第22話 孤児院 その2
勉強会は大食堂で行われた。
ここ大食堂は100人規模で食事ができるテーブルと椅子が並ぶ。夕食はみんなで食べるのが基本なのでこのサイズにしたが大きすぎただろうか?
二人は小学生達の宿題を見てあげているようで笑顔でキャッキャしていた。
僕はそこを抜け出し院長の元へ。
「院長さんお久しぶりです。」
僕が初めて会った時よりも大分老けた院長さん名前は河原木育江。
初めて会ったのは確か小五。
こじんまりした孤児院を経営していた。見るからにボロイ佇まいに少し引いた記憶がある。地震が来たらすぐに倒壊しそうな家を見てすぐに立て直そうと決めた。
秘書を連れた小学生。見るからに怪しいよね。それが急に名刺を差し出し援助したいと申し出たのだから。
でもそこから話はとんとん拍子に進み、国からの援助だけじゃ厳しい経営。寄付をお願いしても集まらない現状。そりゃワケのわからない金持ちの子供の手も取るというものだ。
新しく立てた宮殿式孤児院(当時助けたデザイナーの卵と僕の悪ノリ)を見て完全に引かれたっけ。
これが若さゆえの過ちよ・・・
子供たちは喜んでたよ。「お城だ~」って。
「これはこれは会長様。いらしてくれたのですね」
ペコペコ頭を下げる院長さん。相変わらず腰の低い人である。
「何か困った事はないですか? 経営費は足りていますか? 職員の数は?」
「いえいえ、今でも十分まかなえてます。職員も子供達も毎日が夢のようだって言ってるんですよ。みんな心に傷を持つ子供達なのに笑顔が絶えません。これも会長様のおかげです」
「それはよかった。今日は僕の友達二人を連れてきました。お昼は僕も手伝うので一緒に食べていっていいですか?」
「まぁ、それはみんな喜びます。子供達はいつも「兄様はいつ来る?」と聞くのですから、できるだけいてあげてください」
「ありがとうございます。では僕は勉強会の方へ戻りますね」
「はい、私も事務仕事が終わり次第向かいますので、よろしくお願いします」
この人が院長でよかったと思う。本当に子供が好きで昼は院長、夜はアルバイトまでして孤児院の経営していたのだ。今は少しでも楽をしてここを経営してほしいものである。
「兎月くんどこ行ってたの?」
大食堂で二人はもみくちゃにされていた。
「あれ?勉強会は?」
「みんな兄様がいないって言い出して~そこから鬼ごっこ。疲れた~」
DJは文系だな。タフさが無い。まぁ僕も一時間この子達と遊んだらばてるけど。
「みんな元気だよね。それに喧嘩が一つもないの。そこがびっくりしちゃった」
わんこの話はもっともだ。小学生が集まればすぐにいざこざが起きる。ここの子供達だってそれは同じだった。だけど僕の意識改革? によってそれが無くなったのだ。
作戦名:喧嘩の数だけ慰問しないよ
これは兄様が好きすぎる子供達へ告げた言葉でもある。僕に来てほしい子供達へ告げた瞬間に譲り合いの精神が生まれた。おもちゃの取り合い? ないない。怖いぐらいの効き目に院長と僕は少し恐怖したぐらいだ。
「みんな家族だからね。仲がいいのは良い事だよ」
「兎月くんなんで遠い目で流れる雲見てるの?」
わんこ察して、流して。
「じゃあみんな勉強会再開するよ~」
わーわー走り回る子供が席へと付いた。もはや洗脳された集団なのではと勘違いするほどの統率されている行動。
「すごい・・・」
「兎月くんの一言で・・・」
確かにわーわー言ってた子供が声もなく、ただ黙って席に着くのだものね。引くよね。
「僕はみんなのお昼ごはん作るから、二人はお茶でも飲みながらまた勉強見てあげて」
「やったー手料理食べれる~」DJ
「なに作るの? 私も手伝うよ?」わんこ
「大丈夫、二人はみんなをお願い」
このやり取りの間も子供達は無言でカリカリカリカリと鉛筆の走る音だけが大食堂に小さく流れていた。
「今日はよろしくお願いします」
職員のおばちゃん達へ挨拶を済ませお昼の準備だ。
大量の玉ねぎを剥き炒める。横ではニンジンを剥くおばちゃん。その横ではジャガイモを剥くおばちゃん。奥には鶏肉を切るおばちゃん。
チキンカレーだよ~
玉ねぎ人参を炒め煮る。その横でニンニクと鶏肉を炒め大きな鍋に投入。玉ねぎがとろけてきたらジャガイモを入れ火を入れる。ジャガイモ煮えたらルー投入。ここで少量のインスタントコーヒーと牛乳を入れ弱火でグツグツ。最後にバターと生クリームを少量。
ハイ完成。多めに剥いたジャガイモはポテトサラダになりました。
カレーのにおいが漂っているのか、あちらこちらからお腹のなる音。
みんないっぱい食べてくれそうで嬉しくなってしまう。
そこで「「「ただいま~」」」の声。部活終わりの中学生や高校生が帰宅。
「あっ兄様来てる!」
「兄様だ~やった~」
「このにおい! 兄様のカレー!?」
「午後もいるのかな? 部活休めばよかった」
相変わらず兄様大好きだな・・・
「そろそろ勉強終わらせて昼食にするぞ~帰宅組はおかえり~手を洗ってきな~」
「「「「はーい」」」」
いい返事をもらってご機嫌だ。
さーて、みんなでいただきますだ!




