第53話-最強の意味-
「……だからどうだと言うの? あなたがインペリアルなら私に勝ってみなさい」
ショートソード2本で挟んだ槍の先端を上に弾き飛ばし
剣2本でステーリアに斬りかかる、しかし、ステーリアはそれを両手で持った盾で受け止め、ミナセに言う
「ふふふ……ははは、アイリアさんより強い人を倒せば私が『最強』
絶対に勝たせてもらいます……10年前の『亡霊』さん」
「勝手に亡霊にしないでもらえるかしら、私は足もあるし喋っている
ちゃんとした人間よ、お馬鹿ちゃん」
ミナセはステーリアを煽る、それはアイリスも気づいているし
ステーリア自身も気づいていて攻撃をしようと思うのだが……できない
それはミナセ自身がその場に立っているからである
人と言うのはその人物に『恐怖』した時、その人間が誰よりも大きく見える
その恐怖をミナセと戦う前にしてしまったのだが、ステーリアの内心は
恐怖でいっぱい、その恐怖を取り払うかのようにステーリアは盾を構えたまま
槍を取りに行く……その光景をミナセは黙って見ているのをアイリスは気になり
ミナセに聴く
「今の内に攻撃してしまえば……勝てたのでは?」
「そんなの面白くないじゃない、それに不意打ちするほど私は落ちぶれていない
人の心の在り方に鬼も神ないのだから」
「在り方って……相手は敵じゃないですか……」
それをアイリスが言った時、ミナセは悲しい目でアイリスに言う
「そうね、でも……相手も人間なのよ、たとえ敵、戦争だからと殺して良い
わけはない、殺されるから殺す……それも間違ってはいないんだけど
ねぇ……アイリス、あなたは殺した人の顔を覚えている?」
「え……覚えてはいないです」
「じゃあ、その人の名前は、家族は? 生活は?」
「敵なんだから……そんな事気にしてる余裕なんてないですよ!」
「そう、それならアイリスは戦う事をやめなさい」
ミナセは真面目な顔でアイリスに言った
その言葉をアイリス自身、頭ではわかっていても理解はできない
敵なのだから……とそう思いながら戦い殺して来たのかもしれない
もちろん、ミナセ自身も人は殺しているはず、じゃあどうしてこの言葉を
アイリスに投げかけたのか……それを理解できないでいた
「誰かを守るために武器を振るいなさい、誰かを助けるために武器を振りなさい
人を殺して、自分自身が『最強』と思われたいのは間違っているのよ」
ミナセがそうアイリスに言った時、武器を拾ったステーリアがミナセに襲いかかる
「ぐちぐちとうるさいのよ! これで終わり!」
ステーリアはミナセが話をしている隙を付いて槍を突き出した『つもり』
だが、ミナセにその攻撃は届かない……なぜなら、先端が折れているのだから
「強さを追い求めた結果、自分自身の武器すら見えていないのね」
ミナセは届かない槍の先端を見ながらそう言うとショートソードを仕舞い
背中の『ツヴァイヘンダー』を構え、ステーリアの横に回り込む
それに対抗するようにステーリアはミナセの方向へ盾を構える
「……そんなんで最強? 笑わせないでよ、それなら私の娘にだって負ける」
ミナセが上段から振り下ろした大剣はステーリアの盾を捉え、破壊した
何度も何度も攻撃を耐えた盾はミナセの重撃には耐えきれなかったのだろう
盾を貫通したステーリアはミナセの一撃に切り裂かれる
「……ミナセ隊長、そこまでする必要は……無かったのでは?」
アイリスがミナセに言った時、ミナセは地面に倒れたステーリアの体を漁り
ある物を見つける
「あったあった……やっぱりこの子か」
「なんですか? それ」
「私の予測通りね……はい、アイリスあげる」
ミナセは『それ』をアイリスに投げ渡す、それを受け取ったアイリスは
物を確認すると、それは紙を包んだ物……それを広げて中を見ていると
そこにはこう書かれていた
『強奪対象者』『売人リスト』『借金帳消し者』
名前だけ見ると、ステーリアが悪い奴らのリストを集めていたように見えるが
中身の強奪は金持ち、金を蓄えてそうな人間の名前だらけと金額
売人リストの方には『全て女性』の名前が記されていて
借金はインペリアルガード内部の借金の帳消しを要請する物
「こ、これって……まさか」
「そうよ、王都で『暗躍』してた人物の正体」
その中に第1階級の兵士達はいず、いるのは2階級から下の兵士達である
『これ』を見つけるためにミナセが動いていたかは定かではないので
アイリスが聴こうとしたその時、ミナセが喋り出す
「ああ、そうそう……アイリスが私にくれた昔のハンカチ
あれ、娘にあげちゃった!」
「私の昔……? あー! 10年前に私が貸したハンカチ、結局返さない上に
スティナにあげたってどういう事ですか?!」
「あの頃のアイリスは可愛くて……ハンカチに名前がひらがなで入ってるのよね」
「そ、それをスティナにあげたって……恥以外の何物でもないじゃないですか!」
「まぁまぁ、気にしない気にしない」
「気にします! さっさと返してください!」
「だから、私の手元にないって……」
2人が喋っていると、1人の兵士……肩には第1階級と書いてある
その人物がアイリスに話かける
「アイリスさん、お嬢ちゃん達のお陰で盗賊はなんとかなったが
身内の抗争はどうにもならない、援軍に来てくれないか?」
「わかった……ミナセさんも来てくださいね、ハンカチ弁償してもらうまで
逃がしませんから……!」
「はいはい、スティナのためにお母さん、頑張りますよ」
そう言って2人は兵士と共にインペリアルガードの群れに突撃して行く