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第100話 新人メイドズ


Side 新人メイドズ



 今年大学を卒業した私は優様の推薦もありメイドズに入社した。正式にはラビットテールメイド部門になる。

 孤児院にいた私が初めて優様に会ったのは確か八年前。私が中学一年の時だ。優様はまだあどけなさが残る小学校四年生。もちろんみんなで美少女と勘違いした。


 それから兄様の勧めで孤児院一家全員揃って近くのホテルで暮らすこと一年。完成した新しい孤児院はまるでお城のようで……その日から私達の常識が変わった。


 完全オートロックの門から始まり、まるで物語に出てくる西洋のお城のような孤児院。部屋数も三桁を超えると言う。

 お風呂もすごかった。金ぴかライオンの口からお湯が出るのは序の口でサウナにジャグジー。天井のない屋上露天風呂と私の知る孤児院とは別世界だった。

 他にも図書館や映画館や大食堂……兄様が求めた孤児院は普通と違うと思います。



 そんな暮らしも大学卒業と共に終了し、今はラビットテールメイド部門。通称メイドズ。

 ここでは一切名前では呼ばれない。もし個人を呼ばれるとしたら序列で呼ばれる。ちなみに今年は入ったばかりの新人は五名。私の序列は七十五位。下から三番目だ。


 私達新人に与えられた仕事は主に掃除。ラビットテール最上階から下三階までが掃除担当。一日掃除機をかける事なんてざらにある。

 最悪なのが水回り担当。浴室だけで五つ。シャワールームだと二十を超える。手荒れ防止の保湿クリームは必需品だ。支給される保湿クリームもここラビットテールの子会社で作られた超一流品。こまめな手入れで手荒れが起きる事は防止できるらしい。




 掃除の担当でない日は新人教育プログラムが組まれる。

 メイドとしてのマナーや護身術に運転技能。もちろん外国語や危険物処理なども含まれるらしい。


 最近きついのが護身術の訓練だ。

 担当する序列十五位のメイドズ教官が言うには「自分を守るだけなら逃げればいい。だがお前はメイドだ! 主の盾になり、主の剣になるのがメイドだ!」だそうです。

 基礎トレーニングのマラソンから始まり、柔軟、筋トレ、実戦練習。実戦練習に至っては打撃、関節技、投げ技と生傷が絶えない。


 初日に序列十五位の教官から「全員で木刀を持って殺す気でかかってこい」と言われ腰が引ける私達五人を瞬時に組み伏せたのは今思い出すだけでも恐怖です。


 その序列十五位の教官がたまに話す武勇伝は眉唾物だが、教官の強さを体に覚えつつある私は信じる事が出来るようになってきた。


 シングルナンバーのメイドズならば五倍の自衛官を相手に戦い必ず勝利する。

 序列五位以上になると素手でコンクリートを割り、蹴りで鉄板に跡を付ける。

 序列四位のメイドズは傭兵上がりで、重火器無しでテロリストグループを鎮圧させた。

 序列三位のメイドズは向かって来る車を巴投げしたらしい。

 序列二位のメイドズはハサミを使うのを止め手刀で裁縫するらしい。

 序列一位のメイドズは絶対感覚なるものがあり、熱や音や空間が正確にわかりその場を支配するらしい。

 などなど、普通の一般人なら信じないものばかりだ。




 孤児院上がりの私が憧れだった兄様の役に立てる日は来るのだろうか? そう思いながら新人教育プログラムと掃除の日々。ついに優様のお役に立てる時が来たのだ。



 文化祭で行われる女神喫茶なるイベント。

 メイド長から直々に命を受け、女生徒達へメイクの指導補佐や雑用を任された。


 初めての表の仕事だ。新人五人共やる気に満ち満ちて……空回った。

 補佐をする手が震えファンデーションを落としたり、先輩の汗を拭くタオルと間違えテーブルクロスを差し出したリ、物販へ運ぶ荷物を女神喫茶に届けたりと……


 序列七位のメイドズ先輩からしっかりと拳骨を貰い正座で過ごす控室。

 兄様は苦笑いでその様子を見ていた。



 失望されただろうか……

 笑われただろうか……

 自分が情けない……



 二日目の女神喫茶午後の部が終わり、兄様がウェディングドレス姿で控室に現れると、私達の前に来て一緒に正座で座り始めた。

 驚いて。いや、兄様の美しさに見とれてしまった。私の横四人のメイドズも同じだろう。

 見惚れている間に兄様が慣れた手つきで紅茶を入れて下さいました。


 「今日は失敗しちゃったんだって? もう反省出来たよね。明日もあるから無理しないで、もっと肩の力を抜いてさ、がんばってみてよ。折角入れたからゆっくり飲んでね」


 やはり兄様はお優しいです。

 それに先ほど私達に喝を入れてくれた序列七位のメイドズ先輩が笑顔で私達を見つめている。

 あの目は知っている。孤児院で私達のお母さん。院長先生が私達を見る目と同じだ。あの痛い拳骨も教育であり愛なのだと気付かされた。


 自然と流れる涙と紅茶の香りを感じながら、私はメイドズに入った事を誇りに思う。


 メイドズ先輩の様に強く厳しく優しく兄様を守れるようになって見せる。




 次の日の早朝訓練で、私達新人メイドズ五人が初めて瓦を粉砕した。




 お読み頂きありがとうございます。


 目標としていた100話っす! 

ここまで長かった。何か特別な話にしたくて新人メイドズの話にしました。


 これまで感想や評価やブックマークありがとうございます。

 その励ましが本当に力になりました。


 あっ! まだ続きます。

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