持ち。
「吉田君、ここからは大人の話し合いになるから家に戻ってもらってもいいかな?」
「兎月くんよろしくね」頭を大きく下げ家の方へ歩いて行った。
それから僕達は家の中に案内され31話冒頭になるわけだが。
「はっきり言って建て直したほうがいいです。基礎のヒビも多いし家も傾いています。こちらの工場もそうですが白アリにかなりやられています。震度5でも来たら倒壊の恐れもある。」と耐震のスペシャリストこと渡辺さん。
「今うちにそんな費用有りませんよ」
「そうですね。一度ここを更地にして工場を建て直しましょう。その費用は出資します。借りに住む所はうちのマンション使ってください」
「いえ、返せないですよ! 仕事がない! 貯金もない! あるのは借金だけです!」少し怒りが混じる声。
「無利子でいいですよ。マンションも僕が所有するものだし無料で。おそらくですが相当腕が立つとお見受けしますがどうですか? 壁に飾られる賞状や機械の手入れなど見て判断しましたが・・・」
少し落ち着いたかな?
「そのできたら出資させて下さい。見積もりから建設までこちらで引き受けますので、秘書ちゃんあとよろしくね」
あっけに取られ何も発しないまま固まる吉田父。僕に変わり話を進める秘書ちゃん。後は任せて大丈夫だろう。
さぁ次だ!
吉田君の家に行き時刻も10時半。昼食には少し早いけど吉田君を誘ってタクシーでファミレスへ。
「なぁ本当に行くのか?」拒否気味の吉田君。そりゃ親のバイト先とかあまり顔出したくないよね。
「解決したいんだろ?」
「そうだけど・・・」
「ほら行くぞ!」吉田君の背中を押しながらファミレスに入る。
「いらっしゃ・・・どうしたの和也」吉田君の名前は和也と言うのか。自己紹介の時の印象なくて忘れてた。
「すいません僕が無理言って連れてきました。少しお話いいですか?」
店長に頼み10分だけ時間が取れるとの事。3人で禁煙席に座った。
「まず僕の事ですが兎月優といいます。そこそこ大きなグループ会社を経営していて吉田君のクラスメイトです。そしてここに来た理由は吉田君のお母さんが離婚したいのかどうか聞くためです」
ストレートに聞かれ目を見開き沈黙が禁煙席を支配した。その横で吉田君は青い顔。ここまでストレートに言い出すと思わなかったのだろう。
「兎月くんと言ったかしら、なぜ他人のアナタが家の問題に係るのかしら?」
あきらかに怒っちゃったな。そりゃつつかれたくない問題だものね。
「僕は吉田君に借りがあります。本人は気にして無いようですが、僕が気になるので関わらせてもらいます。お聞かせいただけませんか?」
「するわ」
小さくつぶやいた声にビックと反応吉田君。
「理由を聞いても?」
「他に男ができたからよ! これでいいかしら?」
なんで嘘をつく人はこんなに悲しい目をするのだろうか・・・吉田君は嘘に気が付いて無いようで拳を握っている。
「ダウト!」
僕の言葉に二人が反応する。
「あなたは二人の負担になりたくないだけじゃないですか?
勝手に調べさせてもらいましたが、あなた連帯保証人になって二千万の借金を請け負いましたね。
逃げた人は今探していますが見つからないでしょう。
そこで相談なのですが近くに孤児院があります。ただ職員が少なく猫の手も借りたい。そこに就職していただけませんか?
給料もかなりいいし孤児院の敷地の中に職員用の家もあります。間取りはいくつだったかな? 家族3人で暮らすには十分な大きさですよ。
あと借金の事ですがこれが契約書で間違いないですね?」
胸ポケットから一枚の書類を出しそれを渡す。
「えぇ間違いな・・・なんで完済済み!?」
「このお金貸した事務所とはちょっと知り合いで、話しをしたら「優ちゃんの友達からお金なんて取らないわ!」だそうで、目の前で完済処理してくれました」
椿さんの事である。
「と、言うわけなんですがどうします? もちろん急いでとは言いません。急に仕事辞めたら迷惑になるだろうし」
あら泣き出しちゃった。
「あのあの、本当に、これ」
「本当ですよ。これで離婚の原因が無くなったんじゃないですか? あと吉田君のお父さんの方にも出資しています。話だと今ある工場を一度潰して新しい工場を建て直すそうで、それにも関わらせてくださいね」
「兎月くんなんでそこまで・・・」吉田君も泣いちゃった。
「吉田君には借りがあるって言ったでしょ! それに人助けは趣味ですから」
泣いている二人から着信のあるスマホへ視線を変えると、秘書ちゃんから話がまとまったとメールが来ていた。
後日談
GW明けに吉田君から礼を言われた。
まず吉田父は来年春に完成する工場ができるまでは暇なので、うちのグループ会社から誰か一年契約で雇ってとお願いした所クラシック時計の会社へ。おそらくここがお得意様になるだろう。
吉田母はGW明けからうちの孤児院に就職する。孤児院内の職員用の家へ引っ越しもすみ、吉田君は今では良いお兄ちゃんをしている。もちろんその分はバイトとして処理をするつもりである。
本日19時にもう一本!




