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珈琲と紅茶の日  作者: ちわみろく
4/8

暴走する日

スフレのケーキには、紅茶?珈琲?

どっちも?

美味しそうですね。

 両耳にジャラジャラと音がしそうなほどたくさんのピアスを重そうに付けている。黒髪を伸ばしているのは恐らくファッション的な理由だろうが、手入れが行き届いているようには見えないので見栄えがしない。黒い皮のジャンパーのしたには、やはり皮のパンツを穿いていて腰に重そうなアクセサリーをぶら下げていた。泥で汚れた革靴が可哀想な程だ。

『アーサー・ユーフューズ・ティル侯爵。爵位を得たのはまだ500年くらい前で歴史は浅いけど、クォント家の流れを汲む名家だよな。全部覚えるの苦労したぜ、俺、学校にもろくに通ってねぇから。』

 翻訳機からジェイクという青年の語る言葉が日本語になって流れてくるが、母国語となっても、由良にはちんぷんかんぷんだった。特に前半は何を言われているのかさっぱりわからない。

『広大な領地をお持ちで、銀行や複合企業をまとめている財閥・・・の、御曹司。そうだよね?』

「悪いんだけど、何を喋っているのかさっぱりわからないんだ。もう少しわかりやすく言ってくれないかな。」

 由良に理解出来たのは、ジェイクが余り学校に行かなかったという事とティルという聞き覚えのある固有名詞くらいだった。

『翻訳機があるのにわからないって、なんだよ、それ。とぼけてんのか。・・・そうか、あんた、外国人だから、わからないのか。』

 彼女が余りに怪訝そうな表情をするので、とぼけているのではないらしいと思えてくる。

 整えられた芝生の上に座ったジェイクは、由良が本当に理解できないのだという事が納得できたらしい。

 ジェイクという青年が言う貴族階級の話は、そういう概念のない由良にはさっぱりわからないのだ。よほど細かく説明されなければ無理だろう。

 青年にも、その程度のことはわかる。外国人であると言う事は、習慣や歴史、文化も、そして基礎知識も全く違うのだ。

「私も余り学校で勉強しなかったから。」

 小さく苦笑しながらそんなことを付け加えた由良に、思わずジェイクも笑う。

『そりゃいいや。気が合いそうだな、俺たち。』

彼が笑うと、彼の身につけているアクセサリーがこすれあって音を立てた。それが不快に感じられなかったのが不思議で仕方が無い。

『あんた、この国に来たばかりなの?』

「うん。昨日。」

 生い茂るバラが作っているアーチの傍を歩きながら、由良はぼんやりと答える。

 答えながらも、彼からの距離を測り、利き手をポケットから離さない。 

 彼は皮のジャンパーの懐を探り、端末を取り出して立ち上がった。画面に映る写真を由良に見せるようにゆっくり近寄る。

『これ、さっきの・・・あんたの彼氏だろ。』

 ジェイクの手の中にある端末には、確かに見覚えのある影が映っていた。

 ちょうど、昨夜のセイラのようにスーツを着た金髪の青年が自信に溢れた笑みを浮かべて手を上げている場面だ。

 ・・・似てる。

 そこに映っているのはセイラとしか思えないほどよく似ていたが、決定的に違っていた。髪が短い。セイラは背中の肩甲骨にかかるほどその金髪を長く伸ばしている。だが、顔立ちといい、瞳の色といいそっくりだった。

 ・・・似てるけど、ちょっと若い・・・かな?幼い?髪の毛のせい?セイラはこういう風には笑わないよね。

「凄く似てるけど、違うよ?見てたのならわかるでしょ、彼はあんなに髪が長いんだよ。この人とは違う。」

 ・・・それに彼氏じゃないし。

 じゃあ何なのか。

 自問自答する。

 ・・・保護者。うん、そうだよ、保護者。

『髪の長さなんかどうにでもなるじゃん。・・・どうやら、あんたは彼氏が何者なのか知らないみたいだね。』

 にやにやと笑いながらジェイクは端末を懐にしまった。

 由良は確かにセイラの事を何も知らない。

 被保護者が保護者の事を知らない。

 ・・・別にいいし。逆なら問題だけど、保護されてる方なのはこっちだから、別に知らなくても・・・

 知っているのはイギリスと日本のハーフらしい、ということ。料理が大好きで、喫茶店を経営していたこと。スポーツ医学にも詳しいらしい、ということ。彼の料理はどれも絶品で、凄く優しい人であること。誰よりも美味しい紅茶をいれてくれること。・・・ああ、そうそう、意外に身なりに感心がないってこととか。

「そうみたい。だから、私から何か聞きだそうとしても無駄だよ。」

 そう言って軽く片手を振ると、由良は元来た道を戻って、ホテルの中へ入って行った。

 ジェイクはにやにやと笑ったまま、また芝生の上に腰を下ろす。


「今夜はジャズバンドか。中々サービスがいいね。」

 ホテルに戻って来たセイラはまたスーツ姿で夕食に誘う。もう逆らっても無駄であることがわかっていたので、由良も大人しくしたがってダイニングへやってきていた。

 ビュッフェスタイルの夕食は好きなものを好きなだけ食べられるので、由良もありがたい。慣れてくるとそれほどに緊張せずに食事できるようになる。ちょっぴり不満なのはビュッフェにはスイーツが少ないことだった。

「何も変わったことは無かったかい?」

 香ばしく焼いたラム肉を薄くスライスしたものを、小皿の上で小さく切っていた。その手を止めないまま由良の方を見る。

「変わったこと?」

「何も無ければいいんだけど。」

「今日は、セイラが出かけた後はお庭を散歩して、それからジムを見つけたからそこで汗を流したんだ。このホテルって何でもあるんだね。凄くさっぱりしたよ~。」

「そう。よかった。大人しくしていてくれたんだね。」

 口を開いたついでにとばかりに、切った肉を彼女の口へ運んでくれる。

「おお、美味しいね!」

「ラム肉、はじめてかい?」

「うん!」

「マトンも悪くは無いけど、ラムがやっぱり好みかな。」

嬉しそうに小さな口を動かしている由良は、以前のように無邪気で可愛らしく思える。

 ・・・よかった。ひょっとしたら、このまま由良ちゃんは完全に治ってくれるかも。

「翻訳機を使っているね。誰かと話が出来たのかい?」

「うん・・・。あの、あのね。」

 表情をわずかに曇らせ、由良は少し迷った。

 どうせ、彼女の嘘など通用しないのだ。さっさと白状するほうが得策だった。

「知らない男の子が、庭園に入ってきてて、少しその子と話をしたよ。」

「知らない男の子・・・?」

「ちょっと柄が良くない感じだったけど。・・・ただ、セイラのことを知ってるみたいだった。」

「え?」

「なんか、喋る英語が難しくて、何を言ってるのかよくわかんなかったんだ。だから、さっさとホテルに戻っちゃったの。」

「僕を知ってる・・・?」

「なんか、誰かと間違えているんじゃないかなって思ったんだけどね。イギリスには、セイラみたいな外見の俳優さんでもいるのかな。凄くよく似た人の映像を見せてくれてたよ。」

 セイラの顔色が一瞬変わった。

 それを見逃すことは無く、由良は彼の表情を必死で読もうとする。

「心当たり、ある?」

 探られていることに気がついて、彼は堅くなった表情を和らげた。

「ないでも、ないよ。・・・今はちょっとなんとも言えないけれどね。」

 優しい声でそう言うと、彼はにっこりと微笑んだ。

「お腹いっぱいになってきた?実は、今日はお土産があるんだ。レストランの冷蔵室に入れてもらってる。出してもらっていいかな?」

「お土産?」

 ぱあっと由良の表情が明るくなる。

「・・・うん。気に入ってくれると思うんだけどな。」

 傍を通りかかった給仕の女性に、セイラが英語で話しかける。彼女はにこやかに答えて厨房へ戻り、白いプレートを二枚手にして来た。

「わあ、スフレケーキだ。」

 彼女がテーブルにプレートを静かに置いて、紅茶を持ってきて注いでくれる。

 甘いものを食べて頬が緩んだ彼女を、セイラは嬉しそうに眺めた。

 とろけそうに微笑む由良の表情がたまらなく愛おしい。小さな唇に吸い込まれていくケーキの欠片はあっというまになくなってしまう。

 ・・・いつか。こんな甘い、とろけそうな。

 憧れ続けている彼女の小さな唇を、思わず食い入るように見つめてしまう。

 ・・・キスをしてあげたいな。

 それは、以前からセイラの、ささやかな夢だった。いつか、彼女が自分を好きになってくれたら。

「コーヒーか紅茶のお代わりもらってくるね。」

ぺろりとたいらげた彼女は出来る限り静かに立ち上がる。彼女なりに、この場所へ気を使っているのだろう。

 厨房近くへ行って、給仕の女性に何事かを話しかけている。翻訳機はよく役に立ってくれているようだ。ビュッフェの傍らにあるカウンターテーブルに用意されたドリンクサービスで


、給仕の女性が由良の目の前でコーヒーと紅茶を入れてくれた。由良の目の前で茶葉から紅茶を淹れ、コーヒー豆を挽く。その様子を、真剣な眼差しで眺めている。

 順応が早い彼女の性格にはありがたいと思えた。言葉の壁さえなければ、あっという間にその場に馴染めてしまう。ホテルに滞在して二日目だと言うのに、彼女はすっかりこのホテルにも慣れ、従業員に声をかけることに抵抗もないようだ。

「おや、君はコーヒーを?」

「うん、ミルク付けて貰った。ブラックじゃ飲めないから。ミルクにあんなに種類があるなんてびっくりしちゃった。」

「僕には?」

「ダージリンでロー・ファットミルク。あったかいの。これでよかったかな?」

「及第点だ。」

くすくすと笑いながらカップを受け取る。セイラが紅茶にうるさいのは重々承知しているので、由良は安堵した。

「スフレ、とっても美味しかった。・・・手作りでしょ?」

「わかるんだね。君の舌はごまかせないな。」

「・・・セイラの作るケーキと同じ味がする。」

 席に腰を下ろした彼女は、コーヒーにミルクを注いだ。

「今日会ってきた人は、・・・僕に料理を教えてくれた人なんだ。特に、お菓子作りは厳しく仕込まれたんだよ。」

「そうなんだ!・・・セイラの、お料理の師匠ってワケだね?」

 由良の脳裏に、白い帽子をかぶった頑固職人が浮かぶ。パティシエとかそういう呼ばれ方だったのを覚えている。

 ・・・若い頃のセイラが、ペコペコ頭を下げて、『教えてくださいっ』とかしてたのかなぁ。

 想像の翼を広げて思わずぼんやりする彼女を見て、セイラは苦笑した。

「・・・多分、君にも会うことがあると思う。少し先の話になるだろうと思うけど。」

「いーの、いーの。気にしないで。職人さんってのは気難しいもんね。こんな素敵なお土産を頂いたんだから、私はそれだけで充分。」

 彼女の頭の中では、セイラの修行時代のようなドラマが出来上がってしまっているらしい。彼が一人前の職人になるまでの苦労を想像して、うんうんと頷いている。


 また翌日も、セイラは昼過ぎに出かけて行った。昨日と違うのは、タクシーではなく、黒塗りの車がホテルの玄関まで迎えに来ている、ということだった。

「遠くへは行かないでね。」

少しものものしい風貌の運転手が、後部座席のドアを開いてセイラを乗せる。

「うん、大丈夫。退屈してないよ。お土産楽しみにしてるね。」

 窓から手を振っていた彼を見送る。

 迎えの車のことが少しだけ気になったが、セイラ自身がまるで当然のように乗り込んで行ったのを見ていたので、自分が気にしても仕方が無いのだろうと思った。

 昨夜言っていた彼のお師匠というのは、実はそのくらい有名なお店のパティシエなのだろうか、などと考えてみたりもする。可愛がっていた弟子が帰国して、お迎えの車を寄越すほど有望な弟子で大事にされているのかもしれない。

 セイラの料理がいかに上等なものであるかを知っている由良は、自分の勝手な想像が理に適っている気がして、またもふんふんと頷いた。

『また、おでかけかい?』

 昨日とほぼ同じ場所から声が聞こえた。

 庭園のパラのアーチのそばに、昨日話しかけられたジェイクという青年が立ってこちらを見つめていた。

「何か、用?」

由良は素っ気無く返答する。

『あんたのこと、知りたくなってね。』

「知りたかったのは彼のことなんじゃないの?」

先ほど黒塗りの車に乗って走り去ったセイラの事を聞きたいのではないかと仄めかす。

『侯爵のことは調べれば結構わかる。でも、あんたとの関係はいくら探したって見つからなかった。だからあんたに直接聞くしかない。』

「また、難しいこと言ってるね。・・・昨日も言ったけど、私は彼の事は何も知らないし、私は彼女でもなんでもないよ。」

『彼女でもない女と同じホテルにお泊りしてる。・・・ワケありそうじゃん。』

「ジェイクはなんでそんなに私と彼の事を知りたいの?」

『そりゃ、勿論、金になりそうだから。』

「私は貧乏だよ?」

 由良が正直にそう言った途端に、青年は腹を抱えて笑い出した。余りに思い切り笑うので、翻訳機が間違った訳を伝えたのかとさえ心配になる。

『こんな上等なホテルに泊まってて、貧乏?』

「お金を出してるのは彼だよ。私自身は一文無し同然だから。」

 本当の事だ。由良はお金など持っていないし、金目のものなど一つも持っていない。日本からここまでの渡航代から宿泊代、何から何までセイラが支払っているはずだった。

 その答えが一層おかしいらしく、ジェイクは中々笑いを収めることが出来なかった。

 笑いすぎたのだろう、咳き込んでいる青年を見て、由良はやれやれ、と溜め息をついた。

「ちょっと、待ってて。」

 一言言い置いて、彼女がホテルの中へ小走りに戻っていく。

 その様子を、咳き込みながらジェイクはぼんやりと見つめていた。

 確かに、あの東洋人の娘の言う事は一理ある。こんな豪勢なホテルに泊まっていると言うのに、あの娘はいつも着古したようなジーンズとシャツ姿で玄関へ出てくるのだ。海岸を散歩しているときに見かけた服装もそうだった。化粧もしないで、薄汚れたスニーカーを履いてあるいていた。

 そして絶対に大物がかかったと狙いを定めている彼女の連れも、おかしなことにいつも安っぽい格好をしているのだ。メディアで見かける彼の姿は、ブランドもののスーツを隙なく着こなし、セレブの女性を侍らせ、自信に満ちた表情で周囲を圧倒する。美男子であることを差し置いても、あれだけ着飾っていれば威圧感があるだろうと思われるほどなのに、このホテルでみかける彼は、いつも穏やかに微笑み、ラフな格好で長い金髪をそのままに垂れ流していた。

 ・・・人違いにしては、似すぎている。お忍びって奴かと思ってたんだが。

 色々考えながら玄関を凝視していると、先ほどの娘が両手にカップを持ってこちらへ戻ってこようとしていた。

「はい、どうぞ。」

 淹れたばかりの熱いコーヒーをジェイクに一つ手渡し、由良も自分の分に口をつけた。

『くれるのか・・・?』

「うん。咳き込んでたし・・・ずっとあんなところで待ってるんじゃ寒いでしょ。」

 驚いて灰色の目を丸くしているジェイクに、

「毒なんか入ってないよ。このホテルで淹れたコーヒー、美味しいよ?」

笑いながら言う。

『・・・うまい。』

 冷えた身体に染み渡るようだった。

 思いもよらない差し入れに、ジェイクは驚きを隠せない。両手をカップに添えてゆっくりと飲む。

「ね?美味しいでしょ。」

『・・・ああ。』

「ここはさ、外部の人が入れないように厳しくしているから、もう来ない方がいいよ。うまく忍び込んでるつもりらしいけど、・・・明日も来てたらホテルのガードマンに報告するからね。」

『なんで、今日は、今日までは見逃してくれるんだ?コーヒーまで・・・』

 少しだけ、秀に似ているから。

 体格や瞳の色が違うから、別人なのははっきりとわかる。ただ、顔立ちがとても似ているのは、もしかしたら、と思えたからだ。

 秀の顔は整形用の見本として使われることがあると、以前刀麻に聞いていた。もしかしたら、このジェイクという青年もなんらかの病気や事故などで顔に傷を負って整形してこの顔になったのかもしれない。

 そう思うと、なんとなく見逃してあげたい気持ちになったのだった。

 人にはそれぞれ事情がある。この柄の悪そうな青年にもきっと何かがあるに違いない。その事情は由良には関わりのないことだけれど・・・。

「なんか色々教えてくれたから。難しくてよくわからなかったけど、彼に似ている有名人がいるってわかったし。」

『そうか。あくまであんたは、あの男は侯爵とは別人だって言い張るんだな。・・・ますますあやしいぜ。』

「その、侯爵マーカスっていうのがわからなんだよね。日本語に翻訳しても、私こんな言葉知らないし・・・。」

『今の日本には貴族などいないらしいからな。』

 ジェイクは飲み終わったコーヒーのカップを地面にゆっくりと置いた。

『明日には出入りできなくなるのなら、今日のうちにどうにかしないとな。』

 由良の持っていたカップが芝生に落ちる。幸い、割れはしなかった。まだ残っていたコーヒーが湯気を立てて芝生に吸い込まれていく。

 ジェイクは素早く由良の手をつかんで、そのまま庭園から海沿いの街道へ走り出そうと引っ張った。

「何、するんだ!」

 由良が抵抗して手を振り放そうとする。

 その力が意外な程強いことに驚いて、青年は振り返った。

 ぴしゃり、と由良の左頬を叩く。

『あんたを浚ってあの男から身代金でもふんだくろうと思ってたのさ。大人しく付いてきな。』

 つりあがった目が、大きく見開いた。

 由良は大きな声を上げ、青年の襟首をつかみ、勢いよく地面に投げ飛ばした。

 青年が更に大きな声で悲鳴を上げる。尻餅をついて、後ずさりをしながら逃げ出そうとする。腰が抜けてしまったらしい。そんな彼に追い討ちをかけるように、ポケットから抜いた剣を構えて迫る由良の姿は、鬼のように恐ろしかったことだろう。

 さすがにその頃になるとホテル側で騒ぎに気が付き、ガードマンや従業員達がかけつけて二人の間に入ろうとする。

 だが、一度暴走してしまった由良を止めるのは容易なことではなかった。

 剣をふりかざし暴れ回り、庭園を走ってジェイクを追い詰めようとする。ガードマンが数人集まってくるが、遠巻きにするだけで中々止めに入れない。すでにジェイクは体のあちこちに打撲傷を負っていた。由良の剣に叩かれてその程度で済んでいるのは、セイラが彼女のために誂えた武器の威力を弱めているからだった。

 警察へ通報され、ガードマンと警官が5人がかりで由良を押さえつけてようやく彼女の武器を奪う。

 だが、それでも由良はおさまらなかった。一度は取り押さえられても、再び彼らの手を振り解き、そのまま海岸線の方へ駆け出して行ってしまった。

 

駆け出して行ってしまった彼女。

やっと明るくなって、元に戻りつつあるかと、喜んでいたのに。

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