シリーズ管理をしてくれと頼まれたのでしてみたがタイトルが浮かばない
あぁ、私は道化だったのね。
特に特徴の無い男爵家の令嬢として生まれ、そこそこ可愛がられつつのびのびと育っていた。
両親はマナーや勉強を頑張らなくても怒らなかったし、教師たちも怒ってなんかくれなかった。
だから好きな教科だけやって、嫌いな教科は後回しにしていたらいつのまにか学園に入学する歳になっていた。
学園では毎日勉強にマナーにとやることが一杯で1日の予定が分刻みで決められていることに目を疑った。
親友と呼べる仲になっていた同じ下級貴族の同級生にに少し愚痴をこぼすと、
「当たり前でしょう。私たちは四年で全てを学ばなければいけないのだから。
上級貴族の方々はもう少し時間に余裕があるそうだけど…」
と言われ、たしなめられる。
じゃあ私も上級貴族になればいい。そうすればこの息苦しい生活からも抜け出せるし両親だって喜んでくれると思い、良い考えよね!!と親友に話したら呆れた顔で「頑張って」と言われたので自分なりに頑張ることにした。
やり方が間違っていた、と、今なら分かるけど当時の私はそれが最良だと思っていたんだ。
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上級貴族に嫁入りすれば私も上級貴族!なんて浅はかな考えで容姿を磨くことに力をいれ、嫌いな教科は落第すれすれで…時には教師に泣きついて進級をし、四年生になった。
結局学生時代は時間に余裕なんてほとんど持てなさそうだけど、ここで止めたら頑張った意味もなくなってしまう。
私は三年間練りに練った計画の通りに殿下に接触し、興味を持ってもらうことに成功した。
殿下を選んだのは上級貴族の中で唯一【婚約者】が居なかったから。候補はいても決定ではなかったためだ。
取り巻きの執行部の人達までがオチたのにはびっくりしたけど、私は殿下一本ですよ。正式な婚約者がいるあなた方には用はない。愛想だけ欲しいなならいくらでもあげるけどね。
頑張って頑張って、殿下に気に入られるために嫌いな教科もちょっと勉強したら普通くらいまでにはなった。
相変わらずマナーの授業は絶望的だったけど、でも入学したときよりはマシになった…はず。挨拶は上手になりましたね。って褒められたもの!!
上級貴族になっても困らない程度のマナーは身に付いた…はず。
でも、最近周りがちょっとおかしい。
教室に入るとシーンとして挨拶しても返事はまばら。仲が良かった子達も何だかよそよそしい。
居心地が悪くて休み時間のたびに殿下達と過ごしていたけれど、ある日気分転換に裏庭で時間を潰していたら酷い噂を聞いた。
私が婚約者のある上級貴族に身体を使って取り入ってる。って。
彼らも未熟だから今は身体に溺れてるけど、いつか目を覚まして私は捨てられるんだって。
冗談じゃなかった。
確かに初めは自分のために近づいたけど、私は今は本当に殿下のことが好きだ。
執行部の人達がプレゼントをくれるけど、彼らには私が殿下を好きだ。ってことはちゃんと伝えてある。
彼らはその上で「殿下の妻になったときに困らないように」って宝石やドレスをくれるから貰えるものは遠慮なく貰っているだけだ。
それなのに、こんな酷い噂を流すなんて誰が…!!
そう思った時に浮かんだのが
“ルーシェ=マキノマオス”
殿下の婚約者候補で幼なじみ。
直接話したことはないけれど、公爵令嬢の彼女ならこんな噂を流すのは簡単だろう。
殿下も彼女に執務態度と私との交流を注意されたって言っていたし彼女で間違いないと思う。
『そっちがその気なら…』
私は、私の一方的な思い込みで彼女と戦うことを決めた。
まず始めたのは情報収集。私のウワサに限定して探ってみると出るわ出るわ…元親友にかなり粘って聞き出したことを後悔するくらいには心を削られた。
でも分かったことがある。
私は殿下達に捨てられたら即打ち首になってもおかしくないほど学園の生徒の心は殿下達から離れ、その原因となった私を恨んでいるそうだ。
……正直、原因と言われても良くわからない。
私は殿下に好かれるように行動しただけで、それ以外は特に何かした覚えはない。婚約者のいる人達には一線引いて対応していたのに見境なく媚びていることになっていた。
そのせいで婚約者の人達からの印象は最悪らしい。
どうしたらいいのか分からなかったので、殿下に相談したらそのままで良いよ。と言われてしまった。
それじゃあ困るんだけど…無言で微笑む殿下が少し怖くて、私はこのことについてはしばらく考えないことにした。
私が殿下に捨てられないようにすれば良いだけだしね!
次にしたのは“ルーシェ=マキノマオス”公爵令嬢の情報を集めることで、これはとても簡単だった。
だって教室で、廊下で、食堂で、どこに行っても彼女の噂は絶えることがない。
私が驚いたのは、殿下達が放り出した執行部の執務を彼女が一人でこなしているという噂だった。
これには衝撃を受けた。だって彼らは私の元に来たときには必ず
「今日の仕事は終わらしてある」
って言っていたから。
上級貴族の人達は私みたいな下級貴族と違って時間に余裕があると聞いていたので、その時にやっているのだと思い込んでいた。なのに、いくら優秀だとはいえ一人の人間に押し付けるなんて…
私の心に不信感が産まれた瞬間だった。
不信感を元に殿下達の行動を改めて観察してみると、この人達は何をしにここに来ているのだろう?と疑問に思うくらい何もしていなかった。
四年生になって社交界デビューについて勉強し始めたために最終学年だというのに忙しい私たち下級貴族と違って、幼い頃から社交界に関わることが多い上級貴族はこの授業を2度…早ければ一度で済ましてしまう。
もちろん殿下達は一度で終わっていて、その後の残りの時間は私と一緒に過ごすか、空き教室を勝手に占領して各々好き勝手なことをしており、学園執行部の部屋には寄り付きもしない。
彼らはそれを「私へ愛をいつでもささやくため」と広言しており、これでは他の生徒達に私が嫌われるのも仕方がないだろう。
ゾッとした。
何でこんなことに巻き込まれてるのかと混乱もした。
聡明で優秀だった殿下達が何でこんな状況になっても動きを見せないのか訝しく思った。
だから、いつもの通りに過ごしながら、少しずつ、少しずつ、気付かれないように殿下達の考えをお馬鹿なフリをして探っていった。
元々、空気の読めない能天気な男爵令嬢を装っていたので不思議がられることもなく、情報は着々と集まってくる。
卒業パーティーの2ヶ月前、今では私と殿下達以外は近づかないたまり場にしている教室に入ろうとして、私は決定的な言葉を聞いてしまった。
あり得ないほど馬鹿な内容。
その為に利用された馬鹿な私。
一緒にされてたまるものかと思った。
だからその場はいつも通りに過ごして、夜、学長先生の所へそっと相談に行き、学長先生から王へ連絡をしてもらうことにした。
学長先生には前から少し相談していたので「危ないことをするんじゃない」って怒られたけど、信じてもらえたから良かった。
その後のことは馬鹿馬鹿しくて詳しく書く気にはならないから簡単に書いておく。
王からの手紙を読むこともせず、卒業パーティーの準備がされていないことに気がついたがパーティーの1ヶ月前。
ルーシェ様がやってくれていたはずの準備は全て白紙に戻されており、慌てて準備を初めて何とか開催にはこぎつけていたけど、これならしない方が良かったんじゃないか。ってくらいみすぼらしいものだった。
そして会場を埋め尽くす灰色の衣装。
予想通りの景色の中で正装をしている殿下達とピンクのドレスを纏った私は異彩を放っていた。
周りに詰め寄ろうとする殿下達の手を取り楽しそうに踊ることでこちらに意識を向けさせる。
内心はどうであれ私のことを一番に考えている。というスタンスを崩さないためには私に構うしかない。
楽しそうに踊る私達の周りからどんどん人は減ってゆき、最後には私達だけが残った。
そして、ダンスが終わると始まったルーシェ様への断罪と言う名の茶番劇。
私の出番は一度きり。それもルーシェ様が無視してくれたから、後は流れに任せようと殿下の後ろで無視されて泣くフリをしながらじっと話を聞いていた。
反論も反撃も出来ずに終わった内容はそれでも殿下達に優しいもので、ルーシェ様の優しさに気付かないままいつの間にかやって来ていた騎士達に連行されて行く彼らを憐れに思った。
私?私ももちろん連行された。
内々に処理をしたかった王様のと王妃様のご命令に従って生涯を修道院で過ごすことに【建前上】はなっているが、実際は少し遠方の王家が出資している孤児院で職員として働くことが決まっていた。
今回のことは男爵令嬢に恋をした殿下やその側近達の暴走という形に収めるので原因となった私が男爵家を出ることで実家にお咎めはなし。
殿下達の処罰は知らない。
私はもう彼らのことなんて考えたくもなかったから聞かなかった。
孤児院では容姿ばかり磨いていた私が役立つことなどできなくて…何度も子供達に泣かされた。
でも、それでも、一個一個とやれることが増えてゆき、泣くことも少なくなってきた。
修道院経由で送られてくる両親からの手紙は私を心配してくれている内容ばかりで……読んだら泣いてしまうのであまり読むことはできないけれど、大切な宝物だ。
季節が巡り、手紙の返事を出すことが許されたら書き出しはきっとこうだ
大好きな父様と母様へ。
ユリアは元気に過ごしています…………
ヒロインちゃんについて筆の向くまま書いていたらこんな仕様になりました。