第287話 たこ焼きの魔の手
校門エリアから校庭へと抜けるとすれ違う生徒の数も増えてきた。
すれ違う生徒はみな会釈し、僕も会釈を返します。
お祭りムードといえる屋台が多くある中を歩くのですが、すれ違う生徒の格好がドレスやタキシードだと違和感を覚えますね。
ダンス組と着替え組でローテーションを組んでいるのだろう。
「綿菓子でしゅ」
「綿菓子は甘くてふわふわで、すぐ無くなってベタベタになるので、見ているのが一番です」
ペルちゃんの純粋さに対して、アシュレちゃんのリアリスト感!
凄く共感できますが、まだまだ純粋さを残して成長してほしいです。
「これは我が国でも流行るのではないか?」
そんな声が耳に入りUターンをした所で、メイドズではないメイドさんが目の前に現れ深く一礼しています。
顔が上がると予想通りの第一王子お付きのシャルさんがにっこり顔です。
「シャル! 良くやりましたわ! ほら、レオラもタコヤキの歴史を知るよりも、大好きな優さまが逃げてしまうわ!」
レオラさんと一緒にタコ焼きを食べていた姉であるレーネさんがこちらに気が付き、弟の背中を押して向かって来るではありませんか。
思わずセットでいるはずのレオネーネさんを目視で探すと、イカゲソ焼きを口に含んだ瞬間と目が合いお互い会釈する。
一生懸命イカゲソ焼きを租借するが噛み切れず、口から触手を出しながらの挨拶になり顔が真っ赤です。
「やあ優! 会いたかったよ! 日本の露店は見たこともない食べ物が多くて楽しいね! ほら優にもタコヤキを分けてあげようじゃないかっ!」
頬を染め鼻息荒くペラペーラで話しかけるレオラさん。
常時イケメンスマイルを発揮しているのに、今は鼻息が荒く頬を染めて目が見開いている。
多少の身の危険を感じます。両手に捉まる幼女たちも僕の後ろへと自然に隠れるので、同じく身の危険を感じているのかもしれません。
それなのにメイドズが自然と道を開けるのは教育不足なのだろうと思います。
「美少女と美男子のあ~んが見られるかも!」
「悔しいが優さまとギリギリ吊り合うレベル」
「うふっ、ふふふふふ、ぐひぃ、ぐひひひひ」
「優さまの唇をタコ焼きが無理やりに奪う展開に……」
妄想がダダ漏れているメイドズの教育不足を嘆くよりも、煩悩を減らす努力をさせるべきなのかもしれません。
メイドズが道を開けて事もあり歩いて目の前へ現れたレオラさんは、タコヤキ片手に「あ~ん」と声を掛けて来る。
「今よレオラ! 優しくふぅふぅしないと上の鰹節と青のりが飛んで行ってしまうわ!」
熱さ対策をフォローするレーネさん、今はそのアドバイスではなく止める場面だと思います。
「おいっあれ!」
「イケメン王子と我らの女神がっ!」
「悔しいが吊り合っている」
「顔かっ! 顔なのかっ!」
「たこ焼きの魔の手が!!!」
ドレスとタキシードの外野も集まってきたようで、中々カオスな状況です。
お祭りムードの校庭でイケメン王子(男装タキシード姿)が僕(女装サマードレス姿)にたこ焼きをあ~んさせようとしています。僕の後ろには天使が二人おり、その周りをメイドズが囲み、屋台から顔を出す生徒たちもドレス姿でタキシード姿です。
イカゲソと戦うイケメン女装王子の妹や、その姉はラムネの飲み方に苦戦するという状況です。
ラムネの正しい飲み方は凹みにビー玉が引っ掛かる様に瓶を傾けると、飲み口が塞がらずに上手に飲む事ができます。
現実逃避ぎみにラムネの飲み方を紹介しましたが、イケメン王子のあ~んは受けないとダメなのでしょうか?
相手の中身が女性だと理解していても見た目は限りなくイケメンです。
どうせならキリリ眉毛のレーネさんか、いつも苦労しているレオネーネさんからのあ~んの方が……
どちらにしても目を血走らせ頬を染め鼻息荒く……粗い鼻息で鰹節が揺れている事に気が付くと、食欲なんてもう皆無です……
「ごめんなさい」が喉から出る直前にチャイムが鳴りアナウンスが流れました。
「女神さま! 仕事をほっぽり出して何処へ消えたのですかっ!!! 本日の主役である女神さまが不在とかありえませんわっ! 幕が上がって誰もいないステージを見つめる三年生たちの気持ちも考えて下さいですわ! わ! わぁー!!!」
お嬢のキレた声が響き渡り王子もあ~んのタイミングではない事を察したようで、たこ焼きを自らのイケメンマウスへと収納しました。
肩を落とすイケメン王子を支えるレーネさんと専属メイドのシャルさん、フォローお願いします。
レオネーネさんは普段から固いものを食べて顎の力をつけて下さい。
まだ口から触手が出ていますから……
急いで戻ると鬼の形相で出迎えるお嬢と、ステージでマッチョポーズを繰り返すメイドちゃんの筋肉ショーが……
メイド服でポーズを決めるメイドちゃんに掛け声を掛ける生徒はさすがに居らず、唖然と見つめる生徒たち。
サイドチェストを優雅に決めるメイドちゃんへ「キレてるー!」と謝罪代わりに声を掛けると、満面の笑みを僕らのいるステージ袖へと向けてきます。
場繋ぎ、ありがとうございます。
お読み頂きありがとうございます。




