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第3話 入学式

 

 目の前に広がる生徒達。その後ろには保護者(軽く手を振りながら、ビデオ撮影をする秘書ちゃん)。左を見れば先生方。そして今僕がいる場所は体育館のステージの上なわけで……ピンチです。


 「満開の桜の中僕達は新入生として入学し……

そんな言葉から始めた新入生代表挨拶を即興で考えながらスピーチしていく。どうしてこうなった!



 今から一時間前、僕は教室へたどり着いた。ここへ来るまで黄色い声援が無かったのは伊達眼鏡+俯き競歩。目立たなかったことに成功したからだろう。ちなみに髪型はポニーではなく、ただ後ろでまとめただけにしている。


 自分の席は前から二番目で通路寄り。うん残念席だ。そこへ座り他の生徒がガヤガヤと騒いだ声をBGMにして経済情報誌を読む。完全に空気となるのだ! 本を読む人に話しかけてくるマナー違反がいませんように。

 「あの~今いいですか?」


 すぐに発見マナー違反。

 声がした左を向くと小学生のように小柄な女の子がいた。サイドポニーがひょこひょこ揺れて子犬の尻尾みたい。一重でパッチリ大きな目が印象的だった。


 「はい、何ですか?」


 出来るだけ優しい印象になるように声を出した。


 「私は河本こうもと 千和ちわです。一年間よろしくお願いします」


 ペコッと下げるしぐさがとても可愛い。本当に子犬みたいな可愛さだな。


 「兎月うづき ゆうです。よろしくお願いします」


 僕も頭を下げた。


 「あのひとつ聞いてもいいですか?」


 「どうぞ」


 「何で制服が男性の……もしもその、何か事情があるなら……」


 あっ、この子いい子だ。性同一性障害じゃないかとか気にしてくれている。


 「大丈夫です。僕は男ですから。この髪の毛はちょっと理由があって、その気にしないでください」


 「髪だけじゃなくて顔も女の子みたい……整った顔でキレイ……」


 目が合った。遅かった。河本さんの顔が真っ赤に、耳まで真っ赤に……


 視線を外すと山があった。正確には背中だが。でかい奴が前の席に。


 「でかいな」気が付いたら口に出ていた。


 ヌッと振り返るでかい山。


「おう嬢ちゃん可愛いな。俺、相坂あいさか 坂道さかみち変わった名前だろ? よろしくな」


 山の挨拶にうなずく。

 制服の上からでも筋肉質なのがわかる。何食えばこんだけ育つのか聞きたくなったがそれはまた今度にして。


 「兎月 優です。あの僕は男ですから」


 「そうかわかった。男の娘ってやつか」


 ため息しか出ないな。


 「とりあえずよろしく」


 隣の河本さんを見ると赤くなったのは収まったようでホッとした。


 「みなさん席についてくださーい!」


 担任の女性だろうか。地味目なスカートスーツが似合う女性が入って来て簡単な自己紹介をはじめた。


 「あなた達の担任教師になった臼井うすい 幸恵さちえと言います。これから皆さん入学始業式に出ていただきます。では廊下に並んでください」



 ざわざわしながら廊下へ並びゆっくりと行進が始まった。

 体育館に並ぶパイプ椅子。そこへ並んで座っていく。


 「これより入学始業式を始めます」


 アナウンスがはじまり式はどんどん進んでいった。校長の話が意外と短くて少し驚いた。


 「新入生代表兎月優。前に出てください」


 「へっ?」間の抜けた声が出てしまった。


 何これ聞いてないよ? 新入生代表? それって入学テストで一番になった人なはず。僕は自己採点でも80点にしたよ? あれ? みんな80点以下?


 「ハイ」と返事をして立ち上がると一斉に視線を感じた。


 「何あの子? 男子? 女子?」

 「何で女が男子の制服?」

 「リアル男の娘! リアル男の娘!」


 ざわつく体育館。


 ゆっくりと壇上へ着いて冒頭に戻るわけだが……


 「長い挨拶は嫌われるので、これだけ言って終わりたいと思います。楽しい学園生活を皆で送りましょう。新入生代表 兎月優」


 拍手が起こり壇上を去る。このドッキリは先生に文句を言ってもいいよね?

 パイプ椅子に座り早く式が終わるのをひたすら願った。



 式も終わり教室へ、HRがはじまるまで経済情報誌を広げ空気に……


「主席さんこれからよろしく! 俺、木村太郎」


 左斜め前の席の奴から話しかけられた。このクラスはマナー違反ばっかりか! それにしても無難な名前だな。あだ名つけるとしたら普通だな。


 「よろしく」と一言返した。これからHRでみんな自己紹介するんだ。省いたっていいだろう。


 「ハイハイ皆さん席ついて! これから自己紹介してもらいます。ハイそこの大きい子から!」


 ビシッと指さす担任さん。人を指さすのはあまりよろしくないですよ。


「相坂坂道です。中学の時はゲレンデって呼ばれてました。気に入ってるのでゲレンデって呼んでください」


 やや受けの笑が起こる。

 

 確かに山にピッタリのあだ名。俺も無難に自己紹介を終えようか。


 立ち上がり「兎月 優です。こんな髪の毛ですが男です。放課後と休日は仕事があり、あまり遊んだり出来ませんが、それでもよかったら友達になって下さい。」


「やっぱりかわいい」

「彼氏いるのかな?」

「えっ彼女いるのかな?じゃない?」

「眼鏡のセンスが悪いけど」


 好きかって言ってくれるな、こいつら……


「ハイハイみんな~兎月くんは高校生で会社を経営しているすごい人なの。だから強引に遊びに連れてったりしないでね」


 担任よ、微妙なフォローありがとうございます。何でしたり顔なのか……


 そんな感じで自己紹介は続いた。


 「兎月さん会社ってどんな会社を経営してるの?」


 隣の席の河本さんから話しかけられた。うんロリ可愛い。


 「グループ会社って言えばいいのかな? その会長。あとは孤児院へ行ったり、モデルの仕事したりかな」


 「モデル!?」


 声がでかいよロリ。一斉にこっち向いてるじゃねーか!


 「なになにモデルって?」

 「読モ?」

 「雑誌のモデルとかか?」それを読モと言うんだゲレンデよ。

 「ごめん」と蚊の鳴くように謝るロリ可愛い人。


 吉田君の自己紹介が完全に潰されてしまった。恨まないでほしい。


 「ハイハイ吉田君の趣味は置いといて兎月くん! モデルの話聞かせて下さい」


 先生よ。静かに席につく吉田君がかわいそうですよ……


 仕方ないので立ち上がり「母が服のデザイナーやってて、それの試着みたいなものです」これだけ言って座ろうとしたら、

「ブランドもの?」

「やっぱり女装?」


 やっぱりってなんだよ!正解だよ!


 「ラビットテールです」


 その一言に女子達がより一層ざわついた。


 「えぇーあのラビット!」

 「羨ましい! ラビットテール着放題じゃん!」

 「最新作常に着れるなんて!」


 おいおい僕が常に女装している人みたいな風に聞こえるぞ! モデル以外で女装なんてするかよ!

 

 「これでいいですか?」


 かなり不機嫌な顔だろうか? 隣のロリ子が手を合わせて頭を下げていた。


 「いいでしょう。では吉田君の次の人自己紹介よろしく!」


 吉田君本当にごめん。趣味は今度個人的に聞きに行くね……


 自己紹介も終わり明日は役員決めと午後は部活紹介だとのこと。今日はこれでお開きらしい。


 「気を付けて帰ってね~」


 その声に動き出すクラスメイト。僕もゆっくりと先生の元へ。


 「先生少しいいですか?」


 「もうっ先生好きになちゃった? 困ったなぁ」


 張り倒したい!


 「いえ、新入生代表挨拶の事とでちょっと。あれは毎年やってるドッキリなんですか?何の告知もなしに挨拶しろだなんて」


 一瞬眉間にしわが寄った先生。


 「通達はしているはずですよ。現に私がその通知は出しましたし、郵便の手違いでもあったのでしょうか?」


 あら? 本当に知らなさそうだ。じゃあなんでその郵便が無い。もしかして……


 「でもすごいわね。即興であの挨拶したんでしょ! かなりの大物ね。伊達に会社経営なんてしてないってことね!」


 確かに自分でもすごいと思うけどさ。おそらく会長職やってて、大人数の前で挨拶になれているからだろう。


 「あの先生、頭撫でるのやめてくれません?」


 「何言ってるの! 褒めるのも先生の仕事よ!」


 「小学生じゃないですから、ほら変な噂とか怖いし」体をひねり後ろへ移動。先生の良い子良い子から抜け出した。


 「もう、素直な生徒にならないとダメよ!」


 「では失礼します」踵を返し逃げ出した。

 しまった、入学試験のことを聞き忘れた。明日でいいか。


 さてさて、郵便物を隠した張本人をどうやっていたぶろうかと考えながら、秘書ちゃんの車へ乗り込んだ。




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